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「地上から塔の頂上へと、軽々と読者を運んでいく垂直の跳躍力こそがこの作家最大の魅力であると思う。今回はその跳躍力と、ダメな飛行機というコミカルなメタファが奇跡的な相乗効果を生み、稀に見る完成度の高い小説となっている。」(吉田修一氏の芥川賞選評コメントより)

第160回芥川賞を受賞した本作は、IT企業で働く主人公中本哲史、主人公の恋人で外資系企業に勤める田久保紀子、主人公の友人で小説家を目指す男ニムロッドの交流を描いた作品です。

主人公が勤めているIT企業は、サーバーの管理をする会社で、主人公の中本が、社内で未使用になっているサーバーを使った仮想通貨の採掘事業を任されるところからこの物語が始まります。

大手の外資系企業に勤める田久保が、恋人の中本と会うのは、大体、都内のホテルの一室で、二人は身体を交えたあと、ベッドの上で色々な話をします。

この小説の魅力は・・・

「この物語に適した言葉の選びかた、物語のはこび、細部の描きかた、読者の驚かせかた、などがとても優れていて、小説としての強度を感じます。」(川上弘美氏の芥川賞選評コメントより)

同じ会社の名古屋支店で働きながら、小説を書いているニムロッドは、主人公に書きかけの小説や「駄目な飛行機シリーズ」という文章をメールしてきます。

主人公中本とその恋人の田久保、そしてニムロッドとのやり取り(交流)によって物語が進んでいくのですが、その構成、セリフ、内容の組み合わせの絶妙さが、この小説の最大の魅力であるなあ、と思いました。

つまり『ニムロッド』は物語の展開とか、ストーリーで味わう小説ではありません。その魅力は、おそらく初期の村上春樹の小説、例えば『風の音を聞け』なんかに近いような感じがします。

移動距離は短いが、飛翔高度は高い

僕が『ニムロッド』を読みながら思ったのは、音楽のこと村上春樹のことでした。

音楽のことについて、僕はこの小説『ニムロッド』は、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの『Under The Bridge』やザ・ストロークス『Is This It?』やレディオヘッド『creep』などのように産まれるべくして産まれた名曲のようだと感じました。

芥川賞受賞作には、産まれるべくして産まれた名作が多くあると感じます。モブモリオ『介護入門』とか、村田沙耶香『コンビニ人間』とか、上手くデビューできたり、作家として成功するかは別として、産まれるべくして産まれた名作たる作品だなーと思います。

そして、村上春樹のことについては、単純に上田岳弘さんはきっと村上春樹に強く影響を受けているんだろうなーと感じました。「影響を受けている」というよりも村上春樹のテンプレを使っているなーみたいな感じです。

テンプレの文学は効率よく「なにか」を表現する

テンプレートって便利ですよね。目的に応じて、テンプレートを選択し、それを組み合わせて、情報伝達を最適化できます。テンプレートを使える我々は先人の知恵の恩恵を教授しています。

仕事でテンプレートを使って、あなたが考えた商品やサービスのプレゼンをする際、あなたはどうやって、あなたの持論を組み立てますか?

おそらく、あなたは、あなたの考え方に沿った、あなたの言葉を紡いで、そのテンプレートに落とし込んでいいくのではないかと思います。

商品やサービスの魅力って、テンプレートの魅力でなく、あなたの考えに沿った、あなたの言葉の魅力であるのではと僕は思います。

この小説も同じです。

おそらくこの小説は、上田岳弘が、村上春樹のテンプレートを使って、自分の考えに沿った自分の言葉を紡いでいった作品であると思います。

物語の最後の方で「交換可能」というキーワードが出てきます。

僕がこの小説について言及するところの「テンプレート」は、テンプレートそのものでもあり、メタファーでもあります。小説中には出てきませんので、これは僕独自の解釈です。

テンプレートは交換可能です。テンプレートを使って、プレゼンする人も、商品もサービスも交換可能です。しかし、あなたの考えや言葉は、交換可能なのでしょうか。

『ニムロッド』めっちゃおもしろかったです。おすすめなので、是非!いつも読んでいただいて、ありがとうございます。また読んでください。





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