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【ダイバーシティ】多様性を活かせるチームのあり方やメンバーの特性とは?(Homan et al., 2008)

久々にダイバーシティ関連の論文です。多様性によって構成されるチーム状況を分類し、その状況と、メンバーのパーソナリティやパフォーマンスの関連性を調べた、とても面白い論文です。

Homan, A. C., Hollenbeck, J. R., Humphrey, S. E., Knippenberg, D. V., Ilgen, D. R., & Van Kleef, G. A. (2008). Facing differences with an open mind Openness to experience, salience of intragroup differences, and performance of diverse work groups. Academy of Management Journal, 51(6), 1204-1222.


どんな論文?

この研究は、多様性の状況を3つに分類し、その状況とパフォーマンスの関連性や報酬、構成員のパーソナリティの及ぼす影響を実験研究によって示したものです。
(実験研究は、先日投稿したものと同様のシミュレーションゲームをチームで行い、その成果や影響要因をアンケート調査で確認する内容です。)

研究の結果、「経験への開放性」というパーソナリティが高いメンバーの多いチームは、多様性をうまく活用して高いパフォーマンスを発揮することが示されました。
一方、経験への開放性が低いメンバーを持つチームでは、特に性別の違いが強調されるフォルトライン(目に見えないサブカテゴリーを分かつ線。性別や学歴など複数の属性で構成される境界線、といった意味合いに近いです)条件でパフォーマンスが低下しました。

つまり、多様なチームでは、メンバーが経験に対してオープンであるほど、または多様性の顕著性が低いほど、より良い結果が得られる可能性があります。異なる性別のメンバーをまとめて報酬を与えると、チーム全体の一体感が増し、良い結果が得られることが分かりました。

また、チームの多様性状態は、報酬がパフォーマンスに与える動機づけにも関連するようです。
チーム全体のアイデンティティを強調するチームや、性別の違いを強調しないチーム(クロスカテゴリーチーム)は、報酬によってチームパフォーマンスが向上されますが、性別の違いを強調する、フォルトラインの強いチームでは、グループ間の対立を生じさせてしまう、という結果が見られています。

労働力の多様化が進む中、職場では、必然的に異なる属性や価値観、専門知識、視点を持つメンバーで構成されるようになります。
このような環境下で、多様性の状況を一段掘り下げてメカニズムを示した本研究は興味深いです。


集団内の違いの顕著性


職場が多様になるにつれ、フォルトラインによって構成される「社会的カテゴリー」が際立つ度合い、この論文では「顕著性」と表されますが、この顕著性の概念が、多様性に関する文献で注目されているようです(例:Earley & Mosakowski, 2000; Homan, van Knippenberg, Van Kleef, & De Dreu, 2007b; Lau & Murnighan, 1998; Thatcher, Jehn, & Zanuto, 2003)。

著者らは、以前の研究で、3つの多様性の顕著性の条件、すなわちフォルトラインチーム、クロスカテゴリー化チーム、超越的アイデンティティチームと区別されていることを紹介します(Brewer & Brown, 1998)。以下が補足です。

1.フォルトライン
フォルトラインとは、チーム内のメンバーがいくつかの属性に基づいて明確なサブグループに分かれる現象。この研究では、例えば、性別の違い(男性と女性)に基づいてチームが分かれる場合をフォルトラインとして扱っており、フォルトラインが強いと、サブグループ間での対立や情報の共有不足が生じやすくなり、チームのパフォーマンスが低下する可能性があります。

2.クロスカテゴリー化
クロスカテゴリー化は、チームメンバーが複数の異なる属性に基づいて分類される状況。この場合、特定の属性(例えば性別)だけではなく、他の属性(例えば部門や役割など)が重なり合って、サブグループ間の境界が曖昧になります。これにより、異なる属性間の対立が緩和され、チームメンバーがより広い視点で協力しやすくなります。

3.超越的アイデンティティ
超越的アイデンティティとは、個々のサブグループを超えた、チーム全体としての一体感を強調するアイデンティティを指します。このアイデンティティが強調されるチームでは、メンバーが共通の目標や価値観を共有し、個々の属性による違いを意識せずに協力することが促進されるとのこと。
この研究では、超越的アイデンティティを持つチームが、サブグループの違いを乗り越えて、より良いパフォーマンスを発揮する可能性があることを示しています。


「経験の開放性」という特性の重要性

この研究では、チームの多様性状態に加えて、チームメンバーのパーソナリティにも着目しています。言い換えると、多様性を受け入れやすい、活かしやすいパーソナリティは何か、ということです。著者らは、「経験の開放性」というパーソナリティに着目しました。

経験への開放性は、新しいアイデアや経験を探求し、許容し、考慮する個人の意欲とされるパーソナリティです(McCrae & Costa, 1987)。
このパーソナリティには、知的好奇心と開かれた思考、実験を重視する力、および価値観(例えば、流動的な政治的および宗教的信念)などが含まれ、独創的・芸術肌、という人物が想定されます。(個人の感覚ですが、ネーミングにある「開放性」というイメージとは少し異なるものです)

験への開放性が高い人は、自分のアイデアに対して独善的ではなく、異なる意見を考慮する意欲があり、あらゆる状況に対してオープンであり、対立を否定する可能性が低いようです(Costa & McCrae, 1992; LePine, 2003; McCrae, 1987)。そのため、経験への開放性をもつメンバーが多いと、それぞれの違いをよりうまく活用し、より良いパフォーマンスを発揮できるようにする可能性が考えられる、とのこと。

また、EkehammarとAkrami(2003)は、ビッグファイブモデルの他のどの要因よりも、経験への開放性が多様性に関する信念や態度と関連していることを示しているようです。同様に、Flynn(2005)は、経験への開放性が高い人が少ない人よりも少数派メンバーに対してよりポジティブな態度を持っていることを示しました。この研究に基づき、経験への開放性が高いチームメンバーで構成された多様なチームが、自身の違いの価値をより認識し、より良いパフォーマンスを発揮する可能性が高いと想定されました。

結果は、想定通り、経験への開放性が高い多様なチームが、経験への開放性が低い多様なチームよりも良いパフォーマンスを示しました。この作用は、フォルトラインのあるチームでも認められています。

つまり、経験への開放性が高いチームメンバーが多いと、フォルトラインがチームプロセスの発揮を妨げる懸念が減る、とのこと。
このことから、チームの多様性のみに着目するのではなく、新しいアイディアや他者の意見を受け入れるといった、メンバーのパーソナリティにも着目すべき、という示唆が得られています。


感じたこと

最後の点ですが、裏を返せば、

フォルトラインが生まれやすいチームで、かつ、
新しいことを避ける保守的な思考性の高い特性のメンバーが集まると、
多様性は活かされない、

と感じました。

チーム状況を解像度高く分析する視点を提供する、面白い論文でした!


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