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【サイロ化問題】人の心に生じる「サイロ・メンタリティ」の原因や影響とは?(Cilliers & Greyvenstein, 2012)

社会的アイデンティティ理論などを調べていくと、内集団・外集団といった、私たちvs彼ら(彼女ら)、いった分断に行きあたることが多いのですが、その分断の象徴的な問題として、「サイロ化問題」に関する研究を紹介したいと思います。

Cilliers, F., & Greyvenstein, H. (2012). The impact of silo mentality on team identity An organisational case study. SA Journal of Industrial Psychology, 38(2), 1-9.


どんな論文?

この論文は、サイロ・メンタリティが、チームに対するアイデンティティにどのような影響を与えるかを、定性的な研究によって示した論文です。
サイロ・メンタリティとは、組織内の部署やチームが他部門と情報を共有せず、孤立した状態で機能することを指します。

組織のサイロ化とは、部署やチーム、あるいは上司ー部下、機能別の部門同士が互いに距離感を抱いて、情報共有や連携等が行われなくなっている状態のことです。詳しくは、過去の投稿をご参照ください。

今回の論文は、従業員の心理的プロセスに着目し、組織におけるサイロ化の状態そのものではなく、心理的なサイロ状態による影響を扱っています。
つまり、組織構造の要因だけでなく、人の心の中に「サイロ的な、外部と閉ざしてしまう感覚」があり、それによる影響があるのではないか、という観点で行われた研究です。

調査は、南アフリカの大企業の技術部門をケーススタディとして行われ、25人のインタビューから得られたデータを定性的に分析したものです。

その結果、サイロ・メンタリティは物理的環境(たとえば、地下室のような「閉ざされた」空間)がその象徴となり、チームメンバーが内部で団結する(チーム・アイデンティティを強める)一方で、外部の他部門に対して攻撃的で閉鎖的な態度を取ることがわかりました。
これにより、部門間の不信感が高まり、業務の非効率性が増すことが明らかになっています。

このメンタリティは、組織の無意識に潜む不安や競争心が原因であり、防衛反応として「私たちvs彼ら」という構図を生み出すことがわかりました。

この研究は、サイロ・メンタリティが無意識の心理的要因によって生じることを示し、組織心理学に新たな視点を提供しています。
組織が効率的に機能するためには、これらの無意識の障壁を理解し、取り除く必要があると結論付けています。
(ただし、一つの企業における定性研究にすぎないので、過度な一般化はできない、と著者らも述べています)


サイロ・メンタリティによる「私たちvs彼ら」とは?

本論文によると、「私たちvs彼ら」という構図が生まれる原因は、組織の無意識的な防衛メカニズムによって説明されます。この防衛メカニズムは、心理学的な不安や恐れに対処するために形成されるものです。

具体的には、組織やチームは外部の他者や部門からの圧力や脅威を感じると、内部で団結を強め、「私たち」という安心感のあるグループを作り上げます。そして、その一方で、自分たちとは異なる「彼ら」という外部の存在を、否定的かつ攻撃的に捉えます

これを「分割(Splitting)」と呼び、グループ内にある不安やネガティブな感情を外部に投影し、敵意を向けることで、心理的な安定を保とうとするようです。

(本論文では扱われていませんが、社会的アイデンティティ理論における、内集団ひいきや外集団拒否に近い考え方だと想像されます)

また、サイロ・メンタリティの存在が、組織の複雑性や競争的な環境への対処をさらに難しくしていることも示されました。

たとえば、技術部門の職員たちは、自分たちの仕事に誇りを持ち、同僚とは密接な協力関係を築きますが、その安全な「サイロ」の外にいる他部門には不信感や敵意を抱くようになります。この心理的な現象は、無意識のレベルで組織全体の連携を阻害し、「私たちvs彼ら」の対立構図を強化してしまうようです。

例えば、論文内では、以下のような技術職員の語りが紹介されています。

・「参加者は、自分たちの作業環境を『私たちの場所』や『別の存在でいられる場所』として表現し、外部に対する分離感を強調しました。」

・「彼らは、部門の境界を越えることが、組織の『政治』や『時間の浪費』に巻き込まれることを意味するとして、強い抵抗を示しました。」

研究結果から導かれた示唆

本論文の研究結果は、サイロ・メンタリティが組織内のチーム・アイデンティティに与える影響を四つの主要テーマに分けて説明しています。

  1. 物理的環境と部門構造
    研究対象の技術部門は地下に位置しており、職員たちはこの環境を「私たちの安全な場所」と認識していました。部門は自らを外部から隔離し、外界の「政治」や「騒音」といった負の要素を避けるための防衛的態度を強めていました。

  2. 集団内関係
    部門内ではメンバー同士の結束が非常に強く、「家族のような」親密さがありました。職員たちは自分たちの技術的スキルに誇りを持ち、他のメンバーを「協力的で、頼りがいのある存在」として理想化する傾向が見られました。これにより、内部では調和が保たれる一方、過度の閉鎖性も生じていました。

  3. マネジメントに関する経験
    部門の管理者に対する評価は厳しく、職員たちは彼を「独裁的で感情的な人物」として批判しました。管理者の中央集権的な指導スタイルが不信感を生み出し、職員の間にストレスや恐怖が蔓延していました。このことが、サイロ内の内部対立を深める要因となっていました。

  4. 集団間関係
    他部門との関係は、競争的かつ対立的でした。技術部門の職員は他部署の人々を「理解がなく、非協力的」と見なしており、クライアント側も技術部門を「非効率で独善的」と評していました。このように、サイロ・メンタリティが組織全体の協力を妨げていました。

これらの結果は、サイロ・メンタリティが組織内の防衛的態度を強化し、チーム内外の関係を悪化させることを示しています。


感じたこと

今回の研究では、4つの影響関係同士がどのような関連性を持つかまでは示されていませんし、一つの会社での定性調査にすぎないので、一般的なものとして解釈しにくいですが、それでも、現場目線から見ると納得感の高いものでした。

単に「サイロ化問題」「組織がサイロ化している」という物理的・構造的な問題として扱うのではなく、その構造が生む心理的なサイロの感覚の方が重たい問題であり、これをどう乗り越えていくかがとても重要だと感じています。

このサイロ化問題について、さらに文献を読み進めていきたいと思います。


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