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【リーダーシップ】リーダーシップ研究に関するミクロ・マクロ理論を統合する「メソ・アプローチ」とは?(竹内&竹内, 2009)

リーダーシップ研究の全体像を知りたい、と文献を調べていたところ、個人の(主に)心理的要因や、組織の状況的要因を明らかにした論文が見つかりましたので、レビューしてみたいと思います。

竹内規彦, & 竹内倫和. (2009). リーダーシップ研究におけるメソ・アプローチ レビュー及び統合. 組織科学, 43(2), 38-50.


どんな論文?

この論文は、リーダーシップの研究を「メソ・アプローチ」として3つの類型、行動的・文脈的・関係性アプローチに整理したものです。

メソ(Mezzo)とは「中間の」という意味の言葉です。この論文によると、「研究の文脈で用いられるメソとは,組織が本来もつ心理学的かつ社会経済学的なプロセスを統合した組織過程の研究におけるミクロ・マクロ両理論の統合を指す」とのこと。

つまり、これまでのリーダーシップ研究を、リーダー個人×リーダーとメンバーという集団関係×メンバー個人といった複数の階層における影響過程が同時に検討されること、を指しています。

まずは、イメージ図を見ていただくのが、感覚的に理解しやすいかと思います。

P41

例えば、モデル2の文脈的アプローチの類型にあてはまるものとして、以下の先行研究モデル(組織文化が、LMXに直接影響するパスと、メンバーの公正知覚がLMXに与える影響を調整するパスがある)が紹介されています。

P43

また、モデル3の関係性アプローチに関しては、以下のような研究モデル(リーダーの上司、リーダー、メンバーそれぞれの間における交換関係のパス)が想定されています。

P45

各アプローチの詳細

文献で紹介されている、行動的・文脈的・関係性アプローチ、それぞれについて詳しく見てみます。

1.行動的アプローチ
リーダーの行動が,直属のメンバー(部下)の態度・行動変容を促し(上位レベルで影響),さらに,影響を受けたメンバーがリーダーとしてその下の直属部下の態度・行動変容に影響を与える(下位レベルで影響)というモデルです。

例えば、リーダーの資質や行動が,部下や部下集団の態度・行動変容に働きかけることを前提とする特性及び行動アプローチ,ないしは最近の変革型リーダーシップ研究などが、このアプローチに該当する、と説明されます。

2.文脈的アプローチ
組織的な文脈が,個人ないしは集団のリーダーシップ過程に与える影響を考
慮したモデルです。組織の制度,構造,文化,風土などの諸文脈が,リーダーからメンバーに与える行動変容の過程,もしくはリーダー・メンバー間の関係性の質など,広義のリーダーシップに与える影響をモデル化しています。

このモデル2は,リーダーシップ研究の行動的な視点と、関係的な視点との両者からのアプローチが可能とのこと。文脈的視点に依拠した場合,効果的なリーダー行動やLMX の質は,組織におけるより広い文脈(制度・構造・文化・風土など)によって条件付けられる、という視点をもとに研究が組み立てられます。


3.関係的アプローチ
リーダーとメンバーの「関係性の連鎖」に着目したモデルです。
①上位レベルでのリーダーとメンバーとの関係性の質が,下位レベルでのリーダー(実際には上位のリーダーとの関係によって影響を受けるメンバー)とその部下であるメンバーとの間におけるリーダーシップにどのような影響を与えるか,
また逆に、
②下位レベルでのリーダー・メンバーの関係性の質が,上位レベルでのリーダー・メンバー間のリーダーシップのあり方にどのような変化をもたらすか,という2つの影響過程を図示したものです。

近年,1階層でのリーダー・メンバー間の交換関係をLMX と呼ぶのに対し,更に上位のリーダーと「リーダー」間の交換関係をLLX(leader-leader exchange)として概念化する研究が公表され始めているようです。
こうした、上司の上司と、上司と、メンバーの上下2階層間での影響過程に関する関係性が扱われます。


マルチモデル媒介効果・調整効果

著者らは、こうしたメソ・アプローチを適切に分析するためには、階層の異なるデータを扱う「マルチモデル分析」が必要、と説明します。

以下に、文献内で紹介されている、マルチモデル媒介分析と、マルチモデル調整分析のイメージ図を掲載します。

マルチモデルでの分析を検討している研究者にとっては、まさにこういう図を求めていた!という感じではないでしょうか。(自分だけかも?)

P46

マルチレベル媒介効果は、媒介変数が上位レベルにあるか、下位レベルにあるかで2パターンが考えられます。

P47

マルチモデル調整効果の方は、独立変数が上位レベルと下位レベル、どちらにあるかによって同じく2パターンあるようです。

感じたこと

まさに、こういった論文が欲しかった!というものでした。

現場感覚としては、メンバーの行動に影響を与えるのは、組織の文脈的な要素であったり、上司の上司からの連鎖的な影響だったり、あるいは、関係性であったりと、さまざまな要因が考えられます

一つの階層レベルでの研究だと、こうした文脈的要因、関係的要因が考慮しにくい一方、2つの階層以上となるマルチモデル研究は、以前の投稿でも記載した通り、データを集めるのがとても大変、という難点があります。

もう一つ難点があります。それは、統計的な分析や、適合度の検証がとても複雑で難しいこと・・・。

そのため、研究の数はそこまで多くありませんが、今後、組織の複雑な要因を見ていく、マルチモデル分析はさらに進んでいくだろうといくつかの研究でも指摘されており、しっかりキャッチアップしたいところです。





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