スリットシャッターカメラについて
※本記事は、ブログからの再掲載記事です。
私の主作品はスリットスキャン=スキャナカメラ、もしくは画像からのソフトウェア加工を使用した作品製作になっております。参考1 参考2
とはいえ最初にスリットスキャンに出会うきっかけになったのは、この自作シャッターカメラでした。
なかなか他の手法とくらべて活動頻度が低いのですが、せっかくなのでこちらも御紹介させて頂きます。
自作シャッターカメラとはなにか
自作シャッターと書くと凄いものに見えますが、実際のところはスリット状のシャッターを上下させる機構がついたカメラ、ということです。
具体的な様子を記録した動画をアップロードしているので、こちらをご覧下さい。
なんとなくご理解いただけたでしょうか。まぁつまり大したことありません。一般的なCMOSセンサーのローリングシャッター現象を再現させたカメラです。
以上の画像は、SONY様のホームページより引用させていただきました。
この手の歪みは一般的には「欠点」とされ、メーカーのエンジニアの方々は日夜改善と研鑽を重ねています。メーカーエンジニアの方々の努力の結晶として、この問題は日々改善されています。
確かに一般的には欠点となりうるこの歪み…ですが、これは凄く面白い!これを潰すなんてもったいない!
その純粋な動悸こそが、私がスリットスキャンに目覚めたきっかけだったと思います。そしてその歪みを再現させてみたのが今回のカメラでした。
ハードとソフトについて
※はじめての電子工作+自作機材ということもあり、各部酷い箇所ばかりですが…小学生の自由研究だと思って、生暖かい目で見て頂けると幸いです。かつ、以下もし参考にして作成される際は自己責任でお願いします。
このカメラ。ベースカメラはNEX-5N、ソフトウェアはArduinoのマイコン処理で動いております。
NEX-5Nは何度も分解しておりますが、非常に使いやすい機種ですのでオススメです。
5Nに限らず、NEX自体が分解動画が幾つか上がっている上に、基本構造が大差ないので非常に扱いやすいです。
NEX-5Nからセンサのみを抜き出し、その直前にシャッターを配置しています。
センサはカメラから無理矢理引っこ抜いています。センサ直前にシャッターを搭載するため、IRフィルターも抜き取っています。従ってこのカメラはフルスペクトルカメラとして使用することになります。
シャッターはガイドに沿って上下できるような構造になっており、側面にラックギアを取り付けています。モーターに取り付けられた(ミニ四駆から持ってきた)ギアがラックギアと連動し、上下動作を行います。
センサむき出しの状態…左手に見える緑色のギアは皆さんご存知のアレです。
上の写真からは見えにくいのですが、上下端には終端位置を検知するためにマイクロスイッチが搭載されています。またカメラのシャッタースイッチには社外製の赤外線リモコンを使用しています。
それらを制御するのは、NEXと並んで御馴染みのArduino。
Arduinoは素晴らしいツールで、機材を創るまではいかなくとも、様々なPhotographer、写真家に使ってもらいたいですね。これのお陰で、写真の幅は大きく広がると思います。
カッコつけてみたリアパネル。まさに小学生。ぐちゃぐちゃな配線にもロマンが溢れている(ロマンしかない)。
外部側面には、上からカメラの電源スイッチ、スキャンスピード調整甩のボリューム、タイマーon/offトグルスイッチ、そして最後がArduino電源トグルスイッチになっています。
作例と特徴
冒頭で書きましたが、使用頻度が少ないため写真枚数が少ないです。個人的に気に入っている作品を載せておきます。
NEX-5N(slitshutter) + Ai AF Zoom-Nikkor 18-35mm f/3.5-4.5D IF-ED (only IR spectral)
このスリットシャッターは、長時間露光中にスリット状のシャッターが上下に動くことでシャッターの代わりにしています。
そのためカメラ側のシャッタースピードは約20~30秒ほどの長秒露光とし、スリットの上下スピードで動きを表現させます。
とはいえ、スリットの動きを高速しても長秒露光であることに変わりないので、基本的に【長秒露光中の歪み】が発生します。つまり、歪みが生じる被写体は常に長時間露光中と同じような挙動になります。
これはスキャナカメラや、ソフトウェアの加工では難しいのでスリットシャッターの最大の特徴といえるかもしれません。
また、Exif情報もあくまでNEX-5Nと表示されるので、RAW提出を求められる場合にも役立つかもしれませんね。私はそんな機会はないですが…撮って出しでの完成度を求める人にはオススメです。
(スキャナカメラもvuescanを使うとExif情報は残りますが、スキャナの型式が登録されてしまうので、「スキャナでスキャンしたんだな、としか思われないのが残念です)
余談
スリットシャッターカメラは、同じくスリットスキャンするという目的において、スキャナカメラが最大のライバル(?)です。
利点としては、まずコンパクトなところでしょうか。スキャナカメラと違いパソコンも必要ないのは大きいです。また汎用的なnikonFマウントにしているお陰でレンズに困ることがありません。
またスキャナカメラと違いISO感度の自由度が高いので、時間帯を問わず撮影が可能です。
あとは理論上フィルムでも同様のことが可能です。というより、実際にフィルムで同じことをされている人は沢山いらっしゃいます。
欠点としては、スキャナカメラやソフト加工と比べて表現できる幅が小さいことと、スリットの幅を狭くしすぎると回折の影響が発生することですね。
スリットを1mm以下にすると回折の影響が出始めます。スリットは狭い方が動体に対して大きな歪みを出せるのですが、スリットの幅1mmは実は非常に広いのです。このあたりは絞り値にも影響を受けるのですが…。
正直なところ、怪しいわりに使いにくいという特徴はスキャナカメラと同じなので、この差別化が難しいかな、という感じですかね。
まとめ
この自作シャッターカメラは、はじめて作った自作カメラということもあり、写真そのものよりも、写真や機材の考え方を一新する機会を与えてくれたカメラでした。(途中で並行してスキャナカメラも作っていましたが…)
元々【時間の流れ】をテーマとして、定点観察や同じ人や場所を繰り返し撮る行為をしていましたが、「一枚の写真」に複数の時間軸を入れ込むのは難しかったのです。
このカメラのおかげで、現状の【時間の流れ】を入れ込む写真を撮りだすことが出来た、といっても過言ではありません。
今のところスキャナカメラ等の使用頻度が高く、うまく使ってやれていない状態ですが、特徴をうまく活かしてやれば他の手法とは違う特徴を生みだすことも可能です。
また作品として撮れるようになった時は、しっかりと世に出していこうと思います。
おまけ(過去作について)
実はこの自作シャッターカメラ。幾つか作った中で、最終的に今の形になりました。
一番最初作ったものはレンズの前面にシャッターを置いていましたが、あえなく失敗(画像なし、撮っておけば良かった…)。
次に作ったものが、レンズとカメラの間にマウントアダプターとして設置する方法でした。
当初はマイコン制御を知らなかったので、まさかのプラネタリギアを使ってスピード調整をしていました(笑)
世の中には色々なマウントアダプターが存在しますが、中にシャッターを組み込んだアダプターは世界でもこれぐらいじゃないでしょうか。この手法は画期的だったのですが、回折の影響が非常に大きいため諦めました。フランジバックも大きく、ハッセルブラッドのレンズでやっと使える代物でした。