憲法に家族規定を盛り込み、「少子化対策」から「家族政策」重視へ!


  国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口」によれば、日本の総人口は2090年には6668万人,2115年には5056万人と、急激な勢いで減少する。一体なぜそのような状況に陥ってしまったのか。
 1947年、日本は第一次ベビーブームを迎え、日本の出生率は上昇し,1949年には4,32、出生数は約270万人で,2017年の3倍であった。ところが、私が生まれた1950年には上昇がピタリと止まり、出生数が一気に約36万人減少した。GHQが産児制限の普及を誘導したことによって、爆発的な中絶ブームが巻き起こったことが最大の要因であった。
 1949年の新聞記事を見ると、次のようなマスコミを含む国を挙げた「産児制限」の啓蒙によって、日本の出生率は減少の一途をたどったのである。
「文化的に内容のある生活をするためにも、産児制限は有効な手段と言わなければならない」(読売新聞、1月1日付)
「とにかく人口が多すぎる。何とかしなければ、どうにもならぬと、誰もが考えている」(毎日新聞、11月21日付)
 GHQが憲法草案を作成するに当たって参考にしたのがワイマール憲法であった。同憲法第119条(婚姻・家族・母性の保護)第2項には、「家族の清潔を保持し、これを社会的に助成することは、国家及び市町村の任務である」と書かれていた。
 ちなみに、ワイマール憲法後のドイツ連邦共和国基本法(西ドイツ)では、第8条(婚姻・家族・母性の保護)第2項に「婚姻及び家族は、国家秩序の特別の保護を受ける」という一文が入っている。
 このGHQの憲法草案に対して、日本の担当者が「この文は憲法の条文らしくない」と反対し、結局は削除された。しかし、このような条文が入っていれば今日のような危機的状況にはならなかったと思われる。
 ちなみに、自民党の憲法改正草案では第24条(家族、婚姻等に関する基本原則)第1項に、「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」と規定している。このような家族規定を憲法に盛り込む必要がある。

 ベアテ・シロタ・ゴードンが作成したは憲法草案の家族規定はワイマール憲法とソビエト憲法を写したものに過ぎなかった。以下、具体的にベアテ草案について考察してみよう。まずベアテが起草した草稿案は、次のようなものであった。

「①家族(family)は、人類社会の基礎であり、その伝統は、よきにつけ悪しきにつけ、国全体に浸透する。②それ故、婚姻と家族とは、法の保護を受ける。③婚姻と家族とは、両性が法律的にも社会的にも平等であることは当然(「争うべからざるもの“indisputable”」という手書きのメモで修正されている)であるとの考えに基礎を置き、親の強制ではなく相互の合意に基づき、かつ男性の支配ではなく、両性の協力に基づくべきであることを、ここに定める。④これらの原理に反する法律は廃止され、それに代わって、配偶者の選択、財産権、相続、本居(原文は”domicile”で、憲法第24条の英訳文では「住居」と訳されている)の選択、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項を、個人の尊厳と両性の本質的平等の見地に立って定める法律が制定されるべきである。」

 ワイマール憲法第119条には、「婚姻は、家庭、国の維持・成長の基礎である。それ故、婚姻は特別の保護を受ける。両性の平等を基本とする」とあり、この規定がベースになっているが、①は原文通り通過したが、②の「それ故、婚姻と家族とは、法の保護を受ける」という規定は、運営委員会による最終検討で「このようなことは憲法で規定するのが妥当であるかどうかは疑問であり、むしろ法律の規定にまつべきである」という理由で削除された。
 また、③の「婚姻と家族」の「家族」が削除され、「婚姻」のみについて規定するものに運営委員会で修正された。この案が3月4日から5日にかけて日本政府に提示されたが、①は「日本の法文の体裁に合わないし、必ずしも憲法の上に書く必要もない」という理由で削除され、②は、「婚姻は、両性の合意に基づいてのみ成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」という文言に修正された。また、④の「これらの原理に反する法律は廃止され、それに代わって」という文言の趣旨は最高法規の章の条文に出ているので必要がないとして削除され、文言が修正された。
 佐藤達夫は①の削除について、「わたしにとっては、昨今、憲法改正論議の一つの題目に家族の尊重ということがあげられているのに関連し、いささかのこそばゆさをもって思い出される条文である」と、複雑な心境を吐露しているが、同感である。
 このような修正を経ることによって、婚姻と家族双方に等しく重点を置く規定から、主として婚姻について規定するものへと転換し、婚姻における個人の尊厳と両性の平等を強調するものに限定される規定となった。ベアテ自身は「家族」を重視していたが、2月9日の運営委員との打ち合わせで修正され、「家族」における個人の尊厳と両性の本質的平等は、「婚姻」に限定されることになったのである。

 今日の少子化問題の元凶と言えるGHQの産児制限政策と家族政策並びに憲法の家族規定について、改めてGHQの占領文書に基づく事実関係の実証的研究を踏まえた考察が必要であろう。大平政権が打ち出した「日本型家族政策」「日本型福祉社会」を再評価し、家族政策への政策転換、家族基盤の充実強化を図らなければ、少子化は克服できないと思われる。
 ドイツは連邦政府に「家族省」を設置し、定期的に専門家によって家族の現状、家族に対する社会的支援の効果を分析し、家族政策の方向性を提示する「家族報告書」を作成し公表している。かつて日本では「国民生活白書」が家族の現状について詳細に分析し、日本版家族報告書の役割の一端を担っていたが、2009年に廃止された。
 フランスは家族政策の中で出生促進策と家族の基盤強化を図っている。また、スウェーデンではゼロ歳児保育はほとんど行っていない。基本的に1歳半迄は両親が育児休業を取得して家庭で育てる。我が国も在宅で育児をする親に対する支援策をもっと強化する必要がある。
 私は内閣府の男女共同参画会議の有識者議員を4期8年務め、内閣府の月刊誌の巻頭言に「典型的家族」について論じ、保育所に子供を預けるか家庭で子供を育てるかは女性が決める権利があるが、いずれの選択に対ても行政の公的支援は公平でなければならず、ゼロ歳児保育には1人30~40万円公的支援があるのに、家庭保育に公的支援が欠如ないし不足している現状は問題であると訴え、官邸で開催された男女共同参画会議でも官房長官と全大臣に問題提起させていただいた。
 日本はヨーロッパ諸国に比べると、家族政策に充てる支出が少なく、各国の家族関係社会支出の対GDP比が極めて低い。新たに設置された「こども家庭省」で家族政策を強化、拡充していくことが今後の重要課題であり、「少子化」の危機に真正面から立ち向かう家族・家庭政策こそが求められている。


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