見出し画像

慰安婦登録見送りに至る経緯と動向



●はじめに
平成29年10月末、国連教育科学文化機関(ユネスコ)はウェブサイトで、「世界の記憶」(世界記憶遺産)に日中韓などの民間団体が共同申請した日本軍「慰安婦の声」文書と、日米4団体が共同申請した「慰安婦と日本軍規律に関する証拠」文書の2件の登録判断を保留し、申請者と関係者の対話を促すと発表した。

登録可否を審査する国際諮問委員会(IAC)は「関係当事者らが対話する便利な場所と時間を設ける」よう勧告した。

この決定について、産経新聞は「日本による官民挙げた登録阻止の取り組みが一定の成果を挙げたといえる」と評価している。

この官民一体の取り組みの成功要因は、ユネスコの「平和友好」「相互理解」「対話」の精神の尊重、問題案件の対話の継続と決定の先送りなどの制度改善、「記憶遺産保護のための一般指針」に基づく反論、公平的正義の実現などを、日本が主導したことにあるのではないか。


今日と明日にかけて、『歴史認識問題研究』第2号に収録した報告文「慰安婦登録見送りの経緯と今後の課題」を紹介したい。



 


〈登録見送りに至る経緯と動向〉

●2015年10月12日
中国外務省副報道局長記者会見・・・ユネスコ側から慰安婦資料の共同申請を奨励された。 ・・・ 高橋論文⑨⑰参照

●2015年10月19日
高橋史朗・6つの提言 (国家基本問題研究所「今週の直言」)→「南京大虐殺」文書登録の失敗を繰り返さないための緊急提言・・・「世界の記憶」制度の抜本的改革への働きかけと官民一体となった取り組みの必要性を強調→外務省の歴史認識の問題点(外務省HPの「歴史問題Q&A」を抜本的に見直す必要あり)、RSCに働きかけず、(RSCの予備的勧告を資料の中身を確認することなく黙認した)IACへの対応が後手に回った外交戦略へのチェック役の不在、官民の連携不足等の失敗因を解決するための緊急提言。 … 高橋論文①②⑩⑮⑱参照

●2016年3月15~16日
「ユネスコ記憶遺産共同登録国際委員会」第3回会議にレイ・エドモンドソン氏が出席。・・・高橋論文④参照

●6月3日
「慰安婦と日本軍規律に関する文書」「通州事件」ユネスコ「世界の記憶」に登録申請を記者会見で発表 (産経新聞)・・・ 高橋論文⑳参照

●8月3日
「慰安婦の声」共同申請書の抜粋を国連のウェブサイトで公開。・・・高橋論文 ③⑪⑫参照

●2016年9月9日
慰安婦資料の登録を共同申請した日中韓などの市民団体が東京で開催した集会でエドモンドソン氏が基調講演を行い、「慰安婦資料の登録の是非は現行のガイドラインに沿って判断され、見直し後の基準は適用されない」と明言した (9月10日付朝日新聞)。・・・高橋論文④参照

●2017年2月26・27日
国際諮問委員会 (IAC) の下部機関である登録小委員会 (RSC)で 「政治的案件」 について協議し、申請者に「予備的勧告」を行うことになった。

●3月1~4日
IAC委員及びレビューグループによる専門家会合が開催され、IAC進捗報告書が作成され、 第201回ユネスコ執行委員会文書として公開された。同文書には、「登録済み記録遺産の保存及びアクセス状況のフォローアップ (4年に1回の定期報告)」の他に「政治的濫用から 『世界の記憶』 事業を保護する枠組みが必要」として、ユネスコ事務局長に以下の勧告を行った。

(1) 「世界の記憶」 にとって重要なのは、 第一次資料の保全とアクセスであり、歴史的紛争の解釈や解決ではない。
(2)申請文書は、 事務局から関係国に通知され、 ウェブサイト上で公開される。
(3) RSCによる予備的勧告の後、 申請者による予備的勧告への応答。
(4) RSCはこれらの応答に基づき再検討を行い、 IACに勧告を提出。 IACが審査を行い、事務局長に専門的評価を勧告。
(5) 疑義が呈された事案に関しては、RSCへの提出前に関係者間で対話 (仲介され得る)→対話の結果: ①共同申請②申請案件の記載内容について異なる見解を包含した登録への合意③合意が得られない場合、次回登録申請サイクル(申請から4年後) が終了するまで対話を継続。
(6) 事務局長はIACの専門的助言及び他の関連情報を考慮し、最終決定。

ここから先は

3,711字

①歴史教育、②家庭教育、③道徳教育、④日本的Well-Being教育の観点から、研究の最新情報や、課…

理論コース塾生

¥990 / 月

実践コース

¥2,000 / 月

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?