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書評・宇野常寛『ゼロ年代の想像力』

この文章は『ゼロ年代の想像力』の書評です。

はじめにことわっておくと、わたしは宇野常寛という批評家がきらいでした。東浩紀や宮台真司もきらいだったけど、宇野は特にきらいでした。

今回『ゼロ年代の想像力』を読んで思ったのは、「宇野の文章は面白いな」ということです。文章わかりやすいし、(当時の人気批評家に対して)<世代間闘争>を仕掛けているのも、牧歌的というか、なんか好感が持てる。

『ゼロ年代の想像力』が刊行されたのは2008年。宇野はまだ27歳。宇野が仮想敵として挙げている批評家・東浩紀も当時まだ37歳。どちらも若い。

インターネット世代の気鋭の批評家が、1995年以降(の想像力でしかコンテンツ批評できないの)を「古い世代」と認定して、斬っていく。そんなイメージだろうか。

宇野も、はじめての単著だけあって意欲的だし、「古い世代」をあざやかに斬りすてていく姿はかっこいいです。

この本では、ゼロ年代以降に制作されたコンテンツの中から、<新自由主義>、<サヴァイブ系>、<決断主義>、<レイプファンタジー>、<母性のディストピア>等の要素を取り出して、ゼロ年代以降の世代感覚をすくいあげている。そんなイメージ。

しかし、若手批評家としてのポジションを引き受けすぎ感もあります。

例えば、「新しい書き手vs古い世代」という構造自体が、<批評>における儀礼的な形式であり、宇野は大真面目にその構造に乗っかっていきます。

このアクションは、『ゼロ年代の想像力』の中では、おおむね好意的に映るのですが、「論壇政治に対して直線的にアタックする」という姿勢がうっとうしく感じることもあって…まあ、このモンダイは『ゼロ年代の想像力』の書評からズレるので割愛します。

もう一つは、コンテンツを道具的に扱っていることです。これは<批評>という営み(ひいては人文学)全体が持っている性質なので、もっと複雑な問題でありそうです。

今回『ゼロ年代の想像力』を読んで「面白い」と感じたのは、取り上げられているコンテンツのセンスが良いところでした。

宮藤官九郎、木皿泉、よしながふみetc…。
われわれがユースだった時代に「面白い」と感じていたコンテンツが取り上げられていて嬉しかった。宇野は、それらのコンテンツに対して「これこれこういう理由があって、この作品は優れている」と批評し、重みづけをしてくれている。

さらに、「この作品と、この作品には、これらの共通点があり、これらの共通点は現代の若者のこのような問題意識を反映している」というあざやかな展開は、書き手としての実力を感じます。「ほほう」と思う。「たしかに」と思う。『ゼロ年代の想像力』には<批評>のよろこびがありました。例えば『動ポモ』以降の東浩紀(あるいは『サブカルチャー神話解体』の宮台真司)を彷彿とさせるような。

<批評>には「俺がこう思ったからこうだ」という性格があります。読者(われわれ)は、<批評>を読んだとき、「そうかも」と思ったりする。「ちがうかも」と思ったりもします。読み手は、「所詮批評」「されど批評」のあわいの中で批評家をジャッジします。宇野は、そのような遊戯が成立していた時代の最後のプレイヤーだと言えるかもしれません。

というのも『ゼロ年代の想像力』以降、コンテンツを道具的に扱う批評家は、ひっそりとうすくなっていったからです。

何故か。インターネットの言説空間が民に開かれるにつれて、コンテンツそのものが好きな人(ファンダムや推し活)や、専門性の高い人(学者やライター)から「しっ、しっ」と扱われるようになったからです。
<批評>は<批評クラスター>に閉じこもり、「俺がこう思ったからこうだ」的な<批評>はひっそりとしていきました。一部をのぞいて。

2010年代を統括すると、東日本大震災で幕をあけて、COVIT19が武漢で発生したところで幕をとじたわけですが、それはインターネットという言説空間が、もはやアジールではなくなったことを意味します。インターネットは世界を包み込み、社会がインターネットを包摂していきました。この10年を「非常にポリティカルな時代だった」と言うことが出来る。

そんな中で「俺がこう思うからこうだ」的な遊戯性の高い言説は、<アクティビスト>が援用するようなソーシャルグッドな言説しかちやほやされません。(反面、アンダーグラウンドでは陰謀論がオルタナライトと手を組むというダークサイドの動きもありましたが)

『ゼロ年代の想像力』(というか宇野)はどちらだろうか。東・宮台を批判することで結果的にソーシャルグッドになっている。そこが今読むと面白いところです。あるいは政治的にも「使える」ものになっている(…かもしれません)。尤も、2010年代は<批評クラスター>と、<アクティビスト>がかけはなれていたので、宇野の批評はひっそりと扱われていたわけですが…。

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