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国会は相変わらずの紙、紙、紙… のアナログ祭りだった

1.中央官庁の業務改善はまだまだ途上だった

公務員の残業代も出るようになったし、議員からの通告も早くなったと聞きます。「やめたやつが口をはさむな」といわれそうなので、あんまり省庁の働き方には口を出さないようにしていたのですが…

内閣人事局のリリースをみて、まだ業務改善の必要があることを痛感し、思わずまとめてしまいました。

内閣人事局が公表した調査結果。これによると2022年の臨時国会会期中に最後の答弁がセットされた時刻が午前3時だったそうです。
参考:https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/r050120_chousa.pdf

午前3時…! 最後の答弁だとして遅すぎ…!

国会業務が過酷であることはよく知られてきました。国会議員の質問通告が遅いから、という理由もありますが、これを改善するには与野党の合意が必要で、簡単に改善できるものではありません。

実は行政内部の業務の効率化を図ることで改善できることもあります。
まずは、そっちを頑張ってみませんか、というお話です。

2.国会業務に付随する「紙」業務はこんなにたくさん

最近政府もデジタル化をしきり叫んでいますが、役所の紙文化はなかなかの強敵です。
たとえば国会中は、政府への議員からの質問に対する答弁を官僚が作成します。その中にはこんな「紙」業務があります。

✓確定した答弁の印刷
✓印刷資料へのインデックスはり(めくりやすいようにするためのシール)
✓答弁者や随行者に手渡し
✓答弁者への内容説明(早朝)

これらは深夜・早朝に差し掛かる作業で、とても大変なもののひとつです。

これがデジタル化されると、こうなります。

確定した答弁の印刷 → 共有フォルダに格納するだけ
印刷資料へのインデックスはり(めくりやすいようにするためのシール) →不要
答弁者や随行者に手渡し → 共有フォルダに格納するだけ
答弁者への内容説明 → オンラインで対応可能(朝5時起きしなくていい!)

これだけでもかなり楽になるはずです。紙ではなくタブレット利用が原則になりますが、国会での利用実態はどうなのでしょうか。

3.国会は相変わらずの「紙」祭りだった…

タブレットの国会への持ち込みは、衆議院の委員会では2020年11月から、参議院では2022年の4月から認められています。

参考:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66569250U0A121C2PP8000/
参考:https://www.jimin.jp/news/information/203179.html

「きっと皆さんタブレットを使っているはず!」

そう思って、今年2月1日の衆議院予算委基本的質疑(8時間!)を見てみました。基本的質疑は全大臣が出席するので、各大臣のスタンスが一通り見える確率が高い場面です。

結果は、紙を使わなかったのは質問者で1人、政府の閣僚で1人のみ(!)

ほかの質疑者、政府閣僚はみんな紙を相変わらず利用していたのです。 

あれ、全然デジタル化が政府内で浸透してないぞ…

■参考
2023年2月1日 衆院予算委基本的質疑(全大臣出席。〇が紙資料なし、またはタブレットベース)
質疑に立った国会議員 
〇自民・平議員、×自民・石原議員、×自民・宗清議員、×公明・庄子議員、×立憲・西村議員、×立憲・渡辺議員、×立憲・伴野議員、×立憲・落合議員、×立憲・大西議員、×維新・うるま議員、×維新・阿部司議員、×国民・斎藤議員、×共産・宮本徹議員、×無所属・仁木議員、×れいわ・櫛渕議員
政府の大臣など ×岸田総理、×松野官房長官、〇河野デジタル大臣、×西村経産大臣、×西村環境大臣、×鈴木財務大臣、×小倉こども政策担当大臣、×岡田万博担当大臣、×野村農水大臣、×斎藤国交大臣、×加藤厚労大臣、×文科省永岡大臣、×松本総務大臣、×浜田防衛大臣、

https://www.youtube.com/watch?v=kQUHystrnfA

4.役所側の答弁作成プロセスも改善点が結構ある

閣僚のデジタル化への姿勢も課題ですが、省庁内の答弁作成プロセスの効率化も道半ばです。

これまでの答弁作成までの流れはこんな感じでした。

‐議委会館で質問内容を議員に確認、議員会館から省庁に戻って文字おこしして問作成
‐担当者(係長としましょう)がPCで答弁作成
‐答弁案を課長補佐→課長→局長・関係課に協議→官房総務課で確認→大臣秘書官の順に確認・セット

この流れだと、以下のタイムロスが生じます

‐質問を聞きに行った人が文字起こしするまでの時間
‐文字おこしした後にセットする方針のすり合わせための会議の時間
‐役所内で役職順に決裁を取る時間

私の頃もありました。自分が作った答弁を、課長補佐がなおして、そのあとに課長が元の案にもどして、局長がさらに別の案にすることが…。無駄ですね。

このように答弁作成は結構時間がかかる仕組みだったのです。

5.省庁間の答弁クリアまでの仕組みを共通化すべき

改善の兆しも見えています。
1月20日に公表された内閣人事局の資料によると、いくつかの省庁では答弁作成までのプロセスが簡素化されているようです。

デジタル庁の事例では

質問とり後の認識合わせをデジタルツールで実施し、タイムラグを縮小
デジタルツール上で最新の答弁ファイルの共有
デジタルツールの同時編集で幹部まで一斉閲覧。局内決裁を簡素化
参考:https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/r050120_chousa.pdf

このように、デジタルツールをフル活用し、作業を徹底的に効率化しています。

「おお、役所もデジタル活用して効率化してるじゃん」

と思うかもしれませんが、これ、まだ一部の省庁だけなんです。
(全部の省庁でやっているならわざわざ資料にしません!)

いまだに、紙を持ちまわって幹部の確認を取っている省庁もあります。デジタル庁の好事例をすべての省庁に浸透させることが必要です。実質オンラインですべてが完結すれば、答弁を作り終わったら一度家に帰って、家事をしながら幹部の確認を待つこともできます。職員のWLBにもいいですし、効率的な行政運営にもつながります。

6.行政のデジタル改革加速のために、こんなことが必要

行政内部のデジタル化もうまくいっていないのに、日本のデジタル化がうまくいくとは思えません。

国会業務の効率化には、委員会の日程調整をはやめて、質問通告を早くする、という根本的な対応も大事ですが、行政内でもできることいっぱいあります。

まずは、全閣僚の委員会でのタブレット利用の義務付け。

これだけで資料印刷の手間やインデックスをはる作業がなくなり、効率化するはずです。せめて、政府内だけでも実施できないでしょうか。

そして、答弁作成プロセスの全省庁統一。デジタルツール活用の義務付け

デジタル庁では実現できているのにほかの省庁でできないわけがありません。全省庁的にチームスやスラックなどのデジタルツールを活用した答弁作成プロセスの簡素化を図るべきでしょう。

ぜひ政府のリーダーシップで実現してほしいと思います

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