「規律」「懲戒」を重んじるのは世界の常識一日本の非常識の元凶は何か

 6月24日付note拙稿「戦後の『管理主義伝説』に風穴を開けた大阪市『学校安心ルール』」で詳述したように、学校の「管理」主義が子供の暴力やいじめの原因だという倒錯した「管理主義伝説」が日教組や、東大教育学部や尾木ママに代表される進歩的教育学者等によって吹聴され、NHKをはじめとする主要テレビ・マスコミが後押ししたために、教育荒廃に拍車がかかり、小学校の校内暴力の急増に対処できず、教員志望の急減、若手教員の退職などによる教員不足や教員の質の低下などの深刻な問題に直面している。
 この今日の我が国の教育の危機的状況の背景には一体何があるのか?広島大学の沖原豊学長が1983年に出版した『校内暴力:日本教育への提言』(小学館)によれば、日本の校内暴力は米英と並んで世界でワースト3位というひどい状況であった。

●「規律を重んじ」と明記した新教育基本法

 そこで、米英両国は「規律指導」を最重要課題として取り組んだが、日本では「規律指導」はタブー視されてきた。このような状況を打破するために民間教育臨調(私が運営委員長)は国会議員と連携しつつ官民一体の協議を積み重ねて、安倍政権の下で平成18年に教育基本法を改正し、第6条(学校教育)に「学校生活を営む上で必要な規律を重んじる」と明記した。
 また、第2条(教育の目標)に5つの教育目標を掲げ、「豊かな情操と道徳心を培う」「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと」「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」と明記した。
 同年に文科省は「生徒指導体制のあり方につての調査研究」に着手し、通知が出され、平成22年に『生徒指導提要』が出されて、「生徒指導の方針・基準の明確化・具体化」(75頁)と明記され、学校の新たなルールづくりが示唆されたにもかかわらず、「学校安心ルール」を作った大阪市以外では、制度の整備が行われてこなかった。

●大阪市「学校安心ルール」の基本的な考え方

 大阪市が作った「学校安心ルール」の基本的な考え方は、

⑴ 学校安心ルールは、あらかじめルールを明示することにより、子供たち
 が、してはいけないことを自覚したうえで、自らを律することができるよ
 うに促すことを目的として作成
⑵ 子供たちには日頃より、基本的な約束に示された事柄を心がけることを
 伝え、ひとりひとりがルールを守ることの大切さや相手のことを考えるこ
 とができる、「より良い社会(学校)」を目指す
⑶ 第1~3段階の基本となるものは、『体罰・暴力行為を許されない開か
 れた学校づくりのために』の『児童生徒の問題行動への対応に関する指
 針』によるもの

 このような「学校安心ルール」が全国に広がらない最大の理由は、前述した日教組講師団の進歩的教育学者たちの「管理主義伝説」と「規律指導」への偏見に加えて、法的強制力を持って規律できるのは施設整備など「外的事項」に限定され、教育内容に関わる「内的事項」にかかわってはならない、という考え方が広がっているためと推察される。

●韓国の中学校の「懲戒規定」

 参考のために、韓国の釜山市立慶南中学校の懲戒規定を見てみよう。同規定は韓国の中等教育法第18条及び中等教育法施行令第31条に基づく「学生善導規定」として、学則の中で示されており、この中に台湾と同様に、以下のような「懲戒規定」がある。また、「出席停止の規定」も詳細に定められている。

<第4章 懲戒>
第10条(種類)
⑴ 学校内の奉仕:3日から5日以内の期間
⑵ 社会奉仕:同上
⑶ 特別教育履修:7日以内の期間
⑷ 善導処分
第11条(方法)
⑴ 学校内の奉仕
 ①登校させて学校環境美化作業、教員の業務補助、教材校具の整備など学
  校内のボランティアを通じて指導する
 ②担任教師及び相談教師の責任指導を受ける
 ➂必要な場合、生活指導部及び環境人性部の特別指導を受ける
⑵ 社会奉仕
 ①地域行政機関、公共機関、社会福祉機関などに委託してボランティアを
  実施するように指導する
 ②懲戒期間の中で反省文、ボランティアに対する感想文及び特別課題の検
  査を受けるように指導する
⑶ 特別教育履修(学校生活不適応及び非行類型別)
 ①学校②教育庁➂社会関連機関団体④地域相談室➄禁煙学校⑥1対1の相談
 治療教育⑦治療教育⑧家庭学習を命じる(事故欠席で処理)

●なぜ世界の常識である「規律」や「懲戒」が否定されるのか?

 韓国や台湾に比べて日本の小中学校の校内暴力(対教師暴力・生徒間暴力)の数値が際立っているのは、「規律」や「懲戒」「出席停止」などに関する考え方が全く異なるからである。かつて文部科学副大臣の義家議員(ヤンキー先生として有名)がいじめっ子の「出席停止措置」の必要性を説いたが、尾木ママなどが激しく反対し、実現しなかった。
 以下の代表的な「管理主義」言説が、前述した教育基本法改正の精神を踏みにじり、学校秩序を取り戻し、世界では常識である「学校安心ルール」が全国に広がることを妨げてきたのである。

<なぜ厳罰化・管理主義が横行するのか。かつては、問題行動を起こした際など、彼らの辛さにしっかりと寄り添いエンパワーするのが、日本のカウンセリングマインドによる児童・生徒指導観でした。ところが近年、そのことを忘れたかのように。何でも機械的厳罰化を推し進める「ゼロ・トレランス」が導入されました。問題行動の背景に潜む子供たちの心など、理解しようともしなくなったのです。>尾木直樹『変われるか?日本の教育』新日本出版社
<個室指導・寛容ゼロという考え方そのものがそもそも教育になじまない。教育には、逆に寛容こそが必要不可欠であることは自明のことではなかったのか。ゼロ・トレランスの中で、自己肯定感が育つわけでもなかろうに。>堀尾輝久『日本国憲法・教育基本法の理念と子どもの権利・学習権の理論』東大大学院『研究室紀要』2019
 


 

 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?