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第2章 論文の意義 『中堅放射線治療医が見てきた医局と資格 (仮)』の草案
過去の内容はこちらのマガジンに保管しています。
今日は研究や論文についてまとめていきます。
本文はここから。
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研究や論文について、研修医の先生たちはどう考えているのでしょうか。残念ながら国が実施したアンケートでは、研究や論文に関する設問はありませんでした。参考になりそうなのが、アンケートの中の「臨床研修後に勤務を希望する病院等を選んだ理由」です。最大3つまで選択可能で、選択した理由の割合が高い上位3つは「専門医取得につながる」(36.5%)、「高度な技術や知識を習得できる」(35.0%)、「優れた指導者がいる」(30.8%)でした。
これに対し、「学位取得につながる」ことを理由に挙げたのは、研修医全体の4.8%にとどまります。やはり、学位についてはあまり重要視されていないのでしょう。また、「臨床研究が優れている」と回答したのは4.2%にとどまります。その他の項目に研究の文字はありませんでした。やはり、臨床が重要視され、研究はどちらかと言えば後回しにされる傾向がありそうです。
私も当初、研究することや論文を書くことには全然興味はありませんでした。大学院に入れと言われたので入学し、卒業するために論文が必要だったので、研究や論文に取り組んだに過ぎません。
その後も、自らの業績のために論文を書いてきましたが、研究や論文を経験してみると私なりに見えてきたことがあります。ここからは、研究や論文に関して私が感じた、メリットとデメリットをまとめてみますね。
論文を書いてみてよかった点は5つ。数えてみたら結構ありました。よかった点は、業績になること、達成感を得られること、褒められること、医学の歴史に足跡を残した気分になれること、そして、必ず誰かの役に立つことです。
一方で良くない点は、労力がかかること、お金がかかること、収入増加や労働環境の改善には結びつかないことです。
私たち医師にとって、論文は重要な業績です。論文を発表したということは、その分野の専門家であることの証といっても差し支えありません。とくに大学の医局においては、臨床や学会発表は業績として評価されず、業績とは論文を指します。
論文を書くのは、一般的には大変な作業なんですよね。だからこそ、業績として評価されるのでしょう。そのため、論文を発表できたら達成感を得られます。周りの医師も、論文を書くことの大変さを知っているので褒められます。
さらには、発表した論文は、PubMedなどで閲覧できるようになります。私たちがいつもお世話になっているPubMedに、自分の論文が掲載されているのは感慨深いものがありますよ。長い医学の歴史の1ページに、自分の足跡を残した気分に浸れます。大げさでしが、医師として生きた証を残せた、とも言えますね。
そして何より素晴らしいのは、論文は必ず誰かの役に立つことです。たとえ利己的な動機から発表した論文であっても、論文は利他的な性格を必ず伴うのです。
私の経験を少しだけ紹介します。私がこれまで発表してきた論文は、特にインパクトの高くないものばかりです。ある論文が掲載された翌月に、韓国に出張に行く機会がありました。韓国の放射線治療の医師と話す機会があったのですが、その先生が私の論文を読んでくれていました。その韓国の医師も、ちょうど同じような症例で悩んでいたらしく、私の論文を読んで、無事に担当患者さんの治療ができたそうです。まさか自分の論文を海外の先生が読んで、治療に活かされるとは思いもしませんでした。論文を書いてよかったなと素直に感じた、とても嬉しい経験でした。
しかしながら、良くない点で「労力」を挙げたとおり、研究や論文は大変です。研究テーマを決めて、研究して、結果を解釈して、論文を書いて、共著者に見てもらって、投稿して、査読対応をして。相当の時間がかかります。私は、初めて論文を書くとき4年かかりました。さすがにかかりすぎですが、少なくとも数か月は要しますし、1年以上の時間がかかることもあります。
さらには費用の問題もあります。英語で論文を発表するときに必要な費用は、英文校正と掲載費用です。英文校正は内容にもよりますが、数万円以上です。論文の掲載費用も、無料のものもありますが、私がこれまでの経験で多かったのは20-30万円です。研究費があれば、これらの費用を研究費で支払えます。しかし、研究費がなければ自腹です。自腹を切るにしては、ちょっと重すぎる金額ですね。私なら絶対に払いません。
そして、論文を発表したところで、金銭面での報酬はありませんでした。病院から表彰されたことを書きましたが、3年間でもらえたのは全部で賞状3枚と、名入りボールペン2本とタンブラーでした。外勤も禁止されるなど、労働環境も改善どころか改悪されるという始末。こうなると、論文を出しても直接的なメリットが見えにくいのが実情です。
なんだか後半は恨み言のようですね。ここで、私なりに考える論文の意義をまとめます。論文は業績や専門性の証明になり、誰かの役に立つのは事実です。しかしながら、書く労力の割には直接的な利益は感じにくいです。
ただし、業績を持っていることで心理的にはゆとりが生まれます。さらに、私が医局を退局することなく、自分の人事権を自分で保有している現状は、論文という業績を持っていることも大きく作用していると考えています。ですから、論文は私たち医師のキャリアの選択肢を広げてくれる可能性があります。
本章では、専門医や学位の意義に加え、論文の意義についても考えてきました。これらの資格や業績は、私たち医師のキャリア形成において、一定の利益をもたらしてくれるものだと言えそうです。
次の章では、そもそも医師免許はどういうものかについて考えてみます。また、放射線治療医というマイナーな診療科を、私自身がどう捉えているかも述べていきますね。
(2300字)
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累計文字数
はじめに 800
医局と臨床、研究 1600
医局と教育 1200
医局と人事 2400
医局の構成員 800
医局に入る研修医の割合 700
医局のメリット 1800
医局のデメリット、人事 900
医局のデメリット、人間関係など 1300
医局じゃなければ 1500
医局と私 1900
医局のまとめ 200 (医局関連で14300字)
専門医とは 1500
専門医を目指す研修医は90% 400
専門医のメリットとデメリット 1100
専門医をみんな持っている 1600
専門医のまとめ、学位へのつなぎ 400
学位とる研修医は30% 600
学位のメリット 1000
学位のデメリット 1400
学位と私 1400
論文の意義 2300 (専門医から論文までで11700字)
合計 26800
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これで2章まできました。
分量のバランスは悪くなさそうです。
あとは医師免許、放射線治療医について書くのが本来の構想です。
最終的にどうするかは書きながら考えます!
読んでいただきありがとうございました。
髙草木