【バウンダリースパニング】組織の垣根を超える「バウンダリースパニング行動」の促進要因や成果要因とは?(Marrone et al., 2007)
前回扱った「バウンダリースパニング行動」(Boundary Spannning Behaviors)をもう少ししっかり理解したいと思い、文献を調査しています。その中で、よく参照されている論文をご紹介します。
どんな論文?
この文献は、バウンダリースパニング行動(BSB、越境行動と言ってもよいかもしれません)に関する先行要因や結果要因を、マルチレベル、つまりチームレベルと個人レベルの両方に関する影響力を調べたものです。
※バウンダリースパニングに関しては、前回の投稿でも触れているので、そちらをご参照ください。
研究の結果、個人レベ ルおよびチームレベルの要因が、メンバーの境界を越える行動に影響することが示されると共に、チームレベルのBSBレベルが高いほど、メンバーの役割負担感は有意に軽減されることが示されました。
論文では、バウンダリースパニングにまつわるパラドックスが紹介されます。これは、BSBがチームのパフォーマンスにとって重要であるが、同時にメンバーの越境行動は多大な努力と時間を必要とするため、継続的なBSB行動や実行可能性が危ぶまれてしまう、ということを指します。
こうしたパラドックスを乗り越えるためにも、BSBが有効に機能するための先行要因などのメカニズムを明らかにすることが必要、というのが筆者らの問題意識です。
先行研究レビューを踏まえ、先行要因や結果要因を、チームレベルと個人レベルの両方を組み合わせて検討した仮説モデルが、以下の図のように描かれています。(H1~H9までの仮説は、統計的検定により支持されています)
バウンダリースパニング行動の先行要因
まずは、先行要因について補足します。図で言うと、左側の4つの箱です。
1.個人レベルの先行要因
バウンダリースパニング役割と、BSBの自己効力感の2つが、個人レベルの先行要因として想定されています。
1つ目のバウンダリースパニング役割とは、境界を超える行動を期待される役割を担うことを指します。
筆者らは、境界を広げる活動は負担が大きく、内部で指示される活動と、時間や優先度がぶつかる可能性があるため、メンバーは、BSBを役割の責任の一部であると考えることによって、境界を超える行動を行う、と仮定しました。
2つ目のBSBの自己効力感とは、文中で「チーム外部の重要な関係者との関係をうまく構築し、管理する能力に対する個人の確信」と定義されています。
かの有名な、Bandura(1997)の自己効力感の概念を、バウンダリースパニングの文脈で解釈したものと言えるでしょう。
BSBに対する高い自己効力感を持つ人は、外部の関係者との交流に自信を持 ち、チームに影響を与えるさまざまな影響を管理するためのスキルを持ちます。
そのため、境界を越える仕事を引き受ける可能性が高く、困難で負担のかかる状況下で生じるネガティブな感情をコントロールし、困難や課題を能力を発揮する機会として認識しやすいため、BSBを高めるのではないか、との仮説が立てられました。
2.チームレベルの先行要因
筆者ら曰く、「チームは、チームメンバーの行動に影響を与える重要なコンテクストを提供する (Hackman, 1992)。」過去の研究より、目的意識をもって外向き志向(内向きでない)を持ち、BSBの重要性を理解しているチームでは、BSBがより発揮される、とのことです。
このように、チームにおける文脈や風土も、BSBを高める要因となるようです。
チームレベルの先行要因の1つ目は、「外部へのフォーカス」です。
チームの重要な機能であるバウンダリースパニングは、外部構成員との相互依存度が高いチームにとって重要との研究から(Choi, 2002)。対外的な活動を戦略的に重視するチーム内での志向性が、チームメンバーのBSBの実施度合いに影響を与える、と仮説を立てました。
(内向き志向よりは、確かにBSBが発揮されそうです)
2つ目は、「外部へのフォーカスに関する合意度合い」です。
外部へのフォーカスをチーム内で合意すると、それが規範として機能します。つまり、外向きな行動の重要性をチーム内で合意する度合いが高いと、その規範により、「バウンダリースパニング役割」を担う際のBSB発揮度合いを高める(=外部へのフォーカス合意度が、バウンダリースパニング役割とBSBの影響を強める方向に調整する)という仮説を立てました。
バウンダリースパニングの成果要因におけるメカニズム
続いて、バウンダリースパニング行動(BSB)が、チーム成果や実行可能性(Viability)に与える影響のメカニズムを見ていきます。
興味深いのは、H5、H6とある矢印の部分です。個人レベルでのBSBは、難しく負担もかかるため、役割負荷(Role Overload)を高める(+)のですが、チームレベルでのバウンダリースパニングは、役割負荷を下げる(-)という仮説が立てられ、検定の結果支持されました。
要するに、一人でBSBに取り組むと役割負担を感じるが、チームでBSBを取るような規範があることで、役割負担の感覚が低減される、と解釈できます。
文献では、チームレベルでのBSBが行われることで、外部からの情報や内部での活用といったリソースが得られやすくなり、その結果、ストレス要因(例えば、情報がないなど)が減るため、役割負担感も減ると考察されています。
また、チームメンバーの多くがBSBを行うと、外部関係者との交流といった外部活動や、社内情報共有などの内部活動により、「タスクの不確実性」が減ると説明されます。その結果、パフォーマンスや実行可能性が高まるのみならず、非効率な状況による役割負担も減るだろう、とのこと。
こうしたバウンダリースパニングの成果要因に関するメカニズムを示したことで、個々の「バウンダリースパナ―」では長続きしないが、チームレベルで「バウンダリースパナ―」を増やすことにより、継続的に組織内外のコミュニケーションを活性化させ、成果を高めやすくなる、という示唆が導かれています。
実務的な目線で言えば、一人の越境行動に頼るのではなく、組織全体としての越境行動の支援を行わないと、役割負担感から長続きせず、経営に対するインパクトは生まれない、と解釈できそうです。
バウンダリースパニングの測定尺度
なお、この論文がもたらした価値の一つは、バウンダリースパニングに関する様々な尺度を提示したことにもあります。
他の研究でも、しばしば、本文献で作成された設問が使われています。ざっと見る限り、最も多く引用されてそうでした。
この尺度では、以下のような設問例を出しています。(全部で6つの質問例となっているため、残り2つが気になります)
この測定尺度は、さらに以前の研究であるAncona and Caldwell (1992)を参考にしているため、こちらを参照する必要があります。
感じたこと
バウンダリースパニングを高める要因や、バウンダリースパニングの結果として生じることが網羅的に図式化されており、整理がとても進みます。
組織や階層の垣根を超えた行動が組織課題となっている場合、まずは頭の整理のためにも一読することをお勧めしたい論文でした。
それに加えて、チームレベルと個人レベルの影響関係もわかりやすく図示・説明されていたので、マルチレベルでの研究を行う予定の自分にとって、大変参考になりました。
この投稿を書いている、2023/8/13時点において、Google Scholarで521件参照されています。
ただ、本文献を活用して定量調査を行った研究論文がいくつかあるのですが、設問項目の数が文献によって5つだったり6つだったりしするのです!(悲)過去にもこのような文献があったのですが、後から研究する者にとっては「どちらが正しい?」と混乱します。。
バウンダリースパニングの原典(に近い)と思われる、Ancona and Caldwell (1992)についても、今後調べていこうと思います。
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