【コラム】社会的交換理論を学ぶことで生じた大学「教員」という仕事に関する敬意とは。
久々に、コラム的な内容の投稿です。
こうしたコラムを書こうという衝動が湧いてきたのは、1950-60年代の古典的な理論を読み解く難しさに直面しているからです。
この難しさにため息をつくたびに、大学の先生方が授業の中で、シンプルな(時に味気ない)パワーポイント資料で簡潔にまとめていることのすごさを感じずにはいられません。
背景:なぜ、社会的交換理論を学ぶのか
とある勉強会で、一つ理論を取り上げて紹介することを行っており、その中で「社会的交換理論」というものを扱うことにしたのですが、これが間違いだったのかもしれません。
社会的交換理論とは、誤解を恐れず簡単に言えば、人と人とが行う相互作用において、相手から得る報酬または罰を交換し合うことで、行動(たとえば、信頼など)が生じる、としたものです。
社会的交換理論における報酬や罰は、どちらかと言えば心理的なもの、つまり、承認や不承認が扱われ、簡単に言えば、以下の法則が当てはまります。
「心理的利潤は、報酬から費用を引いたものである」(Homans, 1961, p.61)
こうした、心理的な利潤は、組織における行動のメカニズムとなります。つまり、リーダーシップのように、上司部下の関係性において、上司が部下に「報酬」を与えることで、部下が「服従」を返す、といったことを説明するのが、社会的交換理論であり、リーダーシップの効果を説明する、グラウンド・セオリーとして活用されます。
(詳しくは、前回の投稿をご覧ください)
勉強会をきっかけに、インクルーシブ・リーダーシップを研究し始めた身として、欠かすことのできないこの社会的交換理論を学び始めたのですが、これがとんでもなく奥深い、哲学的な領域でした。
社会的交換とは
社会的交換といっても、それが、個人的な利益主義なのか、全体としての利益を前提としたものなのかによって、まったく異なるとのこと。
そして、西欧的な個人主義にもとづく理論と、非西欧的な全体主義にもとづく理論の系譜が存在し、今なお統合されておらず、併存された状態となっています。
(ただし、Homansの社会的交換理論をベースに、Blauが精緻化したモデルが主流のようで、よく論文で参照されています)
「交換」といっても、何を交換するのかという概念が異なるわけです。
個人主義的なパラダイムでは、経済的な合理性に基づき、二者間の個人間の関係において心理的な報酬や罰が交換される、という考え方な一方、
全体主義的なパラダイムでは、二者間の関係を超えて、一般化された交換が行われる、という考え方が生まれます。
一般化された交換というのは、経済としての社会を重視する立場では、二者間の交換にとどまらないやり取りを指します。
こうした、パラダイムの違いを、知の巨人たちが批判しながら、理論を洗練させてきていることが、調べてみてわかりました。
何が難しいのか
一言でいえば、社会学・人類学の知の巨人たちの書いていることは、ものすごく難解で理解しにくいのです。
何言っているかまどろっこしくてわからんのです。
「要点は3つに分かれます」といった丁寧な文章などなく、ただただ、長い。そして同じようなことを何度も言う。
このまとめる作業、本当に難しいんです。
知の巨人たちのニュアンスを損なわずに、でも要点をおさえるのが難しい。
しかも、知の巨人は、他の巨人へのリスペクトを欠かないため、さらに別の方の難解な文章を引用します。それらをしっかり理解しなくては、何が言いたいのかよくわからなくなります。
こうして芋づる式に、比較対象となる理論や批判内容を読み進め、まとめていくことの難しさときたら。
そして、こうした難しい考えを、勉強会用の資料にまとめようとしたときに、気付きました。
〇十年前、大学のときに受けた授業で、パワーポイントにまとめていた先生たちも、同様の苦労をしていたのだろうと。
味気ない(本当に申し訳ありません・・・)、絵や図のない、文章だけのパワーポイントは、実はこうした難解な、知の巨人たちの考えを、ポイントを押さえつつも大学生にもわかるようにまとめてくれていたのだと。
もう、敬意しかありません。
大学の先生たち、本当に忙しいんです。教育も研究も、それ以外の仕事もたくさんあるし。
それなのに、大学生時代の自分ときたら、授業をいかにサボるかしか考えず、始めから終わりまで寝ることも珍しくありませんでした。
もちろん、大学の先生方の教える力も、大事だとは思います。
しかし、難解な理論を読み解き、資料に落とし込むことの大変さを知ってしまった今では、あの味気ない資料の裏側にある努力がひしひしと感じられ、味気なさが愛しくさえ思います。
こうした、大学の教員の皆様への深い敬意を感じつつ、「Slideshare」で、社会的交換理論に関する味気ないスライドがないかを必死でググりました。
(ありませんでした。)
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