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メサイア~MESSIAH~徹底解説

メサイア誕生まで

ヘンデルは1685年ドイツのハレに生まれた音楽家で(J・S・バッハも同年に生まれている)、教会での修行を経て当時の音楽の最先端であるイタリアへ渡ったのち、そこでイタリア・オペラといった最新の音楽を学んでいる。
ヘンデルはその後イギリスへ渡り、最先端のイタリア・オペラでヒットをおさめる。しかし、イタリア語で歌われる貴族趣味的なイタリア・オペラは、イギリスの民衆からの幅広い支持を集めることはできず、より大衆的な英語の風刺オペラに取って代わられてしまった(その代表格がジョン・ゲイの《乞食オペラ》)。
こうした状況でヘンデルが見つけた解決策が「オラトリオ」であった。オラトリオは、主に宗教的な題材を扱う、演技や舞台美術、衣装のないオペラのようなものである。ヘンデルはこのジャンルで、これまでに培ってきたイタリア・オペラの様式と英国の合唱の伝統を統合させ、宗教という普遍的な題材を扱うことで、再びイギリスで大成功を納めたのである。
こうした状況の中、1742年に作曲されたのが《メサイア》である。

このようにヘンデルは、大衆の動向に敏感であり続けた作曲家で、同い年のバッハ(定職につき創意工夫に富んだ作品を作り続けた)とは異なり、大衆にも理解しやすい音楽を作ることに長けていた。また、精力的に市民への演奏会活動をしているという点では、19世紀の市民音楽ブームを先取りしてもいる。ここに、初演以来数百年にわたって演奏されてきたヘンデル、《メサイア》の素晴らしさがある。

メサイア

チャールズ・ジェネンズの台本による。
救世主(メシア=メサイア)イエス・キリストの生涯を描く物語である。

  • 「第1部 救世主の告知。救世主であるイエスの降誕と生涯」(No.1-No.21)

  • 「第2部 キリストの受難による救済の成就。人間による拒絶。キリストの勝利」(No.22-No.44)

  • 「第3部 死者の復活と永遠の生命の賛歌」(No.45-No.53)

以上のように3部からなっている。
この作品の一番の特徴は、歌われる言葉全てが「語り(ナレーション)」であることにある。通常、オラトリオではオペラのように演技はなくとも、登場人物がおり、それぞれに言葉を発し会話する。しかし、《メサイア》においては全ての台詞がいわばナレーターなのである。引用元の聖書では、「I わたし」となっている文がここでは「He 彼」と変えられているのもこの叙事性(物語性)を強調するためである。イエス・キリストの物語を、演技や会話といった主観的な要素から解放することで、聴衆一人一人が自身のキリスト像・物語を浮かべることを可能にしているのである。
あくまで例えではあるが、劇での《桃太郎》と、おじいさんおばあさんなどの台詞を全てナレーター視点に切り替えた朗読の《桃太郎》ぐらいの差があるのだ。

演奏するにあたって

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