【リーダーシップ】倫理的リーダーシップの発揮に関連するパーソナリティとは？（Kalshoven et al., 2011）

今回は、少しマイナーな「倫理的リーダーシップ」とパーソナリティの関係を扱った文献を紹介します。

Kalshoven, K., Den Hartog, D. N., & De Hoogh, A. H. (2011). Ethical leader behavior and big five factors of personality. Journal of business ethics, 100, 349-366.

どんな論文？

この研究は、ビッグファイブ性格特性（誠実性、協調性、情緒安定性（神経症的傾向の反対）、外向性、経験への開放性）と「倫理的リーダーシップ」の関係を調査したものです。

倫理的リーダーシップ（Ethical Leadership）とは、リーダーが個人的な行動や対人関係を通じて道徳的に適切な行動を示し、フォロワーにもそのような行動を促進するリーダー行動を指しており、「役割明確化」「公平性」「権力共有」の３つの下位尺度から構成されます。

この研究は、2段階に分けて行われています。
第1の研究は、ビッグファイブ特性と倫理的リーダーシップ（一つの尺度）との関係を調査し、
第2の研究は、ビッグファイブ特性と倫理的リーダーシップの下位尺度レベルの行動との関係を調査しています。

研究の結果、以下のことが明らかになりました。

• 誠実性は、倫理的リーダーシップと相関・正の関連性（有意な回帰係数）が見られ、および下位尺度である役割明確化と正の有意な相関を示した

• 協調性は、倫理的リーダーシップとの相関がみられ（有意な回帰係数は見られず）、下位尺度である公平性と権力共有と正の有意な相関を示した

• 情緒安定性は、倫理的リーダーシップと相関が示されなかったが、下位尺度である役割明確化と正の有意な相関を示した

※経験への開放性や外向性は、倫理的リーダーシップおよび下位尺度との有意な関連性が見られませんでした。

つまり、誠実性（徹底的、義務感、責任感、整理整頓を好み、困難への対処や挑戦を乗り越える姿勢）が特に、倫理的リーダーシップと関連がある、と言えそうです。

倫理的リーダーシップとは？

あまりメジャーでない（と個人的に感じている）倫理的リーダーシップについて、下位尺度を含めて詳しく説明したいと思います。

倫理的リーダーシップは、Brown et al.（2005）の定義によると、
「個人的な活動や個人間の関係を通じた、規範的で適正な行動の提示、および、双方向的なコミュニケーショ ン・強化・意思決定を通じた、メンバーの規範的で適正な行動の促進」
とされています。

以下に、倫理的リーダーシップの下位尺度と具体例を記載します。

1. 公平性 (Fairness)

   • 説明: 公平性とは、リーダーが全ての部下を公正に扱い、えこひいきを避けること。公平なリーダーは部下の信頼を得やすく、組織全体の士気を高める

   • 具体例: 昇進や評価の際に、リーダーが個人的な感情や偏見に基づかず、全ての部下を平等に評価すること。

2. 権力共有 (Power Sharing)

   • 説明: 権力共有とは、リーダーが意思決定プロセスにおいて部下の意見を尊重し、積極的に参加させることです。

   • 具体例: 会議で部下の意見を聞き入れ、その意見を基に意思決定を行うこと。部下が自分の意見が尊重されていると感じることで、組織へのコミットメントが高まる。

3. 役割明確化 (Role Clarification)

   • 説明: 役割明確化とは、リーダーが部下に対して明確な役割、期待、目標を示すこと。 部下が自分の役割と責任を理解することで、効率的に働き、目標達成に貢献しやすくなる。

   • 具体例: プロジェクト開始時に、各メンバーの役割と目標を明確に伝えること。

倫理的リーダーシップは、組織全体の倫理的風土を高め、従業員の満足度、組織市民行動、信頼関係を向上させることが他の研究で示されています。
これにより、組織のパフォーマンスが向上し、長期的な成功に寄与する、と言われているようです。

感じたこと

いわゆる「まじめ」な特性をあらわす誠実性が、倫理的リーダーシップに有効なのは、まあ、そうだよな、という感想です。しかし、逆に、それ以外の特性は回帰分析で有意性が見られなかったのは意外でした。

変革型リーダーシップでは外向性で回帰分析による影響も見られています。特性によって、発揮につながりやすいリーダーシップは異なるようです。（逆に、自分の持っている特性次第では、発揮が簡単ではないリーダーシップもある、と言えそうです）