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第3章 放射線治療医の良くないところ 『中堅放射線治療医が見てきた医局と資格 (仮)』の草案

過去の内容はこちらのマガジンに保管しています。

本日は放射線治療医のメリットとデメリット。

本文はここから。


 では反対に、放射線治療医のデメリットはどんなことがあるのでしょうか。私が考えるデメリットは次の4つです。それは、潰しが効かないこと、就職先が限られること、開業は困難であること、他の科に比べて収入が高くないことです。
 ひとつずつ考えてみますね。

(上記は前回のつづき)

 まず、潰しの効かなさです。私は放射線治療の専門医ですが、放射線治療しかできません。制度上は、複数の専門医資格を保有することも可能です。これはダブルボードと呼ばれます。しかし、ひとつの専門医を維持しながら、別の専門医を改めて取得・維持していくのは現実的ではありません。
 また、専門医資格がなくても医療行為自体は可能です。例えば私が心臓の難しい手術を行うことも可能ではあります。しかし、自分の専門外の医療行為を行うことはリスクでしかありません。基本的には自分の専門領域の中でしか働けないのです。
 ですから、放射線治療医を辞めた場合、医師として働く方法は限定されます。転職ルートの候補は、今のご時世ならば、経験不問でも従事できる検診医、訪問診療医、それに美容外科医あたりになるでしょう。

 また、放射線治療医の就職先は限定されることもデメリットです。放射線治療を実施している病院は比較的大きい病院に限られます。日本全国の病院のうち約1割に過ぎません。医局の派遣先として就職が固定されている病院も多く、放射線治療医の募集も多くはありません。「民間医局」などの医師の就職サイトで検索するとわかりますが、放射線治療医の募集はそもそもなかったり、あっても少数です。
 私が今回の転職において、条件のよい求人に巡り会えたのは偶然に過ぎません。しかしながら、放射線治療医は少ないことを、病院側も通常は承知しています。ですから、求人が出ている場合には交渉次第でより良い条件が引き出せるかもしれませんよ。詳しくは言えませんが、私も今回の就職においては病院側と条件交渉をして、譲歩してもらえました。

 3つめのデメリットは開業が困難であることです。放射線治療では絶望的と
言ってもいいでしょう。私たち放射線治療医がよく使う教科書「がん・放射線療法第8版」(Gakken)では、放射線治療の医療経済に関するセクションがあります。そこでは、放射線治療の収支がシミュレーションされていますが、最終的な収支は赤字です。教科書が赤字と言っている中、開業するのは勇気が必要です。
 なぜ赤字になるのでしょうか。これは放射線治療のコストが高すぎるからです。まず治療機器。2022年の放射線治療機器の平均落札額は5.3億円でした(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202208037A-sonota22.pdf)。しかも治療器は1度買えばずっと使えるわけではありません。一般的に、10年ごとに買い替えが必要です。さらに放射線治療計画装置も数千万円。放射線が外に漏れないように分厚いコンクリートの壁を要した建屋も必要です。ここに治療計画のためのCT, 人件費として治療技師2名、看護師1名、受付1名と考えていくと、個人で放射線治療のクリニックを運営するのは不可能です。自由診療のあやしげなクリニックにしない限り、経営は成り立たなそうです。
 ただし、放射線治療医が持つ「がんの幅広い知識」を活かした方法ならば、開業の余地はあるかもしれませんね。

 最後に収入の問題です。民間のアンケートで診療科ごとの平均収入が紹介されることがありますが、放射線科の収入は控えめです。ただ、放射線治療医に限った平均は不明です。
 勤務医の収入は労働時間に比例します。残業が多ければ残業代がつきます。日直や当直をすれば、それらの手当てが支給されます。病院にもよりますが、放射線治療医は時間外勤務が少ない傾向にあると推測されます。そのため他の診療科と比較して収入は控えめになるのでしょう。
 ただし、勤務医においては、お金と自分の時間はトレードオフでもあります。収入が少ないことは、自分の時間が確保しやすいことの裏返しでもあります。

 私なりの放射線治療医に対する考え方をまとめます。潰しが効かなかったり、開業が困難であったりという制限はありますが、がんの治療に幅広く関わることができ、自分の時間も比較的確保しやすい、バランスのよい診療科だと思っています。
 私は放射線治療医は決して悪い選択肢ではないだろうと考えています。

 ではもし、今後若い先生が放射線治療医を志すとすれば、放射線治療の将来はどうなるのでしょうか。少し考えてみましょう。

(1700字)

累計文字数
はじめに 800
医局と臨床、研究 1600
医局と教育 1200
医局と人事 2400
医局の構成員 800
医局に入る研修医の割合 700
医局のメリット 1800
医局のデメリット、人事 900
医局のデメリット、人間関係など 1300
医局じゃなければ 1500
医局と私 1900
医局のまとめ 200 (医局関連で14300字)
専門医とは 1500
専門医を目指す研修医は90% 400
専門医のメリットとデメリット 1100
専門医をみんな持っている 1600
専門医のまとめ、学位へのつなぎ 400
学位とる研修医は30% 600
学位のメリット 1000
学位のデメリット 1400
学位と私 1400
論文の意義 2300 (専門医から論文までで11700字)
放射線治療医とは 700
放射線治療医のメリット①  1800
放射線治療医のメリットのつづき、デメリット 1000
放射線治療医のデメリット  1700

合計 32000

次回は放射線治療医の将来について考え、最後の医師免許について考える前フリまで進めたいと思います。

読んでいただきありがとうございました。

髙草木



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