インターネットの #推し記事2021 を3本あげてみる
●告知と前置き
2021年12月15日(水)の夜に、自分が所属している編集プロダクション・㈲ノオトの主催で、この1年にインターネットで公開された記事のなかから"推し”を紹介し合うトークイベントを無料生配信します。
「2021年あなたの推し記事は? ネット文章大好き編集者&ライターと振り返る【無料生配信】#推し記事2021」というイベントです。
ゲストはネット文章に精通したライター、編集者さんの4人。
オモコロ編集長の原宿さんと、デイリーポータルZの編集者であり文筆家の古賀及子さん、そしてねとらぼ編集者でありネット文章中毒者の杉本吏さん。もう1名、この人の推し記事ならばという方にご相談しているところです。
実は2019年、2020年と続けているイベントで、今年で3回目。
豪華なメンツに今年も引き受けて&検討いただいているのは、企画・司会としても本当にありがたい限りです。
一方で。いろんな人の視点の推し記事とその理由を知りたいな、という欲求が年々膨らんできました。
ネット記事に感情が動くときって、もっぱら一人でPCかスマホの画面を見ているときで、いまはSNSでその感動をすぐシェアできる時代になったけど、それも面倒くさかったり恥ずかしかったりで誰かに話すことなく記憶の最下層に沈んでいくことがほとんどだと思います。
自分はネット文章好きの友達と飲んでいるときにこのへんをだーーーっとしゃべって発散しているんですが、仕事とか関係なしにそのへんをおおっ広げにする機会がもっとあってよいのでは??
というわけで、2021年は同時に「推し記事アドベントカレンダー」もノオトで勝手に実施します。
12/1~25日の間毎日リレー形式&有志で、今年読んでよかったネット記事、印象に残っているブログなど、各々自分にとっての「2021年の推し記事」を紹介し合う企画になります。
そのトップバッターとなる12月1日分を、イベントの司会でもある自分が担当することにしたんですが。
普通に仕事でひ~~~~~んと言っていたら11月30日が来ていたし、てっぺん超えながら今ひ~~~~~んと記事を書いています。
言い訳だらけなのですが、2021年はスマホ断捨離を意図的に行ったのもあり、2012年にWeb畑のライター・編集者になって以降もっともインターネット記事を読まなかった年でした。企画者・司会として大失格じゃん……。
でも過去ツイートやブクマ記事を漁ってみたら、2021年もなんだかんだでインターネットの記事に救われている自分がいました。
そんなこんなで自分の「超個人的な推し記事2021」を3本ガガッと紹介していきます。
※トップ画像は実家の犬のポンタが、親父が日曜大工で張り切って作ってあげた犬小屋をその日の内に破壊したときの写真です。
●超個人的な推し記事2021の紹介
●レビューがヤバすぎるラーメン屋に行った日の話(マキヤ/note)
https://note.com/twistermakiya/n/nd2b41c9d3c10
もうめちゃくちゃ各所でバズっていたし、note記事自体にも2万153スキ(2021/12/1時点)っていうやばい数の愛が向けられている記事なので説明不要だとは思うんですが(あらためてスキって単位すごいな)。
もうそれでも推させてくれっていうくらい面白かったし圧倒された。
●友達と旅行中、客がレビューに「絶縁状態の兄弟が毎日ケンカしている特殊な状況」と「暗黙のルール」について詳しく書いているラーメン店を探し当てる、引きの強さ
●入店前にそのレビューのスクショをTwitterで「今まで見たラーメン屋で1番怖いな。もう着いちゃったし気になるから今から入るけど」という、最高にわくわくハラハラする文言でツイートするエンタメっぷり
●そのツイートが軽く数万回以上リツイートされ大注目を浴びている最中(現8.9万RT)、その日の夜にはレポート記事を公開してしまう肝の据わりっぷりとサービス精神
●その記事が、事実の描写も、言葉のチョイスも、構成(サスペンス性)もどれもピカイチ、テキストだけで徹頭徹尾面白いという筆力の高さ
こんなの「スキ」ってならずにいられようか。2021年7月28日の午後、ツイッター民の9割がマキヤさんの記事を心待ちにしていたんじゃないか。
https://twitter.com/TwisterMakiya/status/1420224340243587073
ラーメン店に入る前に攻略チャートを練る動向もおかしいし、入店後に声をかけてきた店員が兄なのかダイなのか悩んでいる引きとかも絶妙だし、「ダイだ!!!」の一行にスマホ見ながら吹き出したの覚えている。
SNSでハラハラする実況をしたあと、体験した出来事を最高のテキストで、その日の夜にブログで届けてくれた。
インターネットの面白さが凝縮されていて、これを誰に指図されることなく書いてしまうマキヤさんにただただ手のひらを合わせてしまいました。
●トレンドをさきどれ! 2021年はピニャータが流行る!!(藤原/オモコロ)
https://omocoro.jp/kiji/268850/
またまたオモコロの人じゃんって感じですが、最高に好きだったので推させてくれ。
2020年の推し記事トークイベントでも古賀さんが推してた記事、「落ちてるエロ本を探そう2020」を書いたライター、藤原さんが2021年1月に投下した記事。
ピニャータというのは南米のお祭りに登場する「くす玉人形」らしく、中にはお菓子やおもちゃが詰まっていて、子供が目隠ししながらこれを棒で叩き割って中身を拾い合う縁起物なんだとか。
なかでも悪魔の化身とされる馬型のピニャータを、「外出せずともパーティ気分を楽しめる」ツールとして藤原さんは自分の部屋に自作し、1日1回叩ける独自ルールで棒で殴り続け、崩壊していく過程をGIFアニメとともにレポートしていくのがこの記事です。
●異国の風習にならう名目で、かわいい馬の人形を殴り続ける行為が正当化される、ピニャータという文化に目をつけたセンス
●とってもかわいいピニャータをつくりあげ、それを毎日殴り続ける様子を撮り続けた努力
●その立て付けと事実の提示だけで、かわいさと凶暴性が混在し続けるカオスを見事につくりあげたオルタナティブ性
●3ページめに本文とほぼ関係ないと言っていい、英語の感嘆文の講座が始まる自由奔放さ
年始、仕事の合間に読んで、すっげー元気もらったの覚えています。
センスとか努力とかあげましたが、書き手が己のよいと思う行為を、なりふり構わずやりきっているオルタナティブ精神がめちゃ好きです。
ゆらゆら帝国「空洞です」の「なぜか町には大事なものがない」「意味を求めて無意味なものがない」の箇所を思い出し、ここには大事なものがあるなーって安心しました。
なんといっても、2021年の12月時点、ピニャータがまったくもって流行っていないのがいいです。
●連載:懐かしい未来 第14回 フジロック2021(マヒトゥ・ザ・ピーポー/晶文社「スクラップブック」)
バンド・GEZANのボーカルでありソングライターであるマヒトゥ・ザ・ピーポーさんが、出演が決まっている夏フェス・フジロック2021について、開催2日前にその心境を綴った文章です。
今年のフジロックは、新型コロナウイルス感染が国内で過去最大となった第5波の真っ只中。感染は拡大するのか収束するのか見通しの立たない状況下、有観客で決行されました。
多くの非難の声があがり、出演を辞退するアーティスト、出演を決めたアーティストから、なぜそうしたのかステイトメント文が続々と公開されました。
そこには政府の求める“自助”の限界に達した音楽ライブ業界の状況と、感染拡大に加担したくない想いとの間で揺れ動く、音楽家の葛藤が切実に語られていました。
コロナが始まる前から、家のない人達が音と食を楽しめる空間をと、入場料も飲食代も無料のフェスを作り進めてきたマヒトゥさんが放った表明文は特にすさまじいものがあり、自分の頭で考えて行動選択していくことの意義を突きつけられました。
今日においてミュージシャンは音を出すだけの仕事でなくなった。その選択や振る舞いについても自覚が求められていて、見誤ると奈落の底に落ちる。オリンピックをめぐるゴタゴタもその一つの象徴に思う
あらためて、音楽とは、生きるとはなんだろうか?
綺麗事でうまく絡めとりたいんじゃない。何かのためといった大義名分ではなく、主語を最小にした個人の意志でしかない。最後は誰かや何かのためじゃなく、わがままに極めて近いわたしの意志であり、あなたの意志だ。
この時代はただの傍観者でいることを許さない。それぞれが何を大切にし、未来と呼ばれる時間に何を残すか、その選択が委ねられている。
(以上、本文より抜粋)
晶文社さんという文化、アート活動に思い入れの強い出版社のWebメディアだからこそ、この声が瞬発的にダイレクトに届けられたと思っています。
いまコロナはすっかり落ち着き、夏の喧騒が嘘だったかのように世間が安心ムードに包まれていますが、ピーク時に自助を強いられたアーティストのこの切実な呼び掛けは決して忘れてよいものではなく、これからも突きつけられる場面が何度も何度も来ると思っています。
* *
とりあえず自分の「#推し記事2021」を3本紹介しました。
書き始めると愛がどんどん膨らんでいって全然手短にまとめられない……。
こんなに長くなくていいです。
もっと軽やかに、なんなら記事1本だけの紹介でもいいので、もし2021年で推したい記事があったら「推し記事アドベントカレンダー」に気軽にご参加ください~!
あと12月15日夜の推し記事オンラインイベントは無料生配信なので、作業やご飯がてらぜひぜひご視聴ください!
今年は登壇者のみなさん、何を推してくださるのか司会としてもめちゃ楽しみです。
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