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【バウンダリースパニング】組織におけるサイロに関する研究をレビューした文献(Bento et al.,2020)

今回は、久々にバウンダリー系の文献です。縦割り、セクショナリズムという組織上の問題が「サイロ化」と呼ばれることがありますが、この「サイロ」を改めてレビューしたものです。

Bento, F., Tagliabue, M., & Lorenzo, F. (2020). Organizational silos A scoping review informed by a behavioral perspective on systems and networks. Societies, 10(3), 56.


どんな論文?

この論文は、「サイロ」と呼ばれる組織内の障壁が、内部協力を妨げ、組織の目標達成にどう影響するかを調査した、いわゆるレビュー論文です。

サイロとは、部門や専門分野ごとに分断され、情報や協力が不足する状態を指します。論文では、サイロの定義や概念、研究方法がさまざまであることが示され、サイロが異なる形態を取ることが強調されています。

著者らのレビューの結果、サイロ化により、ユニット間や部門間での共有、具体的には、情報、目標、ツール、および組織の存続に不可欠な他の業務や資源の共有が妨げられるとのこと。
このように、サイロはプロセスの障壁を表し、組織内での調整や相互依存行動を阻害してしまうことが知られています。

本文献の特徴は、ネットワーク理論とよばれる、社会や組織の複雑性を科学的にとらえるような学問領域と、組織行動論とよばれる、組織という集団におけるメンバー行動を捉える学問領域の両面からアプローチしている点にあります。

2つの理論ともに、サイロ化による「サイロの橋渡し(Bridging)」の重要性に着目しています。研究では、サイロが組織の協力を阻害する一方で、うまく橋渡しすることでポジティブな結果が得られる場合もあることが示されました。
特に、報酬やフィードバックなどの結果が、サイロを超えて協力を促進するのに重要であると指摘されています。しかし、サイロに関する実証的な研究はまだ少なく、その効果を正確に測定することが難しいという課題もあります。

サイロと呼ばれるようになった背景

「サイロ」という用語は、1800年代のヨーロッパで冬の間に穀物を保管するための溝として使用された農業サイロに由来しているそうです。
北米では異なる穀物を分けて保管する塔(レンガで作られたイメージ)として理解されています。

この構造と同様に、組織内のサイロは、相互作用や知識の分断を示すメタファーとして使われ、コミュニケーションと情報交換に対する障壁を意味するようです。

組織内では、サイロはしばしば従業員を分断し、オープンなコミュニケーションを妨げることで、企業の効率性や士気、生産的な文化に悪影響を及ぼします。このため、サイロは単なる技術的現象ではなく、文化的な現象として捉えられ、組織の意思決定や社会認知、経済学的視点からも考察されるべきものとのこと。

サイロが、全体的な運営効率の低下や士気の低下を生じかねないとも述べられており、その構造を打破または橋渡しする必要性が強調されています。これにより、資源や情報が組織全体で共有され、部門間の協力が促進されることが期待されます。

そして具体的な、サイロの橋渡し策として、以下の4点が提案されています。

  1. 報酬とフィードバックの利用: 組織内での協力やコミュニケーションを促進するために、報酬やフィードバックが効果的。これにより、部門間の連携が強化され、サイロを超えた協力が促進される。

  2. 結果の重要性の強調: サイロを打破するためには、組織内で行動の結果に焦点を当てることが重要。これは、従業員が自分の行動が組織全体にどのように影響を与えるかを理解し、協力的な行動を促すためである。

  3. システム思考の導入: 組織全体のビジョンとシステム思考の欠如がサイロを生む要因として挙げられており、これを補うために、組織全体で共有される目標や価値観を設定し、部門間の協力を促進することが推奨される。

  4. 組織文化の再構築: サイロの形成を防ぐためには、コミュニケーションや情報共有を阻害しないような組織文化を構築することが重要。これには、物理的なスペースや関係性の構築に配慮し、組織全体で情報が円滑に流れる環境を整えることが含まれます。

ただし、まだまだ研究蓄積は多くなく、実証研究をはじめとした研究が求められているようです。


補足:サイロに関する研究の現状

レビューの結果見えてきたこととして、用語の使用に一貫性がないことが挙げられています。
「サイロ」という名詞およびそれに対応する動詞や形容詞の形が多様な方法で使用されており、組織的な文脈に限定しても、その使用範囲を完全には限定できないことが明らかになりました。
予算サイロ、情報サイロ、文化的サイロ、部族的サイロ、サイロ化した思考やメンタリティ、研究サイロ、およびサイロ効果などの事例が見つかりました。

こうしたサイロの定義のみならず、概念の操作化、研究方法、および発見においても、とても多様であるという状況が結果として述べられています。


感じたこと

組織のサイロ化(あるいは、たこつぼ化)と、気軽に使っていた言葉ですが、研究上はまだまだ統一的な定義がなく、実証研究も足りていない、ということがわかりました。

組織の壁を超える「バウンダリー・スパニング」の研究なども行われていますが、こちらも今後発展が期待される領域とされています。今後の研究動向に注目したいと思います。

(バウンダリー・スパニングの文献については、こちらもご覧ください)



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