天使の囀り
貴志祐介著「天使の囀り」を読みました。著者は作家でホラー小説で様々な賞を受賞されています。「黒い家」は読ませて頂きましたが、本書もおすすめ頂いたので手に取りました。
冒頭、一方的なメールからスタートします。高梨光宏から北島早苗へ。高梨は作家で、早苗は精神科医です。早苗からの返信は書かれておらず、高梨からのメールが繰り返され、どうやら、二人は恋人同士、高梨はアマゾンに行っていることが分かります。高梨も含めた5人のメンバーで、アマゾンで動物の調査を行っていますが、その最中、拠点から離れたところをボートで航行中に荷物を落とし、食べ物がない状態で野営することになります。そこに現れたサルを、5人は捕食してしまい、それが原因で現地住民から退去を命じられたとのメールで序章が終了します。
日本に帰ってきた高梨はすっかり性格も変わっており、久しぶりに会った早苗はおかしいと思いつつも、そのまま関係を続け、最後に高梨はさらに豹変し自殺してしまいます。一方で、荻野信一といううだつの上がらない青年が登場します。独身一人暮らしのコンビニ店員で、家で恋愛ゲームに興じることが楽しみ、大家さんに色々と話しかけられるのを、ウザそうにかわす描写がまたそれらしい感じでした。この青年と早苗の周辺との2つのストーリー展開です。
高梨の自殺に続いて、アマゾンに行った他の2人のメンバーも自殺、そして他の2人のメンバーは行方不明ということが分かります。この時点で私は行方不明のメンバーも「自殺した」と決めつけていたので、展開を読み違え、逆に後半が楽しく読めました。一方、うだつの上がらない信一は、ネットサーフィンで行きついたチャットから自己啓発セミナーに参加、その合宿で肉を食べさせられます。もうこの肉がとても怪しいわけですが、これが線虫に感染しているサルの肉でした。
アマゾンに云った3人が自殺したのも、サルを食べて線虫に感染したのが原因ですが、この線虫、ブラジル脳線虫というもので、脳に寄生し、人の脳神経を支配してしまうという恐ろしい線虫でした。早苗は、独自で調査をすすめ、線虫研究の権威である依田と出会い、行方不明の二人が自己啓発セミナーの主催者であることを突き止めます。
この辺りで、何となく全体像がつかめて、「これだったら『黒い家』の方が怖かったな」と思ったら、最後の最後、ブラジル脳線虫に感染し、自殺に至らなかった人間の成れの果ての描写を読んで身震いすることになりました。
読後、実家で食事するときに、母親にたまたま「お肉に火が通っているか確認して」と言われました。普段はそう言われてももまったく気にしない私ですが、いつもより念入りに確認してしまいました。