戦後の「管理主義伝説」に風穴を開けた大阪市「学校安心ルール」

いじめ撲滅に向けた緊急分離措置の創設提言一自民党文部科学部会 
 
 昨年5月16日、自民党文部科学部会(三谷英弘座長)は学校現場でのいじめの撲滅にむけて、いじめを行った児童に対し、学校の敷地に入らないことを命じるなどの緊急分離措置を創設するという内容の提言を取りまとめた。
 同提言では、いじめの加害者への処分は第3段階で、第1段階として、口頭指導や保護者への報告を行い、改善が見られない場合、第2段階で懲戒処分、第3段階で出席停止処分にすることが盛り込まれている。
 第2段階の懲戒処分として、新たにいじめを行った児童に対し、学校の敷地に入らないことを校長が命じる緊急分離措置を創設すべきとしている。措置の解除の際には、教育委員会が関与することも記載されている。
 いじめを行った児童の「教育を受ける権利」との兼ね合いで、措置は恒常的なものではなく、あくまでも緊急的な対応として行うという。同提言を文科大臣に提出し、新たな懲戒処分の創設を自民党は目指しているが、公明党が反対しているため実現には至っていない。

急増する校内暴力が急減した理由は一体何か

 文科省が発表した平成29年度の「児童生徒の問題行動」の調査結果では、小中高校における暴力行為が過去最多であった。徐々に増加していた小学校の暴力行為は、平成26年度から急増し、平成29年度は中学校の件数とほぼ肩を並べるまでに至った。
 平成23年から令和2年までの10年間で見ると、ほぼ暴力行為の発生件数が毎年上昇し続けている都道府県は、神奈川県、大阪府、京都府、高知県で、平成28年から沖縄県も目立つようになった。
 大阪府は平成24年度から27年度まで全国1位であったが、平成28年から急減し、平成29年度は平成26年度の暴力件数の4分の1に減少した。その理由は一体何か。
 小学校、中学校共に平成26年度の千人当たりの生徒間暴力行為が全国平均の3倍であった大阪市では、平成28年から「やってはいけない行為」を明示して、「学校安心ルール」と呼び、ポスターやルール表等を通じて生徒、保護者の共通理解を促してきた。

大阪市「学校安心ルール」の基本的考え方と段階的指導

 「学校安心ルール」の「基本的な考え方」には、次のように書かれている。

○学校安心ルールは、あらかじめルールを明示することにより、子供たちがしてはいけないことを自覚した上で、自らを律することができるよう促すことを目的として作成したものです。
○子供たちには日頃より、基本的な約束に示された事柄を心がけることを伝え、一人ひとりがルールを守ることの大切さや相手のことを考えることができる「より良い社会(学校)」を目指しています。
○第1~3段階の基本となるものは、『体罰・暴力行為を許さない開かれた学校づくりのために』の「児童生徒の問題行動への対応に関する指針」によるものです。

 同ルールは「基本的な約束事」として、①嘘をつかない、②ルールを守る、➂人に親切にする、④勉強する、の4つを掲げ、縦軸に第1~3段階、横軸に「学習時」「他の子に対して」「先生に対して」「その他のルールとして」「学校等が行うことができる対応」について詳述している。
 この段階的指導のルールの導入によって学級や学校が落ち着きを取り戻し、社会的には犯罪行為とみなされる重篤な問題行動に対して、毅然とした対応を明示し、第3段階の行為に対しては「訓告できる」できることを明らかにした。

米の「割れ窓理論」と「ゼロ・トレランス方式」に学べ

 アメリカでは、小さな違反でもルールに基づいて対応することの重要性が、「建物の窓1枚が割れていても放置しないで、地域の犯罪につながることを防ぐ」ことに例えられて、「割れ窓理論(Broken Windows Theory)」として知られている。
 政府を代表して英米仏欄の海外視察をした折に、アメリカの中学校で窓ガラスを割る暴力事件が起き、警察が駆けつけ生徒の保護者を学校に呼び出して罰金を払わせた現場を目撃して驚いたことがある。
 文科省は「児童生徒の問題行動や非行等に対しては、あらかじめ定められている指導基準に基づき、『してはいけない事はしてはいけない』と、毅然とした粘り強い指導を行っていくこと」を推奨している。
 また、「各学校の実態に応じ、米国で実践されている『ゼロ・トレランス方式』にも取り入れられている『段階的指導』等の方法を参考とするなどして、体系的で一貫した指導方法の確立に努めること」と明示している。

諸外国の校内暴力の原因と対策

 平成29年度の問題行動調査での、小学校の暴力行為件数は、全国平均が千人当たり4,4人であったのに対し、大阪市は1人で、アンケート調査でも「学校が楽しい」と答えた子供の数が増えた。
 昭和53年に「校内暴力」について議論した国会文教委員会に参考人招致された広島大学の沖原豊教授は、諸外国87カ国の校内暴力の3要素である「対教師暴力」「器物破壊」「生徒間暴力」の実態調査に基づいて、校内暴力の原因について、次のように指摘した。
⑴ 自由と規律のバランスが崩れた「許容社会」
⑵ 強制、制限しない教育
⑶ 大目に見る教育
⑷ 叱らない教育
⑸ 罰しない教育 
 また、同調査の有効回答63か国が「校内暴力の原因」として列挙しているのは、⑴家庭のしつけの喪失、⑵学校の規律の欠如、⑶マスコミの過度の暴力描写、⑷地域社会の連帯感の欠如、⑸生徒自身が持っている攻撃的な性格。である。
 さらに、「校内暴力の対策」としては、⑴家庭との連携を深める、⑵学校規律を重視する、具体的には、規律を守らない者に対しては「停学・退学、警察との連携、学校保安員の配置、を列挙している。

米国立教育研究所「安全な学校の研究」調査報告書の校内暴力対策

 米連邦議会の要請に基づいて「安全な学校の研究」を行った米国立教育研究所は報告書を公表し、校内暴力の対策として次の8点を挙げた。
⑴ 学校の規律及び監督の強化
⑵ ガードマン等の保安職員の配置
⑶ 父母、地域社会との連携
⑷ 校風の改善
⑸ 防犯ベル、テレビカメラの設置、施錠などの保安施設の整備
⑹ 生徒指導等に関する教員研修
⑺ 教職課程及びカウンセリングの充実
⑻ 後者の改善
 米ギャラップ教育世論調査によれば、アメリカ国民は10年以上にわたって「学校の規律の向上が最大の問題」と答え、規律の内容としては、⑴学校の規則を守る、⑵教師が権威を持って監督する、⑶教師への尊敬、を挙げている。
 中国の「中学生守則」にも、「学校の規律を守り、公共の秩序を遵守し、国家の法令を守る」と明記されている。ソビエトの育児方針も第一に「自覚的な規律」即ち自律心を重視している。

学校の管理が原因だという倒錯した「管理主義伝説

 このように「学校の規律」を重んじるのが世界の共通点であるが、日本では欧米の義務教育における「停学」に当たる「出席停止」が機能しなかった。いじめっ子対策として自民党の義家弘介議員が強く主張した「出席停止処分」は空文化し、被害者の人権より加害者の権利が重視された。
 学校の「管理」主義が子供の暴力やいじめの原因だという倒錯した「管理主義伝説」が日教組や尾木ママに代表される進歩的教育学者等によって吹聴され、マスコミが後押ししたために、小学校の校内暴力の急増に対処できず、教員志望の急減、教員不足という深刻な問題に直面している。
 馳浩議員に依頼され、自民党の文教科学部会でアメリカの49州のいじめ法について詳細に報告し、「いじめ防止対策推進法」の原案作成に応じたが、同法は学校や教育委員会が責任をもって問題の解決に当たることを義務付けている。
 しかし、特に義務教育においてはこれまで内部にルール作りがない(内的事項)のために、懲戒は勿論出席停止なども機能せず、「チーム学校」ができなかった。教育現場の実情を踏まえた責任ある「学校安心ルール」の段階的導入を急がねばならない。

 
 


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