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第3章 放射線治療医の良いところ 『中堅放射線治療医が見てきた医局と資格 (仮)』の草案
過去の内容はこちらのマガジンに保管しています。
今日から放射線治療医について考えます。
本文はここから。
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私が考える放射線治療医のメリットは、がんのことを広く扱うこと、がんを治すことから症状を緩和することまで幅が広いこと、人が少なくチャンスが多いこと、技術的な到達が早めであること、時間的な余裕があることだと考えています。ひとつずつ解説していきますね。
放射線治療医が扱う疾患はどんなものがあるのでしょうか。日本放射線腫瘍学会のデータを参照すると、放射線治療の対象疾患は、頻度の高い順に乳癌、肺癌、前立腺癌です。この3つで50%以上を占めます。
上位3疾患のあとは、頭頸部腫瘍、胃・小腸・大腸癌、食道癌、婦人科腫瘍、造血器リンパ系腫瘍、肝胆膵腫瘍、前立腺以外の泌尿器腫瘍、皮膚・骨軟部腫瘍、良性腫瘍、気管・縦隔腫瘍、その他と続きます。
非常に範囲が広いですよね。私たち放射線治療医が扱わないがんはない、と言っても全く過言はありません。薬物療法が治療の主役である白血病でさえも、骨髄植の免疫の反応を抑える目的で全身照射が行われます。
このように、放射線治療がカバーするがんの範囲は非常に広いのです。
さらに、治療の目的も広いのも特徴です。がんを治すことを目的とした根治的放射線治療だけではありません。
手術前後でも放射線治療は行われます。術前放射線治療と呼ばれます。術前放射線治療の目的は、手術成績の向上や、機能や形の温存です。代表例は直腸癌に対する術前照射で、それにより手術成績の向上だけでなく、肛門機能の温存 (つまり、人工肛門を必要としないこと) が得られます。
反対に術後放射線治療は、手術の後で目に見えないようなごく微小ながん細胞を殺すことで再発を予防することが主な目的です。代表例は乳癌の術後放射線治療です。乳房を残して腫瘍の部分のみを切除する乳房温存術では、術後放射線治療がセットで行われます。術後放射線治療によって、乳房内の再発リスクを下げるだけでなく、乳癌での死亡のリスクも下げます。
また、残念ながらがんを治せない状況においても放射線治療が役に立てます。代表例は骨の転移です。骨の転移により、痛みが出てしまいますが、放射線治療を行うことで痛みを緩和できます。こうした、症状の改善を目的とした放射線治療は、緩和的放射線治療や対症的放射線治療などと呼ばれます。病変が出てくる場所によって、痛みだけではなく、出血、消化管や気管などの狭窄、脳転移や脊髄圧迫による麻痺など、がんによる様々な症状の緩和に有効です。何かの腫瘍があって、それによって症状が出現しているなら、放射線治療によって改善できる可能性があるのです。
このように、放射線治療は対象となる病気の種類だけでなく、治療が必要になるタイミングも幅が広いことが特徴です。つまり、がん治療の専門家だと言えるでしょう。
しかし、放射線治療医はまだ少ないのです。2019年の日本放射線腫瘍学会の調査では、放射線治療施設は全国で842でした。これは、国内の全ての病院の10.1%にすぎません。842の治療施設において、1施設あたりの常勤医数は1.8人です。治療件数が多い病院では、多くの常勤医がいますが、治療件数が少ないほうから数えて46.7%の施設では、常勤医の平均は1人未満です。
治療医の少なさはチャンスが多いことと表裏一体です。私が群馬大学に入局を検討していたときに、「腐っても部長にしてやる」と当時の准教授に言われました。悪くない条件だなと正直思いました。
また、大学でのアガリのポストのひとつは教授ですが、教授になるためには業績が必要です。私はかつて先代教授にこう言われました。「おう髙草木、論文10本書いたら教授にしてやるからな」。この発言から、教授選に出るための最低ラインは論文10本であることが推定されます。一方で、真偽は不明で噂話の域を出ませんが、外科といったメジャーな診療科では教授になるためには論文が40-50本とか必要だったりするそうです。
教授になることが全てではありませんが、放射線治療医は確かにチャンスが多そうです。実際に群馬大学の医局からは、早いケースでは30代で教授になった先生もいます。40代も後半になると、そろそろ教授か?と目されるようになり、実際多くの先生が教授になっていました。大学の医局人事から外れた私も、5年程度のうちには部長職に就くことになりそうですから、当時言われた「腐っても部長」はどうやら確からしいです。
(1800字)
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累計文字数
はじめに 800
医局と臨床、研究 1600
医局と教育 1200
医局と人事 2400
医局の構成員 800
医局に入る研修医の割合 700
医局のメリット 1800
医局のデメリット、人事 900
医局のデメリット、人間関係など 1300
医局じゃなければ 1500
医局と私 1900
医局のまとめ 200 (医局関連で14300字)
専門医とは 1500
専門医を目指す研修医は90% 400
専門医のメリットとデメリット 1100
専門医をみんな持っている 1600
専門医のまとめ、学位へのつなぎ 400
学位とる研修医は30% 600
学位のメリット 1000
学位のデメリット 1400
学位と私 1400
論文の意義 2300 (専門医から論文までで11700字)
放射線治療医とは 700
放射線治療医のメリット① 1800
合計 29300
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次回は放射線治療医のメリットの続きと、デメリットについても書いていこうと思います。
読んでいただきありがとうございました。
髙草木