見出し画像

【リーダーシップ】チームと個人、2つのレベルでエンパワーメントの重要性を示したマルチレベル研究(Chen et al.,2007)

本日も、マルチレベル研究(組織風土やチームの状態といったチームレベルと、個人の認知のような個人レベルを一緒に扱う研究)を取り上げていきます。

この投稿を見てくださっている方から、もう少し短い方が良いのでは?という貴重なアドバイスがありましたので、なるべく短めにまとめるよう、とはいえ、自分のアウトプットのためには押さえておきたい点を網羅できるよう、工夫していきます。

Chen, G., Kirkman, B. L., Kanfer, R., Allen, D., & Rosen, B. (2007). A multilevel study of leadership, empowerment, and performance in teams. Journal of applied psychology, 92(2), 331

どんな論文?

この論文は、リーダーシップ、エンパワーメント、パフォーマンスに関するマルチレベルの影響関係を、ある企業の31店舗・62チーム・445人メンバーに対する調査から分析したものです。

マルチレベルの研究はなぜ有用かと言うと、例えば、チームへの働きかけと個人の働きかけを同時に分析することで、どちらが成果に効くかを比較出来たり、チームの風土と個人の行動、相互の影響度合いを調べたり、という点があげられます

多くの研究は、個人レベルは個人レベルで統一、チームレベルはチームレベルで統一されます。マルチレベルは、データを取るのも分析するのも非常に大変だから、です。。。

前者(個人レベル)の例は、インクルーシブ・リーダーシップに対する部下の認知度合いが、部下の革新的行動に対する影響を調べる、といった研究、
後者(チームレベル)の例は、インクルーシブな組織風土が、チームのイノベーション度合いに対する影響を調べる、といった研究があげられます。

この論文では、リーダーシップ、エンパワーメント、パフォーマンスの3つの要素を、チームレベル・個人レベルの両方の観点から、メカニズムを明らかにしています。モデル図は以下の通りです。

P332

扱った変数の補足

この図を見ただけでは解読が難しいほど複雑なので、簡単に補足します。

チームレベルの変数は、以下の3つです。

  • リーダーシップ風土:チームで共有された上司の(チームを鼓舞するような)リーダーシップのこと

  • チーム・エンパワーメント:「このチームは、とても生産的であると信じている」といった、チームのエンパワーメント(自信、能力、意義など)を表すもの

  • チーム・パフォーマンス:店舗マネージャーが、チームの成果を評価したもの

個人レベルの変数は、以下の3つです。

  • LMX(Leader-Member-Exchange):リーダーとメンバーの関係の質に対する、メンバーの認知

  • 個人エンパワーメント:「私は、自分の仕事をする能力に自信がある」といった、自分自身に対するエンパワーメント(自信、能力、意義などの感覚)のこと

  • 個人パフォーマンス:チームリーダーが評価した、各メンバーのパフォーマンスを平均化したもの(メンバーが10人いたら、リーダーが10人分のパフォーマンスを12項目の設問から構成される尺度で評価。これはすごい大変・・・!)

これら6つの変数間の関係を、上の図のようなメカニズムであると仮説を立てました。H1~H6のうち、H3以外の仮説は支持されています。

なお、この研究では、チームを2種類に分け、相互依存的なチーム(互いにメンバー同士が関わり合う)とそうでないチームのそれぞれで、メカニズムを検証しており、相互依存的なチームの方が、有意な差が多く見られたようです。

得られた知見

大変示唆に富んだ結果なのですが、マルチレベルで、かつ変数をたくさん扱っているため、とても複雑です。個人的に興味深い部分を挙げると、

①リーダーシップがパフォーマンスに繋がるためには、チームでも個人でも「エンパワーメント」が重要である(エンパワーメントが両者を「媒介」する)

チームのエンパワーメントと、個人のエンパワーメントは相互に影響し合っている(組織風土と個人の認知は、たがいに「鶏と卵」の関係のようなもの)

③マネジャーが、個々のチームメンバーとチーム全体をエンパワーするためには、異なる戦略を取る必要がある(以下、文献の引用です)

我々の研究は、マネジャーが個々のチームメンバーとチーム全体に力を与えるためには、多少異なる戦略を用いるべきであることを示している。個々のチームメンバーをエンパワーメントするために、チームリーダーはチームメ
ンバーと高いレベルの相互信頼と尊敬を築くようにすべきである。チーム全体をエンパワーメントするためには、チームリーダーは、チームメンバー全員に十分な自律性と責任を委譲し、意思決定にチームを関与させ、可能な限りチームの自己管理を促すべきである。個人とチームのパフォーマンスの間に検出されたクロスレベルの関係は、さらに、マネジャーが個人的にも集団的にもメンバーに力を与えることで、最適なレベルのチーム効果が達成されることを示唆している。したがって、チームリーダーは、チーム内の個人が重要であることを認識し、メンバー個人とチームの両方の動機づけとエンパワーメントに注意を払うべきである

P355

感じたこと

ここでは、特に分析結果の詳細を載せていませんが、62チーム・445人のN数で、ここまでキレイに仮説が支持されるような統計的な分析結果が得られたことにまずは驚きました。

実際、探索的にモデルをいくつか作ってみて、適合度が高くて意味のある結果が導かれたものを使用しているだけかもしれません。

先行研究の中には、チーム数が100以上ないと、頑健な結果は得られない、というものもあるので、慎重に見る必要はありますが、シンプルに、意味のある結果が得られたことが素晴らしいと思います。

また、チームリーダーやマネジャーが、個々人とチーム、両方をエンパワーするために違ったアプローチを行う必要性も、マルチレベル研究で、同時に個人・チームの変数を扱ったからこその指摘であり、価値があると感じました。

まだまだ、マルチレベルは奥が深いので、もう少し理解度を高める必要がありそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?