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大学生日記 #32 指笛

「岡田君、ご飯は食べたの?」
その時、唐突に清美が聞いてきた。
「え?」
「ご飯よ、ご飯。夕飯はもう食べたの?」
「いえ、まだです」
「そう。だったら、家で夕飯食べていきなさい。これから急いで夕飯作るから」
「あ、いえ、僕は大丈夫です。これで帰りますから」
広司は清美の言葉の真意がわからず、戸惑うことしか出来ないでいた。
「あのさ、岡田君。さっきから気になってたんだけど、普段からちゃんとご飯食べてる?顔色あんまり良くないわよ」
心配そうな声で清美が言った。
「まぁ、それなりには・・・」
「それなりにって。駄目よ、ご飯はしっかり食べないと!」
今度は咲が口を挟んでくる。
「余計なお節介かもしれないけど、岡田君位の年頃の子は、毎日の食事が本当に大切なのよ。将来にとってもね」
諭すような清美の声だった。しかし、正直今の広司にとっては、食事などどうでもいいことであり、敢えてこの状況で広司を食事に誘う清美の真意が理解出来ず、広司は穿った見方と勝手な想像が風船のように膨らんでいた。
「まぁ、せっかくお母さんが言ってるんだから、食べていけば?口では色々と私も言うけど、本当にお母さんの料理は美味しいのよ。それにほら、ご飯食べてれば、そのうち結衣もお腹空かして部屋から出てくるかもしれないし。それに私もちょっと聞きたいこともあるし・・・」
「え?聞きたいこと?」
「全く!それにしてもうるさい犬ね本当に!」
広司の質問には答えず咲が言うと、彼女は右手を口元に添えて、見事な指笛を突然鳴らした。その独特な高く鋭い音が、辺りに響くとまるで待っていたように鳴き声はぴたりと止まり、その後は嵐の過ぎ去った海のように穏やかで静かな夜辺りに広がった。

#小説 #夕飯 #お節介 #指笛 #嵐 #静けさ

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