執行草舟の視線

 竹本忠雄著「執行草舟の視線 美しい星いづこへ」を読みました。著者はフランス文学者で、アンドレ・マルローの側近・研究者として世界的に著名な方だそうです。

 冒頭で執行草舟の二つの神秘体験について触れられます。しかし、本当に触れられている程度で、はっきりしないため、内容を知らない私としてはちょっとじれったい思いをしました。この神秘体験について徐々に説明していく感じは、ちょっと小説仕立てになっているようにも思えました。答えを言ってしまうと、

一つは城ヶ島での自殺未遂で、原因は結婚寸前での破断とありましたが、もっと奥底の原因は「超自我と世俗界の間の軋轢」としていました。「超自我」も「世俗界」もちょっと理解が追い付かないのですが、これによって草舟は割腹自殺をはかるものの、太陽の光線によって失神し、海を漂いながらも生還を果たします。使用した担当には血のりがついていたともありました。そして、海に漂う自分を上空から見ているもうひとりの自分がいたともありました。にわかに信じられないような現象です。

もう一つは目黒不動尊で暗黒物質の直撃をうけたというもの。草舟は城ヶ島事件の2年目に目黒不動尊に日参するようになります。1年通った29歳の時、いつものように独協していると、本堂の奥から「鉄の固まりのように真っ黒」な物体がそろそろと近づいてきて、草舟の口の中に飛び込んだそうです。凄い衝撃があって、草舟は後方に飛ばされ、階段を転げ落ちたとのことでした。どうして目黒不動尊に1年も通っていたかというのも、書いてあった気がしますが、読み取れておりません。

それ以外にも幼少期に骨の髄まで達する大やけどをしたり、海水浴中に10㎞以上流されてしまったり、膿胸の石化現象という奇病で大量の放射線を浴びる治療を行う、無謀なジャンプをしてコンクリートに頭を打ち付け頭蓋骨骨折、口から脳漿が出るなんていう経験もしています。良く生きていらっしゃるものですが、そうした経験も踏まえて、死の淵を何度か経験したからこそ理解できるものがあるのかもしれません。

そんな体験の隙間に、アンドレ・マルロー、三島由紀夫等等、著名人の言葉を挟んで、著書からの引用もあり、巻末には人名索引と署名・文献名索引がありましたが、これだけでも結構な量でした。著者の圧巻の博識振りに振り落とされては、必死で捕まえて、また振り落とされての繰り返しで、きちんと理解が出来たとは言えません。本書で引用されている本を読んでみるなどして、少しずつでも理解できればと思います。

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