権限委譲:デレゲーションとエンパワーメント
スクラムやSAFeなどのアジャイル開発では、チームに対し管理層が権限を適切に委譲することによって、その権限の中で自発的に行動しカイゼンを進めることが期待されます。この権限委譲は「デレゲーション」と「エンパワーメント」という2つの言葉で表現されます。
デレゲーションは全権と責任の委任
デレゲーションでは、物事を進める際の全権を委任すると同時にそれを遂行することに対しての責任を委任先に持たせます。この説明を聞いた時に、人によって2種類の反応に分かれると思います。1つは「うわ、丸投げかよ」とう反応、もう1つは「信頼され任されている」という反応です。あなたが委任したい人がどちらの反応を見せるかは、その委任したいことの内容も当然重要ですが、一番大切なのはその人との関係です。日頃から信頼関係の築けていない人からある日突然「デレゲーション」で作業を振られたらどう感じるか、考えてみて下さい。逆にある程度信頼関係が築けていたら、その作業内容が多少ハードルが高かったりしても「とりあえず頑張ってみる」ぐらいの気持ちになりませんか?
エンパワーメントは自律の促進
エンパワーメントでは、自律を促進するために権限を委譲します。責任がどこにあるかは大事ではなくて、エンパワーする相手が成長するために必要な権限を与えていきます。相手に可能な範囲で自由に動くことを認め自分の考えで進めさせつつ、失敗した時の責任は自分が負うのが正しい形です。
デレゲーションとエンパワーメントは両方必要
デレゲーションとエンパワーメント、どちらが優れているかの話ではないと思います。デレゲーションだけでは失敗を恐れチャレンジをする文化が失われるかもしれませんし、エンパワーメントだけでは自分のやることに対して責任感を持たせることが難しくなるかもしれません。
これら権限委譲をできず、上がすべてをコントロールしていてはいわゆる階層構造型の組織以外にはなれません。そのような組織では、マネジメント層が考えている以上のものはできず、その下にいるクリエイティブなマインドを持った従業員は情熱を失うことになるでしょう。既存の階層構造型の組織に対してオーバーレイ的にかぶさるネットワーク型組織やフラットなティール組織などはこのデレゲーションとエンパワーメントの適切な行使の結果として誕生するものだと思います。
スクラムチームも当然、このデレゲーションとエンパワーメントが管理層から適切に行われていないと、非常に小さい範囲のカイゼンしか行なえません。スクラムマスターが組織への支援を行うことも当然難しくなります。開発者やプロダクトオーナーが発揮するプロダクトオーナーシップがどこに向かうかも変わってくるでしょう。どうすればスクラムチームの力が最大限発揮されるかを考えるのは、スクラムチームだけの仕事ではなく管理層の仕事でもあります。「権限委譲」をうまく使いこなしてよりアジリティのある組織にしていきましょう。