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スキャナーカメラ2024 Model:【SEPA】を製作しました
挨拶
久々に機材製作のnoteになります。どうも、Takahashi Toshioです。
タイトルの通りですが、久々に新型のカメラ、しかもスキャナカメラが完成しましたので、その報告noteになります。
私自身、スキャナカメラは自分のステートメントに沿う写真を撮るために最も有効なツールと考えており、かつTakahashi Toshioといえば!といえる一つの代名詞(自称)のような存在でしたので、この製作は自分の中で非常に大きな意図を持っています。
まず過去の経緯や、スキャナカメラって何?という人は、前回作成したスキャナカメラ記事を参照して下さい。
今回のモデルネーム【SEPA】は、【Separation(分離)】の意です。
過去のスキャナカメラ【Integration(統合)】から打って変わっての【分離】。これは、私が考えるスキャナカメラの「あるべき姿」を追求した結果でした。
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特徴と苦労した点、そして拘り
1) HASSELBLAD 500シリーズのデジタルバッグ化
なんといっても、まずはコレです。
前回のスキャナカメラ2020で宣言した通りですが、ついにHASSELBLADの500シリーズデジタルバッグ化しました!
これに伴い、スキャナは過去使用していたGT-S620/630から、GT-F500に変更しました。
HASSELBLADのスキャナカメラ、そしてGT-F500という事からお気づきの方も多いかと思いますが、今回はYAKUSCANを参考に製作しています。
上記サイト:【YAKUの日記】には、私のような知識不足でも完成度を高める情報がたくさんあり、すべてのページを10回以上見た気がします。
HASSELBLADのデジタルバッグ化は、もちろん「HASSELBLADでデジタル写真を安価で撮れる」というメリットもありますが、スキャナカメラとしては【構図決定・ピント合わせが非常に容易になった】という点は凄まじいメリットです。
スキャナカメラで、かつスリットスキャンさせる際の”あるある”なのですが、目測での構図確定が面倒くさい事はもちろん、水平が取れていないと、スリットスキャンした際の動きの表現が歪になるのです。
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またピントに関しては中判の薄いピント面を目測で合わせる事の難しさは、想像しやすいかと思います。「ピント合わせが大変なら、絞ればいいのでは?」と思うかもしれませんが、基本的にスキャナカメラは露出のコントロールできる要素は絞りのみです。シャッタースピードとISO固定での撮影において、絞りを開放で撮らざる得ない状態も多々発生する中、ピント合わせができる事は何にも替え難いメリットです。正直、はじめてピントがあった時は感動して大はしゃぎしました。
進捗。
— Takahashi Toshio (@takahashi1040) May 12, 2024
個人的に一番の難所である、ピント調整が完了しました!
まだまだ直す事がたくさんありますが、何事にも代え難い達成感で感動しています。 pic.twitter.com/IU9Baj9Bqj
また、HASSELBLADのデジタルバッグ化できるという事は、通常写真をフィルムで撮影することも可能です。高い描写力を誇る、HASSELBLADの写真も記録することができます。
このHASSELBLADから【分離】することができる。それが、【SEPA】の1つ目の由来です。
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しかし誰もが憧れるデジタルバッグは、やはり一筋縄ではいきませんでした。
まずは接続面。カメラ本体と強固に隙間なく接続するためには、スキャナバッグの接続面はHASSELBLADのフィルムバッグと同様の形状である必要があります。
私はフライス加工ができないので外注したかったのですが、実際の設計と製作された物が違った場合に取り返しがつきませんし、角加工形状が多いためコストも高くなる事が分かりました。
そこで今回は、HASSELBLADのポラロイドバッグを流用することにしました。通常のハッセルブラッドのフィルムバッグよりも安価である事も流用しやすいことは勿論ですが、なによりHASSELBLADとの連結部分が横にある事が非常に良いです。これはスキャナカメラの場合、センサがほぼフランジ面近傍にせり出す形状のため、通常のフィルムバッグのような上位置では干渉するリスクがあるためです。
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そして先程記載しましたが、フランジ面とセンサはかなり近いです。その上で、キャリブレーション用のLEDを配置する必要もあり、設計はかなりシビアなものになりました。
また当初は小型化するつもりで製作していましたが、スキャナバックは私の中では初めての試みで難易度が高すぎると判断して断念しました。結果、かなり大型のお弁当箱のような形にしました。
これは現在のところは正解だと思っていて、私のような現物合わせで製作している人間にとっては設計の自由さを増やせるので良かったです。とはいえ次回以降は、小型化も視野に入れたいですね。
実はスキャナカメラも2023年から作っていましたが、設計がギリギリすぎたので、一度白紙に戻して設計し直すことにしました。
— Takahashi Toshio (@takahashi1040) April 2, 2024
新機種でいきなり小型化できる能力はないので、焦らず少しずつ…。#進捗 pic.twitter.com/RAzDXUhHvR
上が最初に作っていた途中までの原案。かなり小型になる予定でした。
進捗。お弁当箱がくっついた。完成はまだ遠い。 pic.twitter.com/pWikjxToq5
— Takahashi Toshio (@takahashi1040) May 7, 2024
かなり大きいですが、実施にはスキャンコントロールさせるためのArduino(マイコン)やモータードライバも配置されており、それほどスペースの余裕はありません(私の設計がいい加減な事もありますが)。
インターフェイスとしては、上部にISO感度ダイヤル、下面にケーブル端子を集中させています。これは穴となる場所は下の方がケーブルの取り回しが楽で、光線漏れを和らげることが可能なためです。
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また今回こだわった点の一つとして、「メンテナンス性を向上させる」ことが挙げられます。
前回の【Integration】は3Dプリンタで製作しました。3Dプリンタは現物合わせをしながら製作するのに非常に良いツール(暴論)ですが、私のような適当設計では時間がかかり、大型の造形物には不適、そして薄型・小型化するためには向いていません。
そのため今回は、タカチケースを使っています。今回一番お金をかけたのは、たぶんこのケースです。
このケースに限らずですが、高いケースは側面を開けることができる特徴が非常に便利で、トラブル・メンテナンス時にアクセス性を上げてくれます。
こういった自作物あるあるですが、「作った時は覚えていても、次使おうとした時やメンテ時に、どのように作ったか覚えてない部分がある」という点や、その組立に技術が必要となる物はメンテする気をなくしてしまいます。
私は仕事柄、設備のトラブルやメンテナンス対応をする事もあるので、ここに拘れないエンジニアだけはなりたくないのです。そして設計者の皆さん!頼むから修理する人のことを考えてね。
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2) 操作系統をリモコン化
スキャナカメラ2020で実施した「スキャンのコントロール」は、現在私がスキャナカメラを使用する最たる理由となっています。
一般的なカメラでシャッタースピードをコントールするが如く。DJが曲と曲をつなぐような感覚…なのでしょうか。空間と空間の断絶、連続性をコントロールできる仕組みは、撮影していて非常に楽しいです。
スキャナカメラの中でも【時間の流れの可視化】を目的に、写真家・表現者としての視点でカメラを製作しているのは私ぐらいでしょう。
— Takahashi Toshio (@takahashi1040) June 5, 2024
断絶された空間は、異なる時間が流れた結果であり、「写真から除外されているはずなのに、存在する空間」として存在し続けます。https://t.co/EHGu1WlaEh
しかしながら、スキャナカメラ2020は前作【Integration】のマイナーバージョンアップ作品。殆ど外装は変えずにアップデートした影響もあり、スキャンコントロールする箇所がカメラ本体に設置されています。
スキャナカメラの大原則は、三脚上でカメラ本体を動かさずに撮影することが必須。それなのにカメラ本体にスイッチがあるせいで、操作時にカメラが振動してしまう問題がありました。
また【Integration】はカメラ本体とパソコンを一体化させてコンパクトにする事を狙っていたのですが、バッテリーは外付けでした。そのため【統合】といいながらも、実際のところはワンパッケージ化できませんでした。実際バッテリーを一体化させることも考えましたが、重量が嵩み、とりまわしが大変になるので、なかなか実現できませんでした。
ならばいっそ、操作系統やバッテリーだけは外部に出してしまえば解決できるのではないか?と考えました。これが【SEPA】の2つ目の意味です。
モバイルパソコン、バッテリー、スキャン操作系をリモコンとしてカバンに埋め込むことで、シンプルにまとめることができました。
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またバッテリーに関しても、せっかくなので新調しました。今までスキャナカメラで使用していたバッテリーは、【1kgほどあって重い】【18v/1Aまでしか昇圧できない】【同時にUSB出力もしないと、一定時間で電源が切れる】という問題があり、かなり頭を悩ませる存在でした。そもそも18vまでしか昇圧できない関係上、24v/1A必要であるGT-F500型のスキャナカメラを動作させることはできません。カバンに収納することからも、小型で24v出力可能なバッテリーが必要でした。
リポバッテリーを使ったバッテリーバックの製作も考えましたが、最終的には時代の進化が解決してくれました。昨今のUSB Power Delivery対応のモバイルバッテリーであれば、最大20Vまで出力可能であり、かなりの消費電力まで対応しています。私はCIO社のSMARTCOBY TRIO 65W 20000mAhを購入しました。
最大20V/3.25A出力可能なので、これなら24V/1Aまでの昇圧の可能性もありました(実際可能でした)。Power Deliveryのモバイルバッテリーから20Vをマニュアルで出すには抵抗値を変更させる事で可能らしいですが、世の中には便利なモジュール(USB-Cデコイ)があるのでこちらを使用しました(私が購入したものは20v以外にも可変できるものでしたが、アマゾンでは見つけ蹴られず…)。
また昇圧にはこちらのようなモジュールを使っています。
当然ですがモバイルバッテリーとしての使用も可能です。新しいカメラを作る上で、費用は極力抑えたいところですが、汎用的なものであれば自分への言い訳が立つのも良いです。
またリモコンとカメラ本体はケーブル一本で接続できるようになっています。RS232 15ピンのコネクタを介して接続しています。
私は仕事がらRS232のような規格をよく使うので、このケーブルが一番肌に合います。ただ、元々信号用のケーブルに最大65w出力させてよいか不明だったので、コネクタのみRS232ですが、ケーブルは自作で製作しています。
ただし本当であればRS232ケーブルのみで全ての接続を完了させたかったのですが、何故かスキャナのUSB-TypeBのコネクタ部分からUSBのピンを延長させると動作しませんでした。そのため、USBは別途接続するようにしています。ここはいつか修正したい。
USBのコネクタ部分から線を追加(分岐)すると、USBドライバが認識しなくなるみたい。ノイズの影響?
— Takahashi Toshio (@takahashi1040) June 8, 2024
ひとまず外して復旧しました。 pic.twitter.com/FkxwZ6V5ui
バッグ型のメリットは、なによりケーブル類も普段カバンの中にいれる事ができる点ですね。そしてパット見カバンにしか見えない(はず)なので、仮にフォトウォークのようなイベントでも浮かずに撮影できる(はず)です。
既に30代後半に突入しており、子供もいる身なので、怪しくない撮影ができるカメラを作れるよう心がけようと思っております。職質は勘弁です。パッと見は産業用ロボットのティーチングペンダントにしか見えません。デッドマンスイッチでも付けておけばよかったかな。
課題・問題
1)USB問題
既に記載があるUSBコネクタから別ケーブルで分岐させると通信が取れなくなる点。個人的に気持ち悪いのでなんとか解決したい。
2)たまに謎の挙動をする
600dpiや1200dpiなど負荷が大きい条件限定なのかもしれませんが、たまーに変な動作をします。
問題点1.何故か600dpiでスキャンすると謎の挙動が発生します。今までのスキャナカメラで撮影していた時には発生しない動きで非常に厄介。
— Takahashi Toshio (@takahashi1040) May 10, 2024
とはいえこれはこれで楽しそうではある。 pic.twitter.com/SoitzsnV5z
3)動作中の異音
たぶんギアbox回りの精度が良くないのかも。毎回同じ箇所で異音がするので、精神衛生上よくない
4)作品課題
これで結局何を撮るかという話。後述する作例をXにアップしたら、ジェットダイスケさんから興味深い話をいただきました。
アンビエント京都でこういう感じの動画版が上映されてましたよ
— ジェットダイスケ (@jetdaisuke) June 8, 2024
調べてみると、高谷史郎さんというアーティストの作品のようです。これが私がスキャナカメラで撮る写真に非常に似ており、私としては衝撃を受けました。
世の中には、自分と同じことをやってる人はいるんだなぁと実感。私がやりたいことは視覚体験ではないですが、広義では同じなのかもしれません。https://t.co/khUP8LtYgE
— Takahashi Toshio (@takahashi1040) June 8, 2024
もちろん、動画からのアプローチと写真からのアプローチは違います。私は「スチル」「スキャナカメラと」いう制限の大きさ故に出来上がる「写真」に魅力を感じているわけですが、ビジュアルとして類似作品を見て興奮が止まりませんでした。
まだまだ自分の中で腑に落ちきっていない部分もありますが、せっかく作ったカメラ。私としても差別化した作品を作っていきたいと思います。
作例
まだ全然撮れておりませんが、先程自分の中で物議?をかもした写真がこちらです。
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製作してからまだ全然撮れていないのが実情ですので、今後作品数を増やしていこうと思います!
今後、もっと作品ができてきたら、ここにも何枚か追加しようと思います!
おわりに
今回のスキャナカメラ。私としては、理想となるスキャナカメラが作成できたと思っています。また、このカメラで久しぶりに自分らしい作品が撮れて大満足しております。
個人的な話になりますが、私は結婚してからずいぶんと写真活動から離れていました。そこから復帰する足がかりとなるカメラを作り、それで満足できる写真が撮れました。自己満足かもしれませんが、これ以上の感動はありません。
【TIMELINE】
— Takahashi Toshio (@takahashi1040) June 8, 2024
2024
私がスキャナカメラを作り、スキャナカメラで撮る理由が詰まった写真です。
この一枚を撮るために3年かかりましたが、満足できる結果が得られました。#TIMELINE_Photograph https://t.co/LJTE2qCfAt pic.twitter.com/G52YFXObka
余談ですが、私は【Chronograph】が自分のステートメントや、現状の自分のライフステージに合う作品だと思っています。
ただしこの【Chronograph】は、あくまでスキャナカメラがあってこそ出来ている作品だと思っています。
ハードがあってこその作品。動画ベースですが、それはカメラを作っているからこそ自分の中で解釈を拡大できた作品です。
そういう意味で、私の原点となるスキャナカメラはきちんと使える状態にしたかった。私にとって、スキャナカメラでも撮れる作品を増やしたかったのです。
スキャナカメラは、GT-S620ベースの機体をraspyさんが製作したことがベースとなっています。今回であれば、YAKUさんが製作したGT-F500を改良しています。私にとって、スキャナカメラ単体は自身のオリジナリティとは呼べません。
また、スキャン中の画作りした結果に関しても、先述した高谷さんの作品が先行例として存在しています。
スキャナカメラに限った話ではありませんが、自作カメラを作る事自体は写真界隈においてオリジナリティとは呼べないと思っています。でも、誰もがカメラに触れることができる時代。カメラをわざわざ作って、それを作品に昇華させようとしている人は、かなり稀有な存在だと思っています。
私にとって写真の魅力は、「何が写っているか」ではなく「何故それを写すのか」「どうして、写真を撮るのか」というところに意義を感じています。カメラを作ってまで、撮りたい写真がある。そういう強い意志を、今後も自分の写真を撮るモチベーションとして活動していきたいと思っています。
最後に。スキャナカメラは、私以上に凄いものを作成されている方もいらっしゃいます。どらびさんは、センサの調達からスキャナカメラを作られています。私としては非常に楽しみです。
そしてこういう事ができるエンジニアに自分もなれるよう、今後も精進していきます。
#多分私しかやってない
— どらび (@DRB_lab) April 19, 2024
スキャナカメラ自体は作ってる人数人いるけど、スキャナ流用せずセンサ選定から自分でやってるのは見たことない pic.twitter.com/Hy1fQcE2JY
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