【リーダーシップ】参加型リーダーシップをレビューした最新論文!(Wang et al.,2022)
11月は仕事の山場が続き、論文レビューの投稿が滞っておりましたが、少し落ち着いてきたので、コツコツ再開していきます。
今日は、あまり聞きなれない「参加型リーダーシップ(Participative Leadership)」のレビュー論文を紹介します。インクルーシブ・リーダーシップを高める要因のヒントを探している中で見つけた論文です。
どんな論文?
この論文は、最近注目されるようになっている様子の「参加型リーダーシップ(Participative Leadership:PL)」に関する研究群をレビューし、概念を明らかにして定義の整理を行うと共に、測定尺度をまとめ、他のリーダーシップスタイルとの違いを比較するなど、PLとは何かを様々な角度から示したものです。
論文によると、PLとは、組織の意思決定やマネジメントに部下を参加させる民主的なリーダーシップで、従業員の当事者意識を効果的に高め、個人の目標を組織の目標に積極的に統合することを目的としたものです。
「参加型リーダーシップ」の「参加」とは、組織の意思決定やマネジメントへの参加を指します。
一言でいえば、従業員が組織の意思決定プロセス に参加することを奨励・支援するリーダーシップ、と言えるでしょう。
著者らは、Web of Science、EBSCO、ProQuest、China National Knowledge Infrastructure (CNKI) などの研究データベースで、"参加型リーダーシップ"、"参加型マネジメント"、"参加型行動"、"参加型リーダー "といった言葉を検索し、その中で、英語と中国語の文献に絞って研究をピックアップし、レビューを行ったようです。
(ただ、謎なことに、参照した文献数や、スクリーニングのプロセスは掲載されておらず、どの程度の文献をどのようにレビューしたのか不明です)
著者ら曰く、外部市場環境の変化により、組織の戦略計画策定には客観的な要件が求められるようになり、組織のリーダーだけでは適切かつ効果的な意思決定を迅速に行うことが難しくなっているため、PLの重要性が高まっているようです。
参加型リーダーシップ(PL)とは何か
この文献で紹介されるPLをさらに補足します。
PLを発揮するリーダーは、日常的なリーダーシップのプロセスにおいて、意味のある価値観を伝えたり、報連相を積極的に組織したり、その他柔軟な推進策を講じたりするなど、部下に対する「参画マネジメント」を積極的に実施する、といったリーダー行動を示すようです。
ほかにも、以下のような説明がありました。
Kahaiら(1997)は、先行研究に基づき、参加型リーダーシップと再定義し、リーダーが意思決定の前に従業員に意見を求め、意思決定権を実際に部下に委譲し、従業員の積極的な参加を促して共に意思決定を行うリーダーシップスタイルを指すとした。
文献には、参加型リーダーシップの2つの中核的な特徴が反映されている。1つ目は、従業員が一緒に問題を解決するために、意思決定前に相談されること、2つ目は、従業員が仕事のプロセスにおいて支援するための資源が与えられることである(Kahai et al., 1997; Lam et al., 2015; Li et al., 2018)
PLの中核は、従業員に組織の意思決定への参加を促すことであり、意思決定の前に従業員に相談するなど一連のマネジメントを行うことがリーダーシッププロセスの鍵であることは容易に理解できる(Benoliel and Somech, 2014)。
したがって、多くの先行研究と実践経験から、参加型リーダーシップとは、部下に一定の裁量権や有効な情報などの資源を与え、配慮や激励をすることで、部下が意思決定に参加することを促進し、意思決定前に十分な相談を受けて、仕事の問題を共に解決していく一連のリーダーシップ行動であると考える (Huang et al., 2010; Chan, 2019)。
参加型リーダーシップに影響を与える要因
著者らは、先行研究レビューを通じて、PLに関連する先行要因(影響を与える要因、結果要因、調整要因、媒介要因について整理をしています。少し細かいですが、以下のように各要因との関係性が図示されています。
特に、リーダーシップの研究においては比較的少ないとされる、先行要因(Antecedents)については、組織レベルと個人レベルの両方でいくつかの要因を挙げています。
組織レベルの要因:
組織規模、組織文化
個人レベルの要因:
経験の豊富さ、パーソナリティ傾向(特に、どの特性がPLを促進するかには記載なし)、アセスメントモデル(?)、自己認識の高さ、リーダーとメンバーの関係の質(LMX)、リーダーとメンバーの個人差(何の差か記載なし)
リーダーシップの先行要因としては、パーソナリティが多く研究されています。リーダーのどんな特性が、参加型リーダーシップの発揮を予測するか、という研究は、リーダー層の選抜や採用に資する示唆となる可能性があります。
他のリーダーシップスタイルとの違い
PLはまだまだメジャーなリーダーシップではないので、「他の数多あるリーダーシップと、結局何が違うの?」という素朴な疑問が湧きます。
それに対し、著者らは、エンパワーメント・リーダーシップ、指示型リーダーシップと比較し、以下のように整理しました。(Deepl訳です)
エンパワーメント・リーダーシップや指示型リーダーシップと比較したのは、レビューの結果、PLがこれらのリーダーシップともに論じられることが多い一方で、類似点や相違点については深く分析されていないことが理由とのこと。
まず、エンパワーメント・リーダーシップとの比較を見ていきます。
エンパワーメントとは「力を与えること」、という意味なので、エンパワーメント・リーダーシップは、権限移譲を通じたメンバーの動機付けや成果促進を指すようです。一方で、従業員に「リーダーは(権限移譲ばかりで)マネジメントする気がない」と感じさせてしまう懸念があるとのこと(具体的な参照はなし)。
PLは、意思決定への参加に巻き込むために、ある程度の裁量を与える点がこのリーダーシップ・スタイルと類似しますが、PLの場合、意思決定権のみを部下と共有し、リーダー業務の権限と責任を保持することで、従業員から自由放任型のマネジメントと思われることを効果的に回避する点が異なり、有益だと説明されます。
続いて、指示的リーダーシップとの比較です。
指示的リーダーシップは、そのまま、具体的な指示・命令を通じて、従業員に規律と責任感を高め、業務への姿勢をつくるものです。一方、PLは、意思決定への参加に巻き込むことで、仕事の問題解決に対する当事者意識を高めるため、従業員の意識(責任感 vs 当事者意識)が類似しています。
ただ、指示型リーダーシップが、リーダーと部下の間に、命令―服従、指示ー命令といった関係を作るのに対し、PLは、部下の自律性、協調性、開放性を高め、意思決定につながる創造的なアイデアや解決策の提供や、革新的な行動を高めるという点で有効性が高い、と指摘されていました。
感じたこと
参加型リーダーシップは、従業員の当事者意識や意思決定への参画感といった、部下の認知を高めるものという観点では、インクルーシブ・リーダーシップと近しい部分があります。
(ILはインクルージョン認知:帰属意識や独自性を認められているという感覚を高めるもの)
先行要因の整理(組織レベル、個人レベル)などは参考になったものの、レビューした文献の数や、概念の意味、レビューされた要因の参照元に記載の不足があるため、読み手に取って若干説得力が欠けているように感じます。
もう少し詳しく知りたいと思っても、どの研究から参照したのかわからないと、ちょっと残念です。
傾向としてはその通りだと思うのですが、参照の弱さが気になり、これでレビュー論文としてはありなのだろうか、、、と疑問が頭に浮かぶ文献でした。
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