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【社会的交換理論】リーダーシップの相互作用を支えるグラウンド・セオリーとは?(小野、2011)

今回から数回に分けて「社会的交換理論」と呼ばれる、さまざまな研究のベースとなるような理論(グラウンド・セオリーと呼ばれます)について扱っていきます。

まずは、リーダーシップ論と社会的交換理論の関連性を論じた、以下の論文を紹介します。

小野善生. (2011). リーダーシップ論における相互作用アプローチの展開. 関西大学商学論集, 56(3), 41-53.


どんな論文?

この論文は、社会的交換理論に依拠した主要なリーダーシップ研究を調査し、その発展の経緯を考察したものです。

いわゆる「交換型リーダーシップ(Transactional Leadership)」として、Hollanderの特異性・信頼蓄積理論や、LMXなどが代表例として挙げられますが、これらの拠って立つ理論こそ、この社会的交換理論(social exchange theory)です。

リーダーシップ研究においては、「リーダーがフォロワーに及ぼす影響力」に注目されるようになっています。
その影響力の発生過程で、フォロワーによるリーダーシップ受容も重んじる「相互作用アプローチ」がベースとして論じられています。

「リーダーシップ=リーダーとフォロワーの相互作用」、つまり、リーダーとフォロワーが相互作用の中で、リーダーからの報酬と、フォロワーとしての服従を交換する、と捉えて論じているものです。

社会的交換とリーダーシップ

本論文で紹介されている、Homansの『社会行動ーその基本形態』において、社会的交換とは「二者間で特定の利益を獲得するために互いの資源をやりとりし合うこと」と定義されます。

そこでは,公平に交換が行われること,そして,行為に対する確実な返報性が重んじられます。Homansは、このような社会的交換理論の観点から、リーダーシップは、リーダーがフォロワーに下す指揮(command)と捉えています。

そのような関係の中で,どのようなリーダーシップにまつわる社会的交換がなされるのかというと,リーダーが繰り返して命令(order)や提案(suggestion)を行い,それに対してフォロワーが繰り返して服従するというものだとのこと。

このような交換が成り立つ背景には,その過程においてリーダーはフォロワーから服従を得るために報酬を与え,フォロワーはリーダーから報酬を得る代わりにリーダーの命令や提案に服従するという取引(=社会的交換)が成立している、と説明されます。
 
こうした社会的交換関係が持続される要因の1つとして、リーダーによる「命令や提案の性質」が上げられます。

報酬が得られる可能性が高く,得られた報酬がフォロワーにとって価値あるものであると認識されるような命令や提案であれば,フォロワーからこの交換関係を維持しようとする、ということです。

これは、Homansの『社会行動』が指摘する2つの命題から導かれています。(全部で5つの一般命題がありますが、ここでは該当する2つのみ示します)

①成功命題:ある人の行為が報酬を受けることが多ければ多いほど,それだけその人はその行為を行うことが多くなる

②価値命題:行為結果が価値あればあるほど,人はその行為を行うことが多くなる


Hollanderの特異性-信頼理論

Hollanderは,Homansの社会的交換理論を発展させた特異性-信頼(idiosyncracy-credit)理論によってリーダーシップを説明しています。

どのように社会的交換理論を発展させたかと言うと、リーダーが同調性や有能性を提供し、その代わりにフォロワーが「命令と提案に服従する」のではなく「リーダーに信頼を提供する」という、考え方を用いています。

つまり、リーダーからの同調性・有能性と、フォロワーからの信頼が交換される、と言うことです。

この信頼が蓄積されることで、リーダーは、フォロワーから変革行動を期待され、リーダーシップを発揮しやすくなり、変革が導かれる、と、Hollanderは説明しています。以下が図示したものです。

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なお、Hollanderは2009年にInclusive Leadershipという書籍を出しており、Respect(尊重)、Recognition(承認)、Responsiveness(感応性)、Responsibility(責任)がリーダーとフォロワーの間において、双方向で交換される、とあります。これも、社会的交換理論に拠っている考え方です。そちらの詳細は過去の投稿をご参照ください。


Homansの残した課題

一方、Homansの社会的交換に基づくリーダーシップのフレームワークの課題としては、フォロワーの服従によってリーダーシップが成り立つと考えることから、リーダーシップを他の社会的影響力と区別することは難しいということが指摘されています。

例えば、フォロワーからの服従を引き出すなら、リーダーシップでなく、パワーの行使でも可能です。このように、リーダーシップを単にフォロワーからの服従という観点でリーダーシップを議論することの限界について指摘されています。

感じたこと

リーダーシップ研究の中でも、交換型リーダーシップの理論的基盤として社会的交換理論が使われており、私が注目しているインクルーシブ・リーダーシップにおいても、社会的交換理論が参照されることが多いです。

この論文を契機に、Homansの邦訳版書籍を読み始めており、次回以降で紹介したいと思うのですが、これがなかなかに難解で・・・。四苦八苦しながら読み進めているところです。

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