使い捨てスプーンの有料化について

2021年3月9日に閣議決定された法案です。
昨今の報道を見る限り、愚策としか思えない法案です。
本当に愚策なのか、法案の内容、小泉環境大臣の記者会見の内容、マスメディアの報道内容(ネット記事)について、自分なりに確認してみました。

マスメディアの報道について

まず、報道でよく見る文は下記のようなものがあります。

"「これは、初めてプラスチックという素材に着目した法律です。例えば、無料で使い捨てプラスチックのスプーンやフォークが配られるということもなくなっていく。世の中が変わっていくことになると考えています」"

引用 : 専門家からも疑問の声…小泉環境大臣の「コンビニスプーン有料化」は的外れだ(週刊現代)
"小泉環境相は新法案について「コンビニでスプーンなどが有料化されれば、自分でスプーンを持ち歩く人が増えていく。こうしたことでライフスタイルを変化させていきたい」と述べた。"

引用 : コンビニでスプーン有料化検討、小泉環境相「自分で持ち歩く人が増える」(讀賣新聞)

これだけを読むと、レジ袋と同じようにコンビニのスプーンを有料化してマイスプーンを持ち歩くことを推奨する法案に見えます。私自身もバカバカしく思います。
1点目の元になっている全文は、下記の環境省のWebページで読むことが出来ます。報道では一部が端折られてますが、記者会見の内容とは大きな相違はないと思います。
2点目の「マイスプーン」のソースは見つけられませんでした。少なくとも小泉環境大臣の記者会見での発言ではありません。一体どこでの発言なのでしょうか。

コンビニのスプーンをタイトルとせず(タイトルに有料化が含まれていますが……)、"さまざまな使い捨てプラスチック製品の削減"と、ちゃんと記載されている報道もあります。(使い捨てプラ減らす新法を閣議決定 有料化など義務づけ 朝日新聞

1点目の週刊現代の報道記事は、スプーン有料化のみに焦点を当てています。スプーン有料化による環境負荷低減効果について疑問が残る点だけは同意しますが、法案の全体像を捉えていない偏見的な報道であり、邪悪な報道だと思います。2点目の読売新聞と3点目の朝日新聞の記事については、法案のスプーン有料化以外の項目についても説明さてれいます。2点目の読売新聞の報道記事については揺動的なタイトルが邪悪です。

記者会見について

2021年3月9日16:33~17:05の小泉環境大臣の記者会見を読んでいきます。

上記記者会見録を読むと、目的が使い捨てスプーンの有料化だけではないことがわかります。質疑応答の中で小泉環境大臣は、次のように述べています。

"むしろ、これで不十分だと。例えばヨーロッパの一部の国で議論が出ているように、プラスチックが使われている綿棒とか、例えば歯ブラシとかホテルのアメニティーですね、こういったものも禁止をしろと、そういった御意見を他の政党の方とかがお持ちであれば、そういったこともぜひ審議の中で提案していただいて、"

引用 : 環境省_小泉大臣記者会見録(令和3年3月9日(火)16:33~17:05 於:環境省第1会議室)

このようにホテルのアメニティの使い捨てプラスチックにも言及しています。不十分との認識もあるようなので、全ての使い捨てプラスチックについて考えていると思われます。

また、

"まず、プラスチックで言えば、値段とかそういったものとかはまだこれからです。そして有料化も、決定しているわけではなくて、これからまさに選択肢として議論の材料になるだろうということです。ただ、民間の動きを見ていますと、プラスチックのペットボトルにしても、国が規制をするよりも前に民間の業界団体は動いています。ですので、今回のプラスチック新法は、もう閣議決定をされて、関係する業界やメーカーはみんな血眼になって一言一句読んでいるはずですよ。その波及がどのような形でビジネスに及ぶか。これ、民間の皆さんのアンテナは相当高いですから。ですので、恐らく、私が想像するに、施行前にはもう動いてくるところがあるんじゃないですか、仮に成立したら。あとは、既にやっているところもありますよね。日本の民間の力は、この分野すごいですので。なので、この法律は、この法律ができて施行がされてから民間が動くということに加えて、もう既に頑張っている民間の企業が報われるような方向に動いていく後押しにもなる。雇用も、産業創出も生まれていく。そういったことだと捉えてほしいなと思います。"

引用 : 環境省_小泉大臣記者会見録(令和3年3月9日(火)16:33~17:05 於:環境省第1会議室)

長いので要点をまとめます。
・使い捨てスプーン有料化は手段の1つで、有料化以外の選択肢もある
・民間主導でプラスチックの資源循環について動くことを期待する(現にペットボトルについては、民間の業界団体が動いて高いリサイクル率を誇る)
・資源循環に取り組む民間が報われるようにする
・雇用や産業創出を生む

使い捨てプラスチックをどうにかする、というだけでなく、プラスチックの資源循環や、さらには雇用創出、産業創出まで見据えているようです。

法案について

使い捨てスプーン有料化の根拠となる法案は、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」(プラスチック新法、プラ新法、プラごみ削減新法、プラスチック資源循環促進法、などとも呼ばれています)です。環境省と経済産業省のページから見ることができます。

環境省の概要を見ると、とっつきやすいかもしれません(環境省の概要は全2ページ、経済産業省の概要は全1ページ)【概要】プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案 [PDF 777 KB]

次に、法案の目的の部分を見てみましょう。

(目的)
第一条 この法律は、国内外におけるプラスチック使用製品の廃棄物をめぐる環境の変化に対応して、プラスチックに係る資源循環の促進等を図るため、プラスチック使用製品の使用の合理化、プラスチック使用製品の廃棄物の市町村による再商品化並びに事業者による自主回収及び再資源化を促進するための制度の創設等の措置を講ずることにより、生活環境の保全及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

引用 : プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案

先ほどの「使い捨てスプーン有料化」は、目的の一つである「プラスチック製品の使用の合理化」の部分のみに当てはまります。

「プラスチックに係る資源循環の促進等を図る」ために、事業者(製造・販売事業者、小売・サービス事業者、排出事業者)、消費者、国、地方公共団体(市町村)が行うべきことなどが書かれています。

どんなことが書かれているかと言うと、
・プラスチックごみを増やさないようにしてね
・プラスチックごみを回収してリサイクルしてね
・プラスチック製品を作るときは、リサイクルしやすい形状にしてね
・積極的に取り組む事業者にはメリットを与えるよ(※消費者に与えられるメリットは無い)
・項目によって芳しくない場合は指導とかするよ

さらに細かい内容については、詳しく説明してくれているブログがあったので、紹介します。

まとめ

報道からは「使い捨てスプーンの有料化」の印象が強かったですが、複数の報道記事の内容を熟読したり、小泉環境大臣の記者会見録や法案を熟読したりすると、それだけでは無いことが分かりました。
プラスチック製品の設計段階で環境配慮型にするところから始まり、製造その他の事業で発生するプラスチック副産物の抑制、消費者への販売提供時の削減、使用後のプラスチックの排出、回収、リサイクルまで、プラスチックの広い範囲のライフサイクルを対象にした法案だと言うことが分かりました。

マスメディアは使い捨てスプーン有料化、マイスプーン普及について強調しすぎて報道していると思います。マイスプーンに至っては、記者会見でも小泉環境大臣は発言すらしていません。「『コンビニスプーン有料化』は的外れだ」という報道の仕方が的外れです。
一方で小泉環境大臣、及び環境省は、プロモーション、告知が下手だと思います。消費者への負担を求める点(使い捨てスプーン有料化)については反対ですが、環境問題への取り組みとして評価される部分も多くあるはずです。しかし、マスメディアに面白おかしく、マイスプーンを強調した批判されるような内容で報道されてしまっていて、残念だと感じます。
今後、多くの人にとって良い形で、かつ環境負荷低減に効果がある形で、より具体的な内容が決まってくれることを願います。

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