中年おばさんの奮闘記 in デンマーク!23
X People
2019年9月上旬、私たちは、試作品作りや掃除をするためにXのコンテナキッチンに集まるようになった。Xにはたくさんのコンテナが置かれており、その中でも私たちが借りたコンテナキッチンはXの中心地に位置していた。キッチンの目の前にはAハウスと呼ばる昔電車の倉庫として使われていた大きな建物があった。そこには共有のキッチンとトイレがあり、Xの人々はしょっちゅうその中に出入りしていた。彼らは皆スタイルが良く、顔も美形で、もう少し綺麗な恰好をすれば、みんな日本でモデルとして活躍していてもおかしくない人達ばかりだった。そんな彼らからは自由を大切にし人生を楽しんでいる雰囲気がいつも溢れ出ていた。彼らは私の人生の中で出会ったことが無いタイプの人達だったので、当初私は彼らとどう接したら良いのかわからず挨拶するだけでも緊張した。
しかし何度もXに通ううちに、彼らと顔見知りになり、話をするようになった。そうすると彼らを通して少しずつXについて色々なことをがわかってきた。一見無造作に置かれているたくさんのコンテナにはそれぞれ所有者がいること。彼らはコンテナを利用して会社を設立したり、お店を出したり、皆それぞれ好きなことをしていること。Xにはデンマーク人だけではなく、外国人も多く、大工や音楽家、ダンサー、芸術家、自転車屋、看板屋、ネットサービスなど様々な職業の人が働いていること。毎週たくさんのイベントが行われていて、特に金曜日の夜はオーフス中の若い人達が沢山集まること。Xは皆で協力し合い、支え合い、それぞれのやりたいことを応援し合っていること等、Xのことを知れば知るほど、私はXの魅力に引き付けられていった。
お店の準備
Xのキッチンに通い始めて1週間くらい経った頃、私達は試作品を作ってはXの人達に試食してもらい感想を聞いて回った。これでわかったことは、彼らは濃い目の味を好むということだった。例えば、すき焼きより焼肉たれの味の方を好み、塩だれよりは照り焼きソースを好むといった具合だ。また、彼らにとって食感は非常に大切だということもわかった。デンマーク人はいつも歯ごたえがある食べ物を食しているので、日本人が好きな団子やプリンのような歯ごたえが無い食べ物は好きではない様子だった。彼らの意見を参考にして試行錯誤しながら試作品を作っているうちに、徐々にTokyo Kitchenの料理が出来上がってきた。
またこの頃、私はTokyo KitchenのFaceBookを作成し始めた。会社を設立する前に相談に乗ってくれたSTARTVÆKST AarhusのBetinaが「デンマーク人の70%以上の人はFaceBookを使用している。だからお店のFaceBookは絶対作った方が良い!」とアドバイスしてくれていたのだ。私は毎晩子供達が寝た後、少しずつTokyo KitchenのFaceBookを作成していった。Tokyo Kitchenのロゴや料理の写真を張り付け、コンセプトを記載すると、それなりのお店風のFaceBookが出来上がった。センスが無いながらも個人的には満足のいく出来上がりだったので、私はマザーミーティングの人達にTokyo KitchenのFacebookを作ったことを報告し公開した。すると、有難いことにみんな私が作ったFacebookをシェアしてくれ、気が付くとさっき公開したばかりなのに既に数十名がフォローしてくれていた。さらにその数は止まることなくどんどん増えている。毎秒ごとにフォロワー数が増えていくのを目の当たりにした私は狂喜した。人は嬉しいと誰かと感情をシェアしたくなるものである。マザーミーティングの皆もどんどん増えていくフォロワー数に興奮して、大量のメッセージがグループチャット内で流れた。承認欲求が満たされるというのはこういうことなのだろうか?
私はこの時、承認欲求中毒者の気持ちが少しわかったような気がした。その一方でこんなに簡単に情報が広がるSMSは恐いなとも思った。
オープン日の決定
そんなある日、エミールから「Tokyo Kitchen はいつオープンするの?」と聞かれた。私は「一応、9月下旬の土曜日ってことにしているけど、でもこの調子だと10月になるかもしれない。」と答えた。すると彼は「これからデンマークはどんどん寒くなって、暗くなるから人は外出しなくなるよ。早くオープンした方が良い。」と言われた。彼のアドバイスを聞いた私は急に焦り始めて、早速あーちゃんと優子さんに連絡した。すると2人から直ぐに返信が来て3人で色々話し合いをした。その結果、ど素人の私たちにとってお客さんが少ない方がきちんとした料理を提供できるのではないかという考えからXにあまり人がいない9月28日(土)のお昼時間にオープンすることに決定した。
オープン日が決定されると、私はその準備に向けて毎日のように自転車でXに通うようになった。自宅からXまで1時間程かかるので、ママチャリを使用していた私は自然と体力がつくようになった。
そんなある日、私はいつも自転車をこぐ時mp3を使って音楽を聴いていたのだが、それを忘れて外出してしまったことがあった。わざわざ自宅にmp3を取りに帰るのも面倒なので、音楽無しで自転車をこいでいたら、自然と仕事や育児に関する良いアイディアが沢山思い付いた、さらに、今しなければならないTo Do リストまで出来上がり、自転車をこぎながらとても有意義な時間を過ごすことが出来た。それからというもの、自転車をこいでいる時間が私の考える時間になった。また、この当時私はデンマーク語の語学学校にも通っていたので、試験が近づく度に自転車をこきながら文章や単語を暗記していった。Tokyo Kitchen を始めてからというもの、自転車をこぐだけで毎日2時間も使うようになり、最初は時間が無いことに嘆いていたが、時間の使い方を工夫し始めると、それなりに充実した日々を過ごせるようになった。
オープンの準備
オープン日が決まったので、私達はオープンに向けて買い出しをすることにした。3人の中で唯一車を持っていた優子さんが車を出してくれることになり、私たちは彼女の車で業務スーパーへ向かった。そして予め作成していた買い物リストを3人で見ながら「器の数、これで足りるかな?お客さんもっと来たらどうする?アッハッハッハー!」などと冗談を言いながら、どんどん必要なものをショッピングカートに入れていった。この時の買い物はとても楽しく、夢と希望で一杯だった。しかしそんな楽しい時間も束の間、レジで会計をする時、私は現実に引き戻されたのである。なんと支払額が5495kr(約9万円)と言われた。私の会社なのでもちろん私が支払ったが、この時の私は、こんな大金を1回の買い物で使ってしまって大丈夫なのだろうか。お客さんが来なかったらどうしようなどと考え、とてつもない不安に駆られた。そりゃそうである。私は通常の買い物では、少しでも安い物を探し回って買い物をしているのである。この時私はビジネスは博打だと思った。
買い出しが終わって急に不安に駆られた私だったが、買い出しの他にもオープンに向けてやらなければならないことは山ほどあり、いつまでも不安に浸っている時間はなかった。オープンに向けて自分たちが出来ることをそれぞれやり始めると、優子さんは料理が上手なので商品開発、あーちゃんは3人の中で一番若くてSMSなど上手に使いこなせるので広報、私は計算が得意ということから会計、といった具合にそれぞれ担当する分野が自然に分かれた。私はCEOという立場上、会計の他にも会社の手続きなども担当していたが、わからないことはlanguage exchange partnerであるヤコブさんが協力してくれるようになった。ヤコブさんは高校時代に商業について習っていたので、商業についての基本的知識があり、何といっても日本語で説明してくれるので、ヤコブさんの協力は本当にありがたかった。
またこの頃、あーちゃんが第二子を妊娠した。悪阻がひどかったので、体調が良い時だけ参加することになった。
最愛なる子供たちへ
実は、ママのひらめき時間は自転車をこいでいる時間の他にもう一つあります。それは、朝、目が完全に覚めるまでのウトウトしている短い時間です。この時間こそ素晴らしいアイディアがいくつも浮かんできます。特に仕事に追われている時などは、仕事の優先順番や間違いが浮かんできたり、効率的に仕事を終わらせる方法などがパッと思いついたりします。ママの感覚だと、この現象は自分が夢中で好きなことをやっている時や、何か困っている時によく起こるような気がします。アイディアを思い浮かべさせるコツは、脳が眠りから覚める直前に、昨日考えていたことの続きを考えます。そうすると不思議なことにウトウトしている短時間でパッとアイディアが浮かんできます。
ある日、ママはこのことをママのお母さん(あなた達のおばあちゃん)に話したら、「昔から半分ウトウトしている時に思い付くアイディアは、あなたの守護霊さんがあなたにアイディアを伝えていると言われているんだよ。」と言っていました。
守護霊さんのアイディアなのか、無意識に自分で考えついたアイディアなのかはわかりませんが、将来あなた達が何か困ったことが起きた時(困っていない時でも良いのですが)、騙されたと思って朝のウトウト時間を試してみてください。もしかしたらママみたいに色々なアイディアがパッと思いつくかもしれません。