アノニム(ネタバレします)
原田マハ著「アノニム」を読みました。著者は馬里邑美術館、伊藤忠商事、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務を経てフリーのキュレーターとして独立され、その後、執筆活動も始められた方です。
タイトルの「アノニム」は、登場人物の「Awesome(オーサム)」、「Nego(ネゴ)」、「Obrige(オブリージュ)」、「Nverness(ネバネス)」、「Yummy(ヤミー)」、「Miri(ミリ)」、「Epoch(エポック)」の頭文字を取って「anonyme」です。その6人を束ねるボスが「Jet(ジェット)」こと蒋恩道です。それぞれが華々しい経歴を持つ人物ですが、そんな7人がアート界のために協力して義賊のような活動をしています。
舞台は中国に返還されたばかりの香港。学生たちがデモを行っている中で、デモには少し興味があるモノの、それに参加しているクラスメイトなじみ切れていない、アーティスト志望の張英才という高校生が登場します。彼の周辺のエピソードと、アノニムのエピソード、そしてもう一人ゼウスと呼ばれる、美術コレクター周辺の3つのストリーがひとつに絡んできます。
ジャクソン・ポロックという画家の作品がオークションに出品されるのですが、残念な私はジャクソン・ポロックが実在の人物だということを調べてから知りました。賢明な方なら、張英才が自宅でアート活動をしているあたりでピンとくるのかもしれません。
読み手としての前提に足りなところが多い私ですが、それでもオークションが始まるとなると、緊張感を持って読むことができました。ゼウスの代理人とアノニムメンバーの駆け引きにより、結果としてゼウスは落札額を吊り上げられた上に、贋作を掴まされます。このあたり、ゼウスが作品を受け取ったところなどは描写がなく、ちょっと物足りませんでした。
アノニムに促されて、張英才が学生運動の集会に登壇し演説を行います。この運動に疑義を呈す一方、ジャクソン・ポロックの例に挙げて、「おれたちにもポロックのように出来る可能性がある!」と説きます。おそらくここがクライマックスなのですが、残念ながらあまりピンときませんでした。学生運動全体の温度の低さを読み取れていなかったのだと思いますが、私が学生運動の運営側だとしたら「だから、一生懸命運動やってんだよ」と言いたくなってしまいそうです。
アノニムメンバーの設定がしっかりしているので、シリーズ化しないとその設定がもったいないような気がしました。