森田成也氏の「トランス問題」に関する核心を衝いた論考
5月24日に最終更新された「トランス問題をどのように考えるべきか」と題する森田成也氏の論考は傾聴に値する核心を衝いたものであると思われるので紹介したい。以下はその抜粋である。
ほぼすべての野党と主要な国際機関や人権団体がTG派の教義(われわれはこれをトランスジェンダリズムとかトランス・イデオロギーと呼んでいる)を受け入れてしまっている現在、…別の有力な考えが存在し、それは決して偏見でも差別でもないということ、従って、科学的研究と民主的議論の対象であることを理解していただくことに、今日の私の主たる目標を置くことにする。次の2歩目(トランスジェンダリズムの政治的本質、それがもたらす種々の社会的災厄、トランス運動をバックアップするグローバル資本の存在(森田成也「トランスジェンダリズムは究極のミソジニー一一日本左翼への訴え」参照)、ネオリベ化した左派がトランスジェンダリズムに乗っ取られた理由、などの政治的により高度な問題)については…別の機会に譲る。…
●NHKがカルト用語「出生時に割り当てられた性別」を使う危険性
共産党や一部の公的機関やメディアも最近「出生時に割り当てられた性別」というカルト用語を普通に使い始めており、危険水域にある(注:「NHKハートネット」は1月9日の放送「LGBTQ+をイチから学ぶ!フクチッチ」において、「4つの性」の一番目として、「生まれたときに割り当てられた性別をもとに戸籍などに記載された性別」というように説明している。公共放送がこのようなカルト用語を平然と用いているのは大きな問題である。NHKが普通に「ポアする」とか、「アダム国家」「エバ国家」などと使っていたら異様なのと同じである)。
○トランスジェンダーと性同一性障害とは異なる
〇「性別適合手術」を受ける人と性同一性障害当事者とは同じではない
〇同性愛者とトランスジェンダーとは異なる。むしろ、いわゆる「トランス女性」の多くは女性を性的対象にしている
●セックスとジェンダーとを明確に区別する必要がある
さまざまな混同や誤解のもとになっているのは、生物学的な性別を意味する「セックス」と、「男らしさ」や『女らしさ』といった社会的・文化的な規範を意味する「ジェンダー」との(意識的ないし無意識的な)混同である(森田成也『資本主義と性差別』青木書店、参照)。…セックスとジェンダーとを厳密に区分することが必要であり、どれほど「女性ジェンダー」をまとい、それを過度に強調する男性がいたとしても、その人の性別が男性であることは何の変りもない。社会制度は基本的に客観的なセックスを基盤にして構築されてきた…セックスはトランスできないのであり、女性的ジェンダー規範を愛好する男性と、男性的ジェンダー規範を好む女性が存在するだけであり、そうした多様性を承認する事こそが本来の意味での「多様性」なのである。…進歩派の学者やメディアなどがよく口にする「性別二元論に反対」という決まり文句は、ジェンダーに関しては正しいが、セックスに関してはまったく間違いである。…脳の構造やその他の生物学的特性に、トランスとそれ以外との間に違いは見出されなかった。
●「性別はグラデーション」ではない
「性別は自己決定できる」という認識は、典型的なトランスジェンダリズムの発想である。性別は客観的に決定されており、自己決定できるものではない。…法律に「性自認に基づく差別は禁止される」「性自認による差別は認められない」などという文言が入れば、それは極めて危険なものになるだろうし、政教分離という近代国家の原則を踏みにじることになるだろう。…
「そもそも生物学的に性別はグラデーションであり、二元的に分けることはできない」と学者や医者の一部が言っている。しかし、その時、彼らが念頭に置いているのは、基本的に「性分化疾患(DSD)」の人たちである。…しかし、これらの疾患は、その人を男性でも女性でもない第三の性にするわけでもなければ、中性にするものでもない。DSDの人も男女どちらかであり、依然として性別は二元的なのである。DSDの当事者団体もそう主張(注:「ジェンダー・アイデンティティ」という言葉も、もともとは、身体上男女の区別のつきにくいDSDの人々がどちらかの性別にアイデンティファイするかという脈絡で定着して言った言葉だが、この言葉もTG派が簒奪したのである)しており、自分たちの存在をとトランスジェンダリズムに利用するなとTG派に訴えているが、トランス活動家からはトランスヘイタ―とののしられている。…彼らはDSDの存在を利用し、DSDの用語を簒奪しながら、DSDの人たちの尊厳を踏みにじっているのである。またもし身体的性別が本当にグラデーションで男女二元的でないなら、そもそも誰も「男性」や「女性」と同定することができず、トランスすることさえ不可能になるだろう。
●「心の性」の教育は「政教分離」違反・「教育の中立性」を侵害
稲田朋美、橋本徹もトランスジェンダリズム推進派である…エマニュエル米国駐日大使も極めて熱心なトランスイデオロギー推進派で、わざわざ日本の野党党首や著名なトランス活動家と面談さえして、…問題は、左派の多くがこの問題では、女性と子供の人権を踏みにじる側にに立っているという事実である。…性自認主義の教義をけっして法律や制度、公的機関の文書などに採り入れないこと(政教分離)。たとえば、法律や条例の文言に「性自認」という用語を絶対に入れるべきではない。…基礎資料として性別欄は絶対に必要である。主観的な「気持ち」よりも、客観的事実の方が重要である。性同一性障害特例法によって生物学的性別と異なる性別に変えることは、あくまでも「特例」であって、性別とは生物学的性別のことであるという大原則(特例法もその立場だ)を社会のあらゆる場面で貫くこと。とくに教育現場の一部では、現在安直に「心の性」という教義が教えられており、生物学的性別とは別の性別が心に存在するかのように子供を強化しているが、これは教育の中立性を侵害し、政教分離に反するものであるから、そうした傾向には断固反対すること。
●女性と子供の人権尊重を第一に!
「出生時に割り当てられた性別」というカルト的表現はなおさら用いるべきではない。…トイレなどの女性用スペースは自認の「性別」ではなく、身体性別を基準にし、…女性と子供の権利と尊厳を第一に考え、その上で利害の調整を図ること。「トランスジェンダーの権利と女性の権利は衝突しない」とか、「トランスジェンダーの権利を尊重することこそが女性の権利の尊重につながる」というような、根拠のない美辞麗句に惑わされないこと。…左派やフェミニストや進歩派の人々は勇気を出して、トランスジェンダリズムに反対しなければならない。…最高裁の大法廷が性同一性障害特例法の手術要件が違憲かどうかを審査するという段階にさえ来ている。もし違憲判断が下れば、トランスジェンダリズムが文字通り国家路線となる。…トランスジェンダリズムの勝利は女性の権利剥奪と子供の人権侵害に直結する…今こそ知性と勇気を奮い起こして、この危険極まりないトランスジェンダリズムに反対し、女性と子供の権利を守らなければならない。あなたが学者なら、学者としての使命にかけて、あなたが政治家なら、政治家としての信念に基づいて、そしてあなたが左翼で人権派なら、そのあらゆる価値観に基づいて、自己の良心と歴史に恥じない道を選択するべきである。