【倫理的リーダーシップ】珍しい実験研究!CEOの倫理的リーダーシップが、求職者の採用活動に与える影響とは(Ogunfowora.,2014)
今回は、倫理的リーダーシップに関する珍しい研究です。リーダーシップ研究の多くは、CEO/上司と従業員の関連性を見ていますが、今回は求職者への影響を調査しています。また、実験研究を用いて実証している点も大変興味深いです。
どんな論文?
この研究は、倫理的リーダーシップが、採用活動を行う求職者への影響を調査したものです。従来の研究は、リーダーシップと従業員の関連性が主に焦点でしたが、本研究では、企業内の関連性を越えて、CEOの倫理性がどのように求職者に影響を与えるかを初めて検討した点でユニークなものです。
また、この研究の興味深い点は、いわゆる「実験群・統制群」に分けて、郡ごとの比較を通した実験デザインを用いている点です。
架空の会社における「CEOの記者会見」の映像を3パターン作成し(倫理的なCEOの会社、道徳的に疑わしいCEOの会社、倫理が不明なCEOの会社)、それぞれの映像を見た群の、求職者から評価の違いや、その背景にある求職者の特性や価値の一致などを測定し、その比較を通じて示唆を示しています。
(今回の実験対象者は、今回はキャリアフェアに参加した大学生です)
架空の映像を使って、2つの調査が行われています。両方とも、映像を見た上で、CEOおよび組織に対する態度に関するアンケートに答えるものです。
実験①:倫理的リーダーシップと、その会社や仕事への志望度合いの関連性
(CEOの倫理的リーダーシップ度合い、その会社に入りたいか、その仕事を行いたいか等)
実験②:倫理的リーダーシップと、CEOに感じる価値と求職者の価値の一致や、求職者の特性(HEXACOを使用)
2つの実験の結果、倫理的なCEOを持つ企業の映像を見た求職者は、特にHonesty-Humility(正直さ―謙虚さ)の特性を持つ求職者にとって魅力的であることが示されました。簡単に言えば、倫理的リーダーシップが、正直で謙虚な人を惹きつける、という価値の一致があったと言えそうです。
このメカニズムは、求職者が自身の価値観と一致する企業を選ぶことで、自己アイデンティティを強化し、職場での満足度やパフォーマンスを高めることが期待できる、という理論的な背景により考察されています。
逆に、正直さー謙虚さの特性が「低い」求職者にとっては、CEOの倫理性に関係なく、志望度にはあまり影響を受けないことも示されています。
凝った実験方法
3つの条件(倫理的なCEO、道徳的に疑わしいCEO、倫理不明なCEO)を用いた架空の会社のCEOの映像ですが、「記者会見」を用いた理由も描かれています。簡単に言えば、一方的な情報発信場面でなく、記者との双方向のやり取りから描かれるCEO像を示すことや、HPなどでは描かれないリアルな内部事情の情報を提供することが狙いのようです。
この映像作成のために、架空の会社設定や事業展開を作り上げ、白人の50代半ばのプロの男性俳を雇って、3つのビデオ条件すべてでCEOの役を演じてもらったり、以下のようなシナリオを作成するなど、相当凝ったものだったようです・・・!
本研究の背景と研究による示唆
著者らによると、社会で企業スキャンダルが増加する中、企業トップのリーダーシップや倫理性が議論されていることが、本研究の1つの背景とのこと(社会的意義を重視するZ世代、という文脈にも整合的です)。
倫理的リーダーシップの主な研究者であるBrown教授らは、倫理的リーダーの重要な特性は、ロールモデルとして他者を引きつけ、倫理基準を積極的に伝える能力であると提唱している様子。
そのため、したがって、彼らの高い倫理性と積極的なメッセージ伝達は、将来の求職者に顕著な影響を与える可能性があるとのこと。
そのため、今回の研究結果から、企業が倫理的なリーダーの採用、訓練、および育成に細心の注意を払うよう促すべき、と筆者らは主張しています。
感じたこと
とても面白い文献でした!
多くの実証研究は、サーベイ調査によるものが多いのですが、実験研究がここまでバシッとハマると説得力がある、と感じました。
一方、シナリオや映像作成など、先行研究をもとに緻密な計画のもとで進めないと、これだけ大掛かりな実験を行っても、設計自体の甘さで失敗する可能性もあるので、想像をはるかに超える努力が裏側にあるのだろうと想像します。