見出し画像

【ダイバーシティ】職場の変化や多様化で求められるようになった「異質性をもとにしたチームワーク」のポイント(太田, 2020)

職場の変化や多様化によって、求められるチームワークが変わってきているようです。ダイバーシティが進む中でのチームワークについて書かれた文献です。

太田肇. (2020). 日本企業における協働のあり方 チームと個人の関係性に注目して. 日本労働研究雑誌, 62(7), 50-58.


どんな論文?

この論文は、日本企業の働き方について、特に「チーム」と「個人」の関係に注目し、「チームワーク」がどのように変わってきたかを示したものです。

昔の日本企業では、同じような考えや価値観を持つメンバーが協力する「同質性を基本にしたチームワーク」が強みとされ、高い生産性や国際競争力をもたらす一因にもなっていました。
ところが、技術革新や労働力の変化にともなってそのようなチームワークが通用しなくなり、今では多様な考えを持つ人々が集まる「異質性を基本にしたチームワーク」が求められるようになったとのこと。

日本企業における労働力の変化とはどのようなものでしょうか?

具体的には、女性の進出と雇用形態の多様化が進み、1985年と比べて2018年には女性の労働力割合が大幅に増加し、非正規雇用者も増加しているようです。

また、フリーランスとして働く人も増加しており、企業との協働が一般的になっていることや、グローバル化によって日本企業は異なる文化や習慣を持つ労働者と協働する必要が生じていると指摘されています。

筆者は、組織と個人の関係性を「直接統合」と「間接統合」という2つのモデルで説明しています。


直接統合と間接統合

直接統合は、個人が組織の目標を自分の目標として受け入れる方法です。つまり、組織の目的が個人の目的と一体化しており、個人は組織のために働くことで自分の目標を達成します。

例えば、組織の利益を上げることが個人の目標にもなるようなケースです。この場合、個人の行動は組織の目標に直接結びついています。

一方、間接統合は、個人が仕事を通して社会や顧客のニーズに応えることで組織に貢献する方法です。個人はニーズに応えることで自己実現を図り、その成果が組織の目標達成にもつながります。

例えば、研究者が新しい技術を開発し、その技術が市場で成功することで組織の利益に貢献する場合です。新技術の開発が、それが自己実現や能力感,自己効力感のような心理的報酬をもたらすのみならず,技術者としての社会的評価や自分の市場価値を高めることにもつながります。
このとき、個人の目的と組織の目的は直接一致せず、外部の要因を通じて統合されます。

筆者の過去の研究では、事務系の専門職では、間接統合の方が、個人の満足度や企業の成果にとって効果的であることが示されています。


文化と統合のジレンマ

論文では、企業経営において「分化」と「統合」のバランスをどう取るか、つまり分化と統合のジレンマが長年の課題であることが論じられています。

分化とは、組織内のさまざまな部門や個人がそれぞれ異なる役割や目標を持ち、それぞれの専門性や特性を発揮することを指します。
分化が進むことで、個々の部門や個人がより自律的に、特定の外部環境や市場に適応しやすくなります。しかし、分化が進みすぎると、組織全体としての一体感や協力が失われ、組織力が低下するリスクがあります。

統合とは、分化した部門や個人を全体として調和させ、組織全体の目標を達成するために協力させることです。統合を進めることで、分化によるばらつきを抑え、組織全体の効率や効果を高めることができます。
ただし、統合が強すぎると、個々の部門や個人の多様性や自律性が損なわれ、創造性や柔軟性が低下する可能性があります。

このジレンマを解決するために、ローレンスとローシュが提唱した「分化と統合の理論」では、異なる環境に対応する部門ごとに分化を進めつつ、それを統合する仕組みが必要とされます。
企業においても同様に、組織と個人の関係において分化と統合の適切なバランスを見つけることが、企業の成功に不可欠であると結論づけています。

先ほどの「直接統合と間接統合」を、この分化と統合の観点で整理すると、

  • 直接統合は、統合に重点を置いたアプローチと言えます。個人が組織の目標をそのまま受け入れ、組織全体の目標に向かって一致団結して行動します。分化が進むと個人の独自性や多様性が損なわれるリスクがありますが、組織全体の調和を重視しています。

  • 間接統合は、分化と統合を柔軟に組み合わせたアプローチです。個人は自分の目標を追求しつつ、外部の市場や社会のニーズを通じて組織に貢献します。これにより、個人の自律性や多様性が尊重される一方で、結果として組織全体の目標にも寄与する形になります。

そのため、「異質性を基本にしたチームワー ク」が有効に機能するためには,間接統合の視点を踏まえて、分化と統合を柔軟に組み合わせること、
つまり、自分のやりたいことの輪と、組織でもとめられることの輪を重なり合わせること(エンゲージメント)が必要になる
、と言えそうです。


感じたこと

直接統合と間接統合、という観点は初めて耳にしましたが、イメージとしては、自分軸と組織軸の融合とか、上述したような輪の重なり、ということかなと感じました。

多様性の文脈でよく目にする、分化と統合についての理解も深まります。チームワークの変化を捉えるのによい文献です。




いいなと思ったら応援しよう!