タカヒロト
はじめに:あらすじ A美術大学の敷地の隅。昭和初期に建築されたビル。そこに先端デジタル美術研究室がある。 「ここ むかしは倉庫街区の監視塔だったんだ」 「あの子は…?」 「湊ハル 高校3年生」 ハルは、校内の中庭で芝生に横たわる呈と出会う。 「変わった人だな……」 「あの人は誰だろう どこかで見た気がする」 「紹介しよう ニューヨーク大学芸術学部から来た 高森呈先生」 実習風景。呈は、准教授が作った課題のファイルをゴミ箱に放り込む。 「アーティストなら 作品で
11年前。暑い夏の日に起きた事。 午後のまだ高い日差しの下、私は郊外を後にして市街地へと車を向けていた。 カーオーディオからは、映画音楽が響いていた。 物語は、理科教師が手製の原爆で政府を脅迫する、大犯罪サスペンス。 しかし、その旋律は優雅で心地よい。 交差点に差し掛かり、車を停めた。 フロントガラス越しに見えるのは、赤く灯る信号機。 遠くには運河にかかる橋、拡がる青空。 横断歩道を渡る歩行者たち。 すると私の車の前を、部活動のバッグを背負った男子高校生が通り過ぎて
第4話:市立病院 ○市立病院・病棟・全景 ○同病棟・4階 デイルーム 入院患者の高森呈は、病衣とパーカーを着て歩いている 給茶機に、くまのイラストがプリントされたカップを置いてボタンを押す くまちゃんカップを手に、歩きだした呈 同じく入院患者の山賀宏(50)が近づいてくる 山賀は、杖をついて茶を汲みにきた 呈「山賀さん 持ちましょうか?」 呈は左手に、自分のくまちゃんカップを持ち 右手に 山賀の手作り風のカップを持って歩く 山賀「あー 悪いねー 助か
第3話:朝の湊邸 ○住宅街(早朝) 明けきらない空 街は静寂が広がっている ○湊邸・キッチン(早朝) ハルは丁寧におにぎりを包んでいる 傍には焼いた塩鮭、自家製の梅干しなどのフレーバーがある テーブルの上に、大皿に盛られた10個以上のおにぎり ○湊邸・玄関 玄関のドアを閉めて施錠して出かけるハル カバンをふたつ肩から提げている ひとつは大きなランチバッグ ○同・美和の寝室 ハルの母 美和はハルが玄関を閉める気配で目を覚ます ○同・階段からダイニング
第2話:A美術大学 ○A美術大学・全景(4月、朝) ○同大学・校庭(朝) 桜の枝に花芽 高校の制服を着た湊ハルが、校庭を走っている ○同大学・塔と呼ばれる実習ビル・玄関(外) ハルが玄関に入っていく ○同大学・塔・屋上(4階建ビル) ハル、ひとりで屋上に上がり、スクールバッグからカメラを取り出す 眼下の`古い倉庫が新しい建物にリフォームされている風景`を一枚の写真に収める ○同大学・塔・1階事務室 事務職員の吉岡智子(24)と、高森呈は応接用の席に向かい