最期の夢
見知らぬ人が、突然目の前に現れた。
右手には銃があった。
銃を認識した瞬間、時の流れがスピードを緩めた。
嗚呼、私は撃たれて死ぬんだ。
ただそう思いながら、立ち尽くしていた。
案の定、銃口は私に向けられた。
弾丸はよく見えなかった。
首からドロドロと温かい何かが流れていくのを感じた。
痛みで下を向くこともできず、それが何色であるかもわからなかった。
やっとだ。
そんなことを考えて、嬉しくなってしまった。
私は笑っていた。
喉が痛くて痛くてたまらない。
意識が遠のいていく。
ふと、震える口角に違和感を覚えた。
いつも愛想笑いをする時に感じる、不自然な頬の痛み。
あれ、私まだ死にたくないかも。
こんな時まで、無理して笑ってるのか。
いつ死んでもいいと思いながら生きてきた。
何も悔いなどない。
そう信じていた。
信じたかっただけなのか。
死にたがりのふりをしていただけなのか。
喉の痛みが増していく。
もう、視界もぼやけてきた。
まだ、もう少しだけ、生きたかったな。
アラームが鳴り、私は現実に引き戻された。
どこかで分かってはいた。
悔いのない人生など、歩めるはずがないと。
完璧なタイミングで、満足のいく死など存在しないと。
私はまだ、希望を捨てきれていないのだろう。
それなら、もう少しだけ、生きていける気がした。
酷く気分の良い、最期の夢を見た。