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新しい船出

※このnoteは昨年の3月に1回書いたものの、出そうか迷いに迷った挙句一度ボツにしたものを再度編集したものである。

2022年2月20日、ある重大な発表があった。それはSAMさんが音源の名義を本名である「舟平」に改名すること、2022年のバトル不参加(そして戦極29章で復帰し見事優勝を果たした)、そしてEPのリリースである。突然の出来事で当時は頭の整理が追いつかず、バトル休止のショックとEPリリースの喜びで感情がぐちゃぐちゃになったことを覚えている。(正直バトル休止のショックは大きかったが...)
大きな転機を迎えることになったが、決断の理由にSAMさんの夢がある。それは「武道館でワンマンLIVE」である。2021年以降ぴあアリーナMMをはじめ日本武道館、さいたまスーパーアリーナ、両国国技館と超大規模会場でもバトルイベントが開催されるようになり、SAMさんもMCバトルでぴあアリーナMMと日本武道館の舞台に立った。この経験が夢をより強く抱かせるようになったかもしれない。


タイトル

そして改名とほぼ同時にリリースされたのが1stEP『Day Collage』である。Collageとは画面に新聞紙などの切り抜きや写真などを貼り付けて特殊な効果を狙う技法という意味があり、実際EPのジャケット写真はこの技法を取り入れたものになっている。直訳して考えてみると、日々の生活を切り取って彩るという意味が考えられる。

『Day Collage』は全5曲収録され、総時間は13分とかなり短くなっている。あくまでもアルバムではなくEPであるので、コンパクトですぐに1周できる。節目の意味も込めてぜひ聴いてほしい。

1.Re:Days

そんな節目のアルバムのリード曲はRe:Daysである。タイトルを見てピンときた方も多いと思うが、2020年にリリースしたシングル『Days』のエッセンスが少し入っている。余談であるが、『Days』はSAM名義の音源でもトップクラスに人気があり、YouTubeでの再生回数はぶっちぎり1位の226万回再生(2023年5月14日現在)となっている。これは丁度MVが出た時期にフリースタイルダンジョンでSAMさんが出場した回が放送されたのが影響していると思う。SAMさんの出演回は2週に渡り放送され、1週目では呂布カルマさん、ERONEさん相手にクリティカルヒットで勝利し、2週目でFORKさん相手にクリティカルヒットで敗北を喫するも番組自体の影響力も相まって話題になり、SAMさんに対する注目度がいつもより高かった時に配信したことが大きかったのではないか。
今回のRe:Daysと比較してみる。出だしの「ツレに勧められたR-1」と同じ出だしで始まるが、それに続くリリックが『Days』では「飲み干して綴る verse1」であるが、『Re:Days』では「飲み干して今思いを馳せるverse1」と少し変化している。『Days』から2年経った中での変化や改名にあたって過去のリリックを見返したのかなと思った。また『Days』では「"音楽で生きる"じゃなくて"音楽と生きている"のさ」となってたのが『Re:Days』の締めで「変わらず音楽と生きている今」となっているように、SAMさんの大事にしている根幹の部分は変わらず存在しているように感じた。トラックを聞いてみると『Days』は爽やかでオシャレなビートだったのが『Re:Days』は大人なオシャレさを感じさせるものになっていた。ちなみに『Days』のトラックは2pacの『Do for Love』のサンプリングではないかと言われており、実際に聴いてみたら確かにそう感じさせられたのでぜひ聴いてみてほしい。
MVをみると、まずサムネは同じ場所で同じように横を向いてる姿となっている。そういったところもおっとなった。
※『Re:Days』のMV

『Days』のMV

2pac『Do for Love』のMV

2.Style Free

『NATURAL』の中にもあったが、このEPにもかなり短めの音源があり、それが『Style Free』である。この音源は『Re:Days』に続いてトラックメーカーのikipediaさんによるトラックであるが、こちらは落ち着いていながらも疾走感を感じさせるようなトラックとなっている。
この音源のリリックをみると「I just kick in 第一にfeeling」「隅から隅 "あ”から”ん”まで駆使」「欠かせないmicとfamily +reality」「このlifeが歌詞 錆びねぇ価値」といったように、普段音源を製作する過程において大事にしてることが随所で伺える。舟平さんのリリックの等身大さが自分は好きであるのだが、それは舟平さんの普段の暮らしが丁寧かつ洒落た言い回しによって表現されていると改めて感じた。さらに締めのはK-rushさんとの音源『city light』にもセルフサンプリングされた。

3.MeMory season(feat. 凛太朗)

まず気になることが一つある。タイトルをみてみると、単語の頭の"M"に加えて単語の途中の"M"も大文字になっている。つまり普通なら『Memory season』と表記するであろうところが『Me"M"ory season』となっている。ただの誤表記の可能性もなくはないが、リリースから1年以上経った今も変わってないので恐らくこの表記で正しいのだろう。ならば、単語の中の大文字”M"にはなにか意味があるのかもしれない。
この音源では『2'love』以来の凛太朗さんとの音源であり、トラックはWAZGOGGさんのトラックである。
リリックに目を向けると、想いを届けることについて着目されているように感じた。例えばフックの「I never forget you baby 風と共に流されまいと」、凛太朗さんのバースの「どう想えば届くのか どう叫べばお前に届くのか」、舟平さんのバースの「淡いグラスで溶ける氷のよう かき混ぜて飲み干してきた本心」のように、誰かしらに想いを届けることが軸に展開されていると考えた。
それではもしこの仮定が間違っていないならば誰に想いを届けたいのか。凛太朗さんのバースを見てみると、街の情景を交えつつ「孤独と向き合うことで聞こえた鼓動 独りよがりはよそう」「愛のせいで男はカッコつける だからお前にも嘘をつくのさ」とある。文面どおり読み取れば大切な人へ向けているようにも感じれなくはない。
舟平さんのバースの中で「昔遊んだおもちゃのように 錆の付いたのは遠いストーリー」とある。"おもちゃ"の部分からので"遠いストーリー"の部分は"トイストーリー"とかかっているのではないかと思った。「あいつが被るキャップはGUCCI 俺は行かない高級ブティック」「人は傷つけ合うのが得意だが 見え隠れするエゴと後付けのLove」と他にも舟平さん節が存分に入っていて、この音源はアルバムで個人的に最も好きな音源である。
※『2'love』のMV

4.夢人

この音源は舟平さんの音源の中で『Truth』以降唯一タイトルが熟語の音源である。ちなみに「夢人」とは夢で会う人、夢のようにはかなく想っている人という意味があるようで、「朝は重たい布団」の出だしで始まるのはタイトルとリンクしてると考えられる。この音源は東京に関する描写が多いように感じる。「街は絶えず人 罪に愛に嘘 池袋」「顔を隠す東京を睨む明日に問う」「24 夢理想 胸の奥に常に持つ」と、東京でも生活する中で街の視覚的なものであったり街の様から感じ取ったものがリリックに表現されているのかなと思った。

5. Back Chapter

EPのラストである『Back Chapter』は2021年11月15日、自身の誕生日にSAM名義で最後に出した音源である。改名をいつ決心したか分からないが、EPに収録したということはこの音源を配信した頃には既に決心していたと考えていいと思う。「眠れない夜に絡みついたlife 後に戻れない もう後に戻れない 変わらない味気ない日々を愛したい」というフックの部分や「常に並ぶ選択に翻弄」「振り返った分背中のしかかったカルマ この痛みを削り高く積んで眠る枕」も、当時の苦悩が垣間見えると今になると感じ取れなくない部分がある。
この音源で特にくらった部分は最後の「向き合うために逃げることを俺は罪と思わない」というリリックである。人間誰しも正解が分からずに苦しむことは大なり小なりある。その時に難題に対して、向き合って解決に向けてとことん行動することが従来では美徳とされている。実際それは間違いではない。しかしそれにはかなりの体力と精神的疲労を伴う。僕みたいに弱い人間にとってはわかっていても実行するのは容易ではなく、綺麗事として受け流してしまうことが多い。その中で「逃げることも罪と思わない」と言われると、なんだか弱い自分でも自己のペースで時に逃げつつも向き合えばいいんだと肯定してもらえたような気がした。
※『Back Chapter』のMV

最後に

改名することに当時かなり動揺したが、洒落た街の描写表現や大切な仲間への想いであったりスタンスはブレていなくて、改名もそう重く捉えなくてもよかったのかなと今になって考える。音源はもう"舟平"として出すようで少し寂しさもあるが、これからもSAMさんも舟平さんも愛していきたい。

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