撃墜(下)
柳田邦夫著「撃墜(下)」を読みました。上巻、中巻に続いて、本書が最終巻です。
本書の中心は大韓航空機007便が大きく航路をそらしてしまった原因についてでした。大雑把にまとめてしまうと、中巻である程度特定されたと思われる原因について、否定される根拠が登場し、しかし、それも完全に否定できるものではなく、やっぱり中巻で特定された原因ではないかというお話でした。しかしながら、最終的にはその原因というのは特定されていません。
そうした原因究明の中で「今の世の中は、数字がはんらんしていると思うんです。街を歩けば、大気汚染濃度や騒音の大小がいまいくつという表示がある。経済の話になるとGNP(国民総生産)の成長率がどうのと引き合いに出される。医学の問題になると、検査データとか五年生存率といった数字がかけめぐっている。しかし、そういう数字の一つ一つが、いかなる根拠に基づき、どのようにしてはじき出され、どんな意味を持つのかということまでは私たちはほとんど考えないですね」とありました。ここはかなり大事なところで、テレビなどで聞いたことの内容指数が登場して、「この数字が、○○を超えていますから、××しなければいけません。」みたいな論調に、頷いてしまったりしますが、「自分で考える」とは、そうした数字の根拠をしっかりと把握することでしょう。
また、「互いに矛盾する二つ以上のデータを示されたとき、何を根拠に、どちらが正しいと判断するのか、あるいは、いかにして先入観や予断の束縛から解き放たれて、正否の判断をするのか、決定的な証拠がない場合には、可能な限りの証跡を集めたり、論理的妥当性を考察したりすることによって、正解に接近する努力をしなければならない。」とありました。人間、物事を見るときにどうしてもバイアスがかかってフラットな目線が保てないことがありますから、気をつけたいと思います。
上巻、中巻、下巻全てに事件の全容を解明するのに不可欠な007便のブラックボックスは撃墜地付近の海底に沈んでいて行方が分からないと度々書いてありましたが、私は「ソ連が回収して、解析したが、自らのスパイ飛行説に都合の悪い情報なので公開していないのでは」と思っておりました。それも、当然バイアスがかかった嫌疑ではありますが、最後の付録で、ソ連のイズベスチヤ紙のレポートにソ連がブラックボックスを回収しているという複数人の証言があるとありました。本書はデータの話が多く食傷気味になって、途中で止めてしまおうかと思いましたが、最後の最後で「やっぱり」とやたらと納得できました。
いずれにしても、領空侵犯機を撃ち落とす位の姿勢は見習っていただきたい一方で、民間機が軍用機かの確認とか、その後の自国益最優先の対応なんて言うのは見習っていただきたくないと思いました。