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【リーダーシップ】グループ内でリーダーシップがどう生じるのか、社会的アイデンティティ理論のレンズで読み解く(Hogg 2001)

グループの中で、リーダーがどう生まれるのか、リーダーシップがどのように発揮されるのかという点を、社会的アイデンティティ理論というもので説明を試みた文献です。

Hogg, M. A. (2001). A social identity theory of leadership. Personality and social psychology review, 5(3), 184-200.


どんな論文?

この論文は、リーダーシップが集団内でどのように生じるかを明らかにするため、社会的アイデンティティ理論とリーダーシップの関連性を説明したものです。

もう少し掘り下げると、社会的アイデンティティ理論にもとづく、「社会的カテゴリー化」と「非個人化」が、「プロトタイプ」としてのリーダーシップの形成にどのように寄与するかが議論されています。

これだけではよくわからないですね。
具体的にいうと、人々が自分自身を「このグループの一員だ」と認識するプロセス(社会的カテゴリー化)と、そのグループに属しているという意識が強くなることで、個人としての特性が薄まり、グループの特徴に同化する(非個人化)プロセスによって、そのグループの特徴を体現した。例えば、あるグループに属していると感じると、メンバーはそのグループの規範や価値観に従いやすくなります。このとき、リーダーはそのグループの「典型的なメンバー」、つまりそのグループの理想的な特徴を最もよく体現している人として認識され(プロトタイプ)、影響力を持つようになる、ということです。

なお、社会的カテゴリー化とは、人々が自分自身や他者を特定のグループに分類し、そのグループに基づいて考え方や行動を決定するプロセスです。このプロセスにより、私たちは「自分はこのグループの一員だ」と認識し、グループの特徴や価値観に従うようになります。また、他者を「内集団」(自分と同じグループ)と「外集団」(自分と異なるグループ)に分け、内集団には親しみや共感を感じ、外集団には距離を置いたり、対立的になることがあります。

この文献による、社会的アイデンティティ理論×リーダーシップの関連性を一言で述べるなら、
リーダーシップは「個人の強さ」ではなく、「グループの代表としての適性」によって生じるということです。

リーダーは、そのグループのメンバーが共有する価値観や行動規範を体現しているため、自然とメンバーから支持され、影響力を持つことができるのです。
つまり、リーダーシップはリーダー自身の力ではなく、グループ全体の社会的アイデンティティと深く結びついている、ということになります。


社会的アイデンティティ理論とは何か?

Tajfel, H., & Turner, J. C. (1979)によって提唱された社会的アイデンティティ理論は、人々がどのようにして自分を特定のグループの一員として認識し、その結果としてどのように行動するのかを説明する理論です。
この理論によれば、人々は自分のアイデンティティを「個人的な自己」と「社会的な自己」に分けます。社会的な自己は、特定のグループに属しているという意識から生まれます。たとえば、スポーツチームや職場のチーム、民族グループなどが該当します。

この理論の重要なポイントは、人々が自分をグループの一員として認識すると、そのグループの特徴や価値観、行動規範に自分を合わせようとすることです。これを「カテゴリー化」と呼びます。
さらに、グループに強く同一化すると、個々の特徴よりもグループの特徴が強調され、自分自身や他のメンバーを「個人」としてではなく「グループの一部」として見るようになります。これを「非個人化」と言います。

社会的アイデンティティ理論は、カテゴリー化した内集団を特別視する一方で、外集団に対する偏見、差別、集団間の対立など、社会的な行動を理解するための強力な枠組みを提供するようです。

つまり、人々がグループに対する帰属意識を強く持つと、グループの外部にいる人々を排除したり、差別的な態度を取ることがあるとのこと。

こちらのサイトもわかりやすかったので、参考にしてみてください。


リーダーシップのプロトタイプ性

先に、グループの理想的な特徴を最もよく体現している人として認識され(プロトタイプ)、影響力としてリーダーシップを生じる、ということを述べましたが、ここでプロトタイプ性についても補足します。

プロトタイプ性とは、特定のグループにおいて、そのグループが共有する特徴や価値観を最もよく体現していることを指します。この論文における、リーダーシップのプロトタイプ性のポイントを整理します。

  1. グループの代表的なモデル: プロトタイプ性を持つ人物は、グループのメンバーが理想とする特徴や行動を最もよく表すもの。その人物(=リーダー)はグループの規範や価値観を体現する存在となります。

  2. リーダーシップの基盤: リーダーシップは、リーダーがどれだけグループのプロトタイプに適合しているかによって大きく影響されます。プロトタイプ性が高い人物は、自然と他のメンバーに影響を与え、リーダーとして認識されやすくなります。

  3. 非個人化のプロセス: グループメンバーが自己をそのグループの一員として認識し、個々の特徴よりもグループの特徴を重視することで、プロトタイプ性を持つ人物がリーダーとしてみなされるようになります。このプロセスにより、リーダーは特別な権力を行使せずに影響力を発揮可能となります。

  4. 社会的魅力との関連: プロトタイプ性は社会的魅力とも関連しています、プロトタイプ性を持つリーダーは、メンバーからの支持や好意的な評価といった社会的魅力を感じられやすくなります。これにより、リーダーシップがさらに強固になるとのこと。


この論文からの示唆

こうした、社会的アイデンティティ理論にもとづいて、リーダーがより集団内でリーダーシップの発揮度合いを高めたい場合には、集団内において、自身がどれだけその集団におけるプロトタイプ的であるかに注目することが有用と著者は説明します。

つまり、リーダーシップの発揮度合いを高めたい場合、

その集団を代表するプロトタイプ的なリーダーは、グループの連帯と結束を高めながら、自分のプロトタイプ性を強調するのが良い

その集団の状況と離れた非プロトタイプ的なリーダーは、連帯と結束を低下させ(社会的カテゴリーを弱め)、自分が組織で求められるタスクや状況にどれだけ適合するかを強調するのが良い(=その集団を代表する存在になるというより、タスクや状況の解決者として認められる)

と言えるとのこと。

感じたこと

多様性がますます増える職場において、社会的アイデンティティ理論にもとづく集団の分析はとても重要になると考えられます。
今回の文献では、「リーダーは派閥のトップ」となりやすいということが理論的に説明可能、という印象を受けました。(日本の)政党のリーダーを説明するのに最適な理論なように感じます。

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