子供に「性と生殖を決める権利」があるのか一親と学校の対立要因を解消せよ!
7月18日のチャンネル桜の討論番組「LGBT法から視えて来た『人権=利権』」の視聴回数が5日間で約6万回と大きな反響を呼んでいる。同番組で私が最も強調したのが、LGBT理解増進法の成立によって自分の性は自分で決めるという子供の「性的自己決定権」と「心身の調和のとれた発達を図るものとする」と教育基本法第10条に明記した親(保護者)の養育権の対立と安倍元首相が座長を務めた「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクト」の全国調査に基づいて3年間17回の中教審の審議を踏まえて学習指導要領に盛り込まれた「性教育の歯止め規定」が空文化しかねない事への懸念であった。
●人権活動家がクッキーを模して考案した非科学的俗説
長岡京市の女性交流支援センターの発行資料は「自分の『性』は自分で決める」ことを強調し、「今の社会は『女と男』という二分化による価値観が当たり前とされていて、生まれた時の性器の違いによって、その後の人生も『女か男かのどちらか』で生きるように強いられます。誰もが他の人と違う『性』を持って生まれています。それが『個性』といわれるものである」と明記している。
その理論的根拠として、アメリカの人権活動家・コメディアンのサム・キラーマンが人型クッキーのジンジャーブレッドマンを模して「多様な性」を可視化するために考案したジェンダーブレッドパーソンの図を示して、①脳の性別(アイデンティティ・自己認識)、②心の性別(アトラクション・魅力を感じる)、➂性器の性別(セックス・性器の違い)、④表現(エクスプレッション)の性別があり、「私たちの『性』はいろいろな条件の掛け合わせで構成されており、その掛け合わせの数は無限で、微妙な違いがあるのです」と説明している。
LGBT理解増進法のキーワードである「性的指向(セクシュアルオリエンテーション)」と「性自認(ジェンダーアイデンティティ)」の頭文字を組み合わせた「SOGI(ソジ)」が、男女というカテゴリーに新たなカテゴリーを加えた「LGBT」には該当しない様々な性の多様性を示し、「同じ性を生きる人間はいないという視点から、万人を対象とし、個々の『性』を表現できる言葉として使われ始めています」と解説している。
●「性規範の解体」を目論む「ジェンダー革命」が親子を分断する
この「LGBT」から「SOGI」へ、という解説や「ジェンダーブレッドパーソン」を土台とする「性の在り方はグラデーション」の図解と解説は既に教科書に登場しており、LGBT理解増進法の成立により、多くの教科書に採用されることが懸念される。
生物学的性別はスペクトルであり、「人によって度合いやイメージが違う」と説明し、セックスは二元的ではなく生物学的性別が流動的なものだと強調するが、性別は不変であり、生物学的性別は男女の染色体(DNA)によって定義される。この「性の在り方はグラデーション」「LGBTからSOGIへ」というジェンダーイデオロギーが両性の性規範の解体を目論んでいることは明らかだ。
内閣府の男女共同参画局の月刊誌『共同参画』昨年1月号の表紙に「フランス革命の次は日本のジェンダー革命だ!」と大書し、漫画家の池田理代子氏と対談した林伴子男女共同参画局長が、「日本ではLGBTQの理解増進法案ですら通らないという状況です」と述べているが、防衛費に匹敵する年間10兆円の男女共同参画予算によって、長岡京市のように「性別は自分で決める」ことを強調する政策が地方自治体に広がっている「性の多様性条例」によって補強され、学校におけるLGBT教育と相俟って子供と親の対立に拍車をかけることが懸念される。
●子供に「性と生殖を決める権利」はあるのかが焦点
2015年に国連で採択されたSDGsにおいて「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)」の促進が目標の一つに盛り込まれ、「リプロダクティブ・ライツ(性と生殖を決める権利)」が国際的な注目を集めるようになった。
1999年の第14回世界性科学会総会で採択された「性の権利宣言」において、性に関する権利は「他者の権利を尊重しつつ、自らのセクシュアリティを充足及び表現し、性に関する健康を享受する」権利と定めている。セクシュアリティとは、「生涯を通じて人間であることの中心的側面を成し、生物学的性、性自認、性役割、性的指向、エロティシズム、喜び、親密さ、生殖を含み、思考、幻想、欲望、信念、態度、価値観、行動、実践、役割、人間関係を通じて経験され、表現される」という性に関する包括的な観念を指している。
この「リプロダクティブ・ライツ」が普遍的人権であるか、子供に「性と生殖を決める権利」があるかをめぐる論争が、自分の性は自分で決める、すなわち「性的自己決定権」を強調する「包括的性教育」をめぐる親との対立という深刻な分断を招いているのである。「産む産まないを決める」権利は胎児の生命権(生きる権利)と抵触するため、「リプロダクティブ・ライツ」に反対する国も多い。
推進派の「国際家族計画連盟」が提唱した「包括的性教育」が、10代の性交渉、性感染症感染率の増加の原因だとして、「リプロダクティブ・ライツ」に反対する人々と、子供の「性的自己決定権」に基づき親は子供が学校で「包括的性教育」を受ける権利を拒否できないと主張する推進派が激しく対立しているのである。
子供は「リプロダクティブ・ライツ」を有しないという前提に立つと、学校を基盤とした「包括的性教育」の必修化は「親の権利の侵害」に当たる。親こそが子供の教育に関する決定権を有するのに最もふさわしいとして、次のように主張する。
●親と学校の対立が全国に広がらないように何をすべきか
<親は自身の子供を育てるために、多大なエネルギーと資金を費やしているため、子供の最大の利益を強く願っている。また、親は子供に近い存在の大人であり、自身の子供のことを誰よりも良く知っている。概して、親は自身の子供についてもっとも役に立つ情報を持っているのである。従って、子供の教育に関して決定する役目を(子供から)離れた組織ではなく、親に付与することが理にかなっている>
包括的性教育は「家庭を相手取ったイデオロギーの戦いにおける主要な武器となっている」として、学校が「包括的性教育」によって子供に対する親・家庭の影響力を弱めようとしている、という親の反対運動が全米に広がった。これに対して、「包括的性教育」プログラムのゼロ歳からの年齢別内容を提示した米性情報・性教育評議会は「性的指向」に寛容で、女性の性の快楽を重視し、コンドームについての情報の提供を奨励したため、親の反発を招いた。
その結果、州法によって性教育の授業に関して親に通知することを義務付ける学区が増え、1970年代の全米の学校システムとして制度化されたのである。LGBT理解増進法の成立によって全米に広がった親と学校の対立構図が日本全国に広がることは不可避であろう。イギリスが今日直面している国家分断の危機もこの問題に他ならない。
今後検討される「基本計画」や「指針(ガイドライン)」に生物学的性差という「有性生殖の5億年」の共通性という縦軸と、後からつくられた文化的・社会的性差である「ジェンダー」の多様性という横軸を明確に区別するLGBTの「正しい理解」についてわかりやすく説明し、子供の「性と生殖を決める権利」に関する見解を明記しない限り、混乱が全国に広がることは火を見るより明らかだ。脳科学・生命誌などの科学的根拠に基づく「正しい理解」を政府は早急にまとめることが急務である、