LGBT理解増進法の制定経緯と今後の課題について考える
6月18日にベルサール虎ノ門イベントホール(住友不動産虎ノ門タワー2階)で開催される公開シンポジウム「岸田政権1000日を検証する」の第3部において、「LGBT理解増進法制定」と埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例(LGBT条例)をテーマに埼玉県議会議員の諸井真英氏とプレゼン・討論・質疑応答を行うことになった。
自民党は平成28年以来、LGBT「理解増進」を選挙公約などに掲げてきた。同年には安倍内閣の下で「ジェンダーフリー論とは全く異なる」「性的指向・性自認の多様な在り方を受容する社会を実現するためのわが党の基本的考え方」を発表した。
その後、平成31年の安倍内閣当時、「性的指向及び性同一性の多様性に寛容な社会の実現に資する」目的で法案を作成し、令和3年の選挙公約では「性的指向、性自認に関する理解の増進」と書かれていたが、翌年の選挙公約では「性的マイノリティの理解増進」に変化した。
従って、LGBT理解増進法案はG7広島サミットのため、突然登場したものではない。また、前回のG7ドイツサミットでも性的マイノリティ問題へのG7各国の取り組みが謳われており、G7広島サミットの議長国として、この問題は避けて通れなかったようである。
日本大学の百地章名誉教授によれば、今回のLGBT理解増進法案は、稲田朋美議員主導のもとに進められた「差別禁止法」を古屋圭史議員、新藤義孝議員らが「理解増進法」に押し戻したものであるという。
令和3年、自民党の稲田朋美議員と立憲民主党の西村智奈美議員の主導によって「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されない」とする各党協議合意案(差別禁止法)が成立したが、今回、特命委員会はこれを修正し、「差別禁止法案」から「理解増進法案」に押し戻し、ソフトランディングを図った点は評価できる。
具体的には、「差別は許されない」から「不当な差別はあってはならない」、「性自認」から「性的同一性」、「学校設置者の努力」を削除、などの修正である。
だからこそ、朝日新聞は「LGBT法案 自民骨抜き」「安倍氏答弁を踏襲」と悔しがり(5月13日)、毎日新聞は「保守派配慮で先祖返り」、東京新聞も「理念後退」と批判したのである(同日付)。
政府、自民党はこうした経緯と法案の内容について「説明責任」を果たし、十分に議論を尽くして、自民党員並びに国民全体の共通理解を得る必要がある。とりわけ自民党の岩盤支持層に対する説明責任を徹底的に果たし、5月の自民党内閣部会での議論では反対意見が多かったにもかかわらず、部会長一任を強行した理由を明確にする必要があろう。
国は、法案に明記された「不当な差別」の厳格なガイドラインを速やかに作成し、「性同一性」の明確な定義を示し、それによって、特に女性たちの根強い不安を払拭し、多数の国民の権利侵害を未然に防止する必要がある。
本法案はあくまで「理解増進法」であって、「差別禁止法」とは異なる。海外で生じている問題を踏まえて、「トランス女性」による「生来の女性」の権利侵害などを未然に防止する必要がある。
それ故に、国は速やかに「不当な差別」などの厳格なガイドラインを作成し、「性同一性」の明確な定義を示すことによって、特に女性たちの不安を解消し、多数の国民に対する「逆差別」が生じないようにしなければならない。
私が教育委員長を務めた埼玉県では一昨年6月、LGBT条例(埼玉県「性の多様性を尊重した社会づくり条例)が成立し、7月8日に施行された。こうした行き過ぎた条例を是正し、このような条例が全国の地方自治体に広がらないように、国として明確なガイドラインを示す必要がある。
「多様性」という横軸と多様性に“通底”する「共通性」という縦軸のバランスをとることが求められているのである。