LGBT法:自民議員「種の保存に反する」発言に見る、日本の政策の決め方の課題

 NHKによると、5月21日、自民党の内閣第一部会で、ある議員がLGBTに対し、「生物学上の種の保存に反する」などといった発言をしたと報じられています。この発言をした議員は「会議は非公開 発言内容 答えるのは控える」とコメントしたとのことです。
リンク:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210521/k10013044931000.html

 この話、日本の政策作りにおける問題点が如実に表れています。

■法律を作るのは、、、国会じゃない?


 法律の中身を決めているのはどの組織でしょうか?そう聞かれれば、日本は三権分立で…立法府は国会だから…答えは国会!となりそうですが、実態は違います。

 法律の大事な部分は、政府(行政府)と与党により作られています。

どういうことか。

 自民党の場合、国会で議論を行う前に、その法律案の内容でいく、ということについて、自民党内でゴーサインを出す手続きが必要です。

その確認をする場の一つが自民党の内閣第一部会です。

 今の国会は衆議院も参議院も与党が過半数を占めています。国会で法律の内容が変わることはほとんどなく、国会に提出されたものがほぼそのまま法律として世の中に出ます。
※2020年の201回国会で成立した閣法(各省庁がつくった法律)のうち約85%が修正なし。リンク:https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/kaiji201.htm

つまり、実態上、法律の中身に強い影響があるのは
・閣法(内閣が各省庁に指示して作る法律)の場合は各省庁と自民党、
・議法(議員が主導して作る法律)の場合は与党議員と自民党(議法は超党派で作る場合が多いですが、最終的に与党が賛成しないと通らないため)
になります。                                

 この自民党内の法案の事前確認、国会で自民党から大幅な修正が入る可能性が減るので、円滑な国会運営ができるという利点もありますが、課題もあります。

■ブラックボックスの中で政策が決まる


 自民党の部会は全員が賛成することが次のステップに進む基本的な条件です。ある政策に異論がある議員がいる場合、その議員の意見を反映させた修正がなされる場合があります。
 与党の手を離れた法案のほとんどは無修正で成立します。そうなると、国会議員の約半分しか占めていない与党の意見しか政策に反映されないことになります。しかも、その修正の経緯も部会の議論が非公開なら国民に見えません。

■自分の発言に責任を持たなくてよい。


 自民党の会合のうちの一部は、マスコミが中に入って議論の内容を聞くことができるものもありますが、今回の部会は報道によると非公開だったとのこと。
 その場合、議論が行われている部屋の外で記者は待機。そして、会議が終わった後、部屋から出てきた議員を記者が囲んで話の内容を確認するのが通例です。
 そうなると、今回のように発言内容を追及された議員が「会議は非公開 発言内容 答えるのは控える」といった塩対応も可能になります。実際の発言を記者は聞いていないので、追及の手も緩くならざるを得ません。
 過去にも、発言内容が問題となったことがあります。2020年9月25日、同じく自民党の内閣部会で杉田水脈議員が「女性はいくらでもウソをつける」と発言したと報道されましたが、本人は否定(毎日新聞)。朝日新聞によると、この時も部会は非公開だったとのことです。
リンク:https://www.asahi.com/articles/DA3S14637273.html
https://mainichi.jp/articles/20200925/k00/00m/010/128000c

■党内で意見が大きく割れる政策については、党内ではなく、国会で議論すべき
 

 LGBTに関する課題は、年齢などの属性により大きく意見が分かれる課題のように思えます。
2016年にも同様に議法を作ろうという動きがあったとのことですが、自民党内の異論により国会提出はされなかったのことです(時事通信)。
リンク:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021040800955&g=pol

LGBTのように近年注目が高まってきている課題については、2016年のように自民党の中で議論を終えてしまうのではなく、国会の場で議論をしてもらい、多くの議員の意見を聞くことが納得感のある政策の決め方じゃないか、と思っています。