バーティカルSaaSにおけるエンタープライズ企業役員攻略 〜広報編 - 役員から会いたくなるThought Leadership作戦〜
フルカイテン株式会社にてCOOを務めます宇津木と申します。
この記事は、
・月額単価数十万円〜のB2B SaaSを扱う企業のPR、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、サクセスに携わっている方
・大企業の経営者に対してサービスを提供している方
向けの内容となっています。
端的に『大企業の経営者にどうやって価値を伝えればいいか』を悩んでいる方に読んでほしいなと思っています。
また、『バーティカルSaaSにおけるエンタープライズ企業役員攻略』というテーマを基に
①広報編
②マーケ編
③セールス編
④サクセス編
の4部構成を考えています。(が、すでに執筆に挫折しそうです。)
今回は第一弾の『広報編 - 役員から会いたくなるThought Leadership作戦』です。最後までお付き合いください。
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弊社の提供しているSaaS『FULL KAITEN』は、小売業向けの「在庫運用効率を上げることで売上・粗利を最大化できる」サービスです。
(↓成り立ちはぜひこちらをご覧いただきたいです。)
いわゆるバーティカルSaaSと言われる領域で業界特有の課題を解決するプロダクトで、導入費用的にも解決できるイシュー的にも、比較的大きな企業、かつ経営陣に提案しないと中々導入を決めていただくことができません。
この『バーティカル × 大企業経営陣』という掛け合わせのマーケットにおいて、リードの獲得から成約に到るまでの道のりは、それはそれは苦労してきました(というか未だに苦労していて課題はたくさん)。
さらには、コロナ禍において小売業界は大打撃を受けましたので、2020年になり企業の攻めの投資が一気に冷え込み、自分たちのビジネスも大きな痛手を被りました。今までのやり方が全く通用しないフェーズへの投入でした。
それでも、チームで愚直に試行錯誤を続けてきた中で一定のノウハウは蓄積されてきていて、かつ『バーティカル × 大企業経営陣』に対するマーケティング、セールスのノウハウや情報はあまり探しても出てこない、というところもあり、自分たちの試行錯誤の様や得られたノウハウをオープンにすることで、逆に情報が入ってくるようにという願いを込めて外だししてみることにしました。
また、情報があまりないとはいえ、出会える数少ない情報の中には有益なものも非常に多く、それらの情報にとても助けられているというのもあり、自分たちも得たものはちゃんと還元していこうという気持ちもあります。
これを読んでいただいて、
・意見交換したい
・もっと深く聞きたい
・フルカイテンで働いてみたい
など思っていただいた方、お気軽にお声がけください。
(↓カジュアルにお話ししましょう)
1. 大企業の役員とはどうすれば出会えるのか?
冒頭で
「FULL KAITENは導入費用的にも解決できるイシュー的にも、比較的大きな企業、かつ経営陣に提案しないと中々導入を決めていただくことができません」
と記載したのですが、実はこれは後から気づいたことでもありました。
後から気付いたと言いますか、まぁ何となくそりゃそうだよなとメンバー全員思っていたことではありますが、とにかくリードを獲得しまくれば成果に繋がると「リード獲得量」に振り切っていました。
ただ、最初から効率ばかり重視せずに量に振り切ることはとても重要だと思っていて、ここでも量に振り切ったからこそ課題が浮き彫りになりました。
「量に振り切った」と簡単に言いましたが、この「量」を取れたこと自体はマーケチームのとても大きな成果で、リソースも予算も限られている中で、ほぼ初めてやったウェビナーで500名集客できていました。(そのウェビナーはこちら)
しかし、リードも取れているし商談もそこそこ作れているのに、なかなか成約に至らない・・・
何かおかしいということで、途中でこれまでの全数百商談を振り返ってみたところ、顕著に決裁者か決裁者に影響を及ぼせるキーマンと商談をしないと成約に至っていない、ということが分かりました。
この辺り、とても参考になったのはこの記事でした。
それが分かれば一気にKPIも変更し、ここからは「どうすれば役員・社長と出会えるか」これが事業の最大テーマになります。
忙しい大企業の役員は、基本的にはググって情報を探す、ということはしない傾向にあります。なのでSEO対策やWEB広告を行っても、現場レイヤーリードは獲得できるのですが中々ターゲットには出会えません。
現場レイヤーリードを獲得して上席を引っ張り出すというやり方もなくはないですが、これは言うほど簡単ではありませんし、ROIが見合わない場合が多いです。(ただこちらはこちらでやりようはあるので③セールス編で言及します。)
前述で500名集客できたセミナーについて話しましたが、セミナーでも役員陣が多く参加してくれるものもあれば、そうでないものもありました。
ここで出できた仮説は、
・業界の著名人が「経営の潮目」をテーマとして語るウェビナーは経営陣が登録してくれる
というものでした。
(ここでは主にコンテンツの話をしています。デリバリーはまた別で書きます。)
コロナ禍ということもあり、小売企業の経営者は先の業界動向や経済の動向をより気にしている、ということです。
2. 大企業経営者に会いたいなら、○○になれ
この仮説から、業界の著名人と「経営の潮目」をテーマとしたウェビナーを量産していこうとなり、それはそれで実行していきましたが、さらに、「我々自身が業界に対してThought Leadershipを取れれば自分たち自身の知名度が上がり、より経営陣の皆様にも反応していただけるようになるのでは?」と考え、その戦略に打って出ました。(ただし、業界に訴えたい強いThought(=主張、思い、理念など)があるということが大前提になります。)
具体的には、メディアを開拓し、在庫問題についてイデオロギーを持った論陣を張って市場に課題感を醸成する、ということを実行しました。
この露出を通して、最終的には、
「在庫のことなら(当社代表の)瀬川に聞け」
「在庫のことならフルカイテン」
という空気感を小売業界(まずはファッション業界)に浸透させることが目標です。
この戦略実行において大いに活躍しているのが弊社広報の南(通称デスク・写真左)。
彼は前職が大手新聞記者がゆえ、メディアの開拓、メディア企業の記者が求めていること、リレーション、載せてもらえる記事の論調考案などに非常に長けており、超アイデアマンである代表・瀬川の発案をことごとく形にしていく縦横無尽の活躍をしてくれています。
彼が作ったホワイトペーパーが、権威ある業界専門新聞に丸々載る、なんてことが一度や二度ではないぐらい発生しており、弊社の大きな強みになっています。
※ 例えば今年4月のこちらの週刊ダイヤモンドおよびダイヤモンドオンラインに掲載された大手アパレルの業績に関する記事は、南が作成した小売業界調査レポートを基に書かれている。
ただ出るだけではなく、経営陣に響く論調をどれだけ伝えられるかが最も重要なポイントで、瀬川と南のタッグであの手この手で露出を増やしていったことにより、
「一度フルカイテンさんとお話ししてみたかった」
のように小売企業の経営者の皆様から言っていただく機会が圧倒的に増えました。
経営者がいるところにただ営業をかけていくのではなく、向かっていった際により耳を傾けていただけるポジションを確立する、というところから始めることで、マーケティングが打つ様々な施策の反響が大きくなるため、このThought Leadership作戦は大きな後押しとなりました。
一例では、
・ウェビナーにて一部上場企業の会長さんに参加いただき、登録いただいた携帯電話に架電してお話しし導入決定
・小売経営者が集まる会にて代表・瀬川からご挨拶させていただいたら「前から話したかった」と何人の方にも言われ、その場で複数件商談が決まる
このようなことが頻繁に起こり始めました。
そして今では初回商談の8割が役員以上の方と組めているという状態まで来ています。(この辺りの詳細はマーケ編、セールス編あたりで)
大企業経営者に会いたいなら、大企業経営者にとって気になる存在になる。
代表のキャラクターが成せる技かもしれませんが、後の成果に大きく寄与した作戦でした。
また、これはバーティカルだからこその戦略かもしれないと思っています。
バーティカルだからこそ、小さな池で大きな鯉になりやすい。という側面があるのではと。
3. スーパー広報・南の頭の中
前述の通り、元新聞記者である弊社広報の南は、フルカイテン入社前は産経新聞社で18年、敏腕記者として活躍し、編集デスクまで務めたという経歴の持ち主です。
良くも悪くも、IT・スタートアップとはかけ離れた場所で社会人としての礎を築いてきた人間です。そんな彼が、少人数のスタートアップの広報としてどうバリューを出しているのか、どんな考えで業務を遂行しているのか、インタビューしてみました。これは私自身も詳しく聞いたことがなかったのでとても含蓄のある内容となりました。
ちなみにこちらはフルカイテン入社時に書いてもらったwantedlyのフィードです。これも必読。
宇津木:Thought Leadershipを取るために重要なことは何ですか?
南:広報も突き詰めれば営業と一緒でして、対価を払う・もらうはないけど、情報を提供して興味を持ってもらう、その上で記者に「記事を書こう」と思ってもらわないといけない。じゃあ記者はどんなことを求めているか、どんなコンテンツなら興味を持ってもらえるか、これを徹底的に考えています。さらにはメディア露出は出続けて初めて弊社の与信が上がるので、如何に連続性を持って戦略的に露出ができるかを意識しています。これがチームを「戦略広報」と名付けている所以でもあります。
宇津木:記者がどんなものを求めているかというのはどうやって探るんですか?
南:たぶん広報の人間なら普通にやっていることだと思いますが、まず毎朝地道に情報収集してます。朝ごはん食べながら日経を読む。DXならどういう文脈で取り上げられているか、どんな記事が多いか。そして業務開始したらwebで繊維ニュース、繊研新聞を読んでます。そしてここからが大事なポイントでもありますが、新聞は記者がニュースとして取り上げたいものの集合体なんです。なので編集局はどんなことに興味を持って記者たちが書いた原稿を取捨選択しているのか、をイメージしながら全体を読んでいます。そのイメージを持った上で、同じ提供ネタでも、日経に対する取材案内と業界専門紙に対する取材案内はガラリと変えています。興味の範囲や角度が異なるためです。如何に記者に思考コストをかけさせないようにするか、を重要視しています。また、スタートアップ広報だとやりがちですが、ずうずうしく書いてくれ、などのようにしつこくしないのも大事な点です。
9月上旬に、私が作成したレポートを業界紙にまるまる載せていただきましたが、これも記者の思考コストを徹底的に下げたのが功を奏したと考えています。ネタを送った後に、勝手にグラフを送ってあげたりもしていますが(記事にする時役立つでしょ、的な)、こういったプロアクティブなアクションも地味ですが大事です。
↑情報収集に余念がないデスク
宇津木:デスク(南の社内通称)が新聞記者だったからそこ活きているところってありますか?
南:記者が、「こう言われたら心地良い」「過度な負担にならないか」のような、この微妙なさじ加減が分かるのはやはり活きているポイントだと思います。大企業ならメディア側から取材依頼がくることは珍しく無いですが、スタートアップはなかなかないのでガツガツいきがちなんですが、それをやると逆効果だったりします。元記者ということもあり、記者に対して仲間意識がありますし、共存共栄だと思っています。
また、「フルカイテンが出してくるリリースは役に立つな」と思ってもらえるようにすることを心がけていて、事実を曲解するようなレポートを作っても、中身を読めばバレるし長続きしないので、中長期的な信頼度のためにこの観点は最も重要です。
宇津木:さすが、元記者だからこそ分かる琴線といいますか、もっというと編集デスクまで務めてますから編集デスクの立場も想像できるわけですもんね。
南:そうですね。先ほど記者とは共存共栄の間柄だと言いましたが、フルカイテンがただ掲載されるだけでは、うちは「載ってよかったー」となりますが記者とはwinwinにはならないんです。その先があって、フルカイテンのネタを載せたことで、書いた記者も社内で評価されるのが理想でして、いちスタートアップの記事を載せてもらうんだから、相手も載せるメリットがないといけない。その観点で言うとやはり編集デスクの視点です。冒頭で「編集局はどんなことに興味を持って各記者が書いた原稿を取捨選択しているのか、をイメージしながら全体を読んでいます」と言いましたが、載せる記事を最終的に意思決定するのはデスクです。そこで選定されることで記者の評価に繋がるので、編集局はどんなことに興味を持って紙面をつくっているのか、これすなわち、編集デスクは何を伝えたいのか、ここをイメージして、記者に提供するネタがデスクに選ばれるように考えています。
宇津木:ありがとうございました。今後戦略広報チームはますます重要な役割を担っていくと思いますし、人手も増やしてチーム作りを開始するところです。ぜひ興味ある方はカジュアル面談からで構いませんのでお話ししたいですね。
「広報編 - 役員から会いたくなるThought Leadership作戦」については以上です。
次回はマーケ編を書きますのでぜひこちらもリリースしたら一読いただけると嬉しいです。