ジャンゴ
花村萬月著「ジャンゴ」を読みました。著者はキャバレー回りのギタリストから、アルコール依存症を経て小説家になった方です。Kindle Unlimitedでこのタイトルを見つけて、手に取りました。
主人公は沢村というジャズギタリスト。沢村が演奏するジャズクラブのほか、芸能事務所を経営し、裏社会にも通じている山城とその取り巻きのチンピラに、沢村が捕らえられているところからはじまります。理由は山城の妹に手を出し、スピードと呼ばれる覚せい剤を使わせたから。銃口を向けられている沢村ですが、「撃鉄の間に指を挟めば撃たれない」として、その場を切り抜けるストーリーを描きます。ただ、挟んだ指はただでは済まない為、この場を切り抜けるためにギタリストの命でもある指を犠牲にして、残った指でギターを弾き、ジャンゴ・ラインハルトのようなギタリストを目指すようなストーリーかなと想像しました。
しかしながら、そんな単純なストーリーでもなく、山城の妹・麗子、山城のお抱えのオカマタンレント、山城と取引しているフリーのプロデューサー・芦原も現場に到着し、いろいろあって沢村は左手の薬指と小指を銃で撃たれ、2本の指を失ってしまいます。形としてはジャンゴ・ラインハルトと同じになりました。山城の命令で、芦原が沢村のその後の面倒を見ることになります。
実際は麗子にスピードを使ったのオカマタレントで、沢村は麗子に陥れられる形で指を失ってしまいます。しかし、ジャンゴのように復活を遂げるのではなく、自分は「ジャンゴではなかった」と失望します。一方、芦原は山城のお抱えタレントの亜矢子に思いを寄せていましたが、亜矢子も麗子によってスピード漬けにされて廃人同様、麗子は亜矢子の惨状をわざわざ録画して芦原に送り付けます。
芦原と沢村が山城兄妹とオカマタレントに復讐を果たして終了となりますが、この内容でタイトルに「ジャンゴ」は無いでしょう。不快な性描写もたくさんあって、音楽について触れているのはほんのわずかです。わざわざジャンゴを引きずり出さなくても、ギタリストの生命を奪われた男と愛する女を入っ人にされた男の復讐劇としては成り立ちます。敬愛するジャンゴ・ラインハルトを軽く扱われてしまった感じがして、あまり良い作品とは思えませんでした。