スキャナカメラについて
※本記事は、ブログからの再掲載記事です。
今回は、前回書いたスリットシャッターカメラに引き続き自作カメラの記事です。
基礎となる部分を含めてほぼ全てraspyさんのblog(http://d.hatena.ne.jp/spyuge/)を参考にしています。したがってraspyさんのサイトを見ていただいた方が100%の理解は出来ると思います。また重複している内容も多々あるかと思います。
とはいえ、恐らくraspyさんをはじめとした多くの(そもそも絶対数が少ないですが)日本人スキャナカメラ撮影者は、静体の被写体を撮られる方が中心であり、私のように動体メインで撮る人はかなり珍しいタイプだと思います。ということで、そんな動体をメインで撮影する人間のまとめとして見てもらえればと思います。
①カメラの特徴について
通常のフィルムやカメラのセンサーの代わりに、スキャナのセンサーが入っています。
スキャナのセンサーはラインセンサーです。
動かないもの(静体)を撮る場合は、超高画素機として使用することが可能です。
動くもの(動体)を撮る場合は、スキャナの動きに対して被写体の動きが加わることで、異次元の動きをします。
スキャナカメラといえば波。連続した動きに対して非常に有効です。
スキャンスピード以上の速さで人が通ると、圧縮されてしまいます。
基本的に市販されているカメラではないので、殆どの人は自作で作製しています。
高精度な作製技術が要求されます(主にピント、スキャン送りスピードのギア比)。特に中判フォーマット以上で作る際は、フランジバックの合わせ込みが非常に大変でして…。精密な作成できる人に向いております(私のカメラは無限合っていません)。
ちなみに私のスキャナカメラはオリジナルの機構として、スキャン中に(無理矢理)センサ位置を固定する事ができるようになっています。
この機構を生かすことで、スリットスキャン撮影で使用される2つの特徴を組み合わせた写真も撮影可能です。
②スキャナカメラの分類
スキャナカメラは大分すると2つに分けられます。センサーがCIS(CMOS)か、CCDを使うかという違いです。
CIS型はスキャン時に被写体に光源を当てRGBの反射光を利用するという特性から、スキャナカメラではカラーで撮影ができません。
また素体が大きいため確実に8×10クラスのサイズになり、大判レンズでなければイメージサークルを使いきれません。
CIS型の特徴として、ISOベース感度がおよそISO1600〜3200ぐらいのため、大判カメラ用のレンズで絞りきっても苦になりにくいです。またCIS型はUSBバスパワーで動くものが多いので、パソコン次第ではバッテリーを必要としないメリットがあります。
CCD型はセンサーサイズが中判フォーマットに相当するので小型化が可能です。しかしながら電源を別系統から確保する必要があるのが最大のデメリットです。
CIS型と違いカラーでの撮影が可能ですが、仕組み上同時に色を収集するわけではありません。スキャン速度以上のスピードで流れる被写体に対してはRGBの色ズレが生じます。
↑カラーで撮れるけど、色ズレしちゃう例。コントロールが難しい。
③ソフトウェアおよびパソコンについて
純正ソフトも使えますが、私はvuescanというスキャナソフトを使用しています。
これは純正ソフト等では不可能な、スキャン中に「今どこをスキャンしているか」が容易に分かるという点で動体撮影で最強ソフトです。
また、通常のjpeg保存に加えてTIFF,DNG形式でのRAW保存も可能であり、RGBIでの64bit記録に対応可能です。有料ですが、恐らくこれ以上ないソフトではないでしょうか。ただ個人的には、TIFFで1200dpi以上で保存するのはファイル容量が大きくなりすぎるのでやめておいた方が無難と思っております。
パソコンについては汎用PCであれば問題ないですが、処理能力で撮影テンポが大幅に変わります。raspyさんの作製していた時代と違い、今はwindowsタブレット端末が格安で売っているので機材を小さくまとめることが可能になりました。CPU処理能力が大きいパソコンの使用が推奨されます。
ただし後述もしますが、基本的に荷物が重くなりがちなスキャナカメラ撮影においてパソコンは小さい方が非常に楽です。
↑タブレットだと怪しさが若干薄れます。本当に若干ですけど。
④デメリットというか、大変なこと
もはやデメリットの塊ともいえるカメラなので、涙なしには語れません。
1)扱いが大変
撮影技法上、三脚が必須です。雨にも弱いです。
また普通のカメラ以上に目立つので、街中で使うには割と勇気がいるかもしれません。怪しさでは他に類を見ないカメラであることは間違いありません。
そういう意味では、現代の大判カメラとも呼べるのかもしれません。使う上では不自由ばかりです。簡単には撮れませんし、大きいですし怪しいです。
そして何より重いです。カメラやレンズ、三脚に加えてパソコンとバッテリーが必要になります。機材の入れ方にもよりますが、長距離バックパッカー、登山者のような撮影になってしまいます。
↑壊れたら路上で修理しないといけない、不審者の極み。
2)画質重視の撮影では、わずかな動きが命取りになる
超高画素機として使用する場合は、当然ながら「動く」被写体に対しては無力です。
わずかなブレ、動きにもシビアに反応してしまいます。
また、カメラの作り込みも作品に多大な影響を与えます。自分のスキャナカメラは作り込みが非常に甘いので、ピントの調整やノイズに毎回悩まされます。
↑冨士山の撮影と、そのクロップ。2400dpiで5億5線万画素。クロップすると、ピントが甘く、色ズレが見える。つらい。
3)色ズレが発生する
先に書いた通り。
4)スキャン速度と画素数に律速される
スキャン速度と画素数は反比例の関係にあります。
スキャン速度を早める=画素数は低下する。逆に、スキャン速度を遅くするには画素数を上げるしかありません。
またスキャン速度の調整にも限界があり、早くするにも遅くするにも限界があります。
⑤それでも良かったと思えること
自分のステートメントである、「時間軸を写す写真」に近づけられる写真が撮れるようになったと思っています。
あらゆることを一から考える余地があるので、何を撮っていても、何をやっていても楽しいです。
またインパクト重視初めて見る人には「どうやって撮ったのか!?」という非常に大きなインパクトを残すことができます。
そして何より、大変な撮影大好きな人間としては、手のかかる装置=素晴らしい装置です。
撮った写真がどれも素敵に思えます。一種の親馬鹿現象かもしれません。
⑥まとめ
私自身まだ慣れてない撮影技法ではありますが、本当に色々やれる幅が大きくて楽しいカメラです。今回は記載していませんが、ライティング等、既存の写真技法と組み合わせることで表現の幅が一層広がります。
しかし技法としては面白い手法である反面、「何を、何故写真として残すのか」という写真の本質とも呼べるものに対し、非常に訴えにくいものがあると感じています。
また人によっては既知の技術であるため、技法だけしか見てもらえずに、そのバックグラウンドについて見てもらえないのが現状です。
結果的に私の場合は、自分のステートメントにあっていて、更に大変であることを楽しめるのかもしれません。とはいえ個人的には、写真に対する新しい表現として、もっと多くの人に体感してもらいたい気持ちではあります。
最後に、このカメラはraspyさんをはじめ、様々な先人の方々の知恵と工夫で成り立っています。
この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。