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大学入試改革と共通テストの導入

大学入試改革と共通テストの導入
はじめに
日本における大学入試制度は、長年にわたり「大学入試センター試験」によって支えられてきました。しかし、グローバル化が進む社会や、より多様な思考力や表現力が求められる時代に合わせ、教育改革の一環として「大学入学共通テスト」が2021年に導入されました。この改革には、特に「記述式問題の導入」や「英語の民間試験の活用」が注目されており、それぞれに賛否両論がありました。本論文では、大学入試改革の背景や共通テストの特徴、記述式問題および英語の民間試験の導入を巡る問題について考察し、その影響を検討します。
1. 大学入試改革の背景
日本の高等教育における大学入試は、長らく暗記力や基本的な知識量を測ることに重点が置かれてきました。しかし、急速に変化する現代社会において、学生に求められる力は単なる知識の蓄積にとどまらず、論理的思考や問題解決能力、コミュニケーション力といった多様なスキルに拡大しています。このような要請に応えるため、日本政府は2013年から教育再生実行会議を設置し、高等教育の充実と大学入試制度の見直しについて議論を重ねました。その結果として「センター試験」に代わり、新しい評価方法を導入した「大学入学共通テスト」が策定されました。
2. 大学入学共通テストの特徴
大学入学共通テストは、単なる知識量ではなく、「思考力・判断力・表現力」を重視する方針が掲げられています。特に、次の二つの改革点が注目されました。

  1. 記述式問題の導入
    記述式問題は、従来の選択式問題だけでは測れない表現力や論理的思考力を評価することを目的としています。これにより、受験生が考えたことを自分の言葉で表現する能力を測ることが可能になると期待されました。

  2. 英語の民間試験の活用
    英語の評価に関しては、従来の筆記試験に加えて、スピーキングやリスニングといった実践的なスキルを測るため、英語の民間試験の活用が検討されました。これにより、国際社会で活躍できるコミュニケーション能力の育成が狙われました。

3. 記述式問題の導入とその課題
記述式問題の導入には多くのメリットがある一方で、多くの課題も指摘されています。

  1. 採点の公平性と安定性
    記述式問題の採点には、特に公正さが求められますが、大規模な試験において統一的かつ迅速に採点を行うことは難しいとされています。例えば、解答の微妙な違いや表現の多様性が評価に影響を与えかねず、その結果、公平な採点が難しくなる可能性が指摘されています。

  2. 採点のコストと時間
    記述式問題は採点に時間がかかるため、迅速な結果の提供が難しくなり、受験生にとっては不安材料となる場合があります。また、採点に必要な人的リソースや費用も大きな課題です。このようなコストが増大する中で、持続的な制度設計が求められます。

  3. 評価基準の不明確さ
    記述式問題では、答えが一つではなく、多様な表現が許容されるため、何をもって正答とするかの基準が不明確になりがちです。評価基準が曖昧である場合、受験生は自らの解答が適切であるかどうかの判断が難しくなり、ストレスを感じることになります。

4. 英語の民間試験活用とその課題
英語の民間試験を大学入試に導入することには、実際の英語運用能力を測るという利点がありますが、以下のような課題も存在します。

  1. 地域や経済的な格差
    英語の民間試験は実施会場や受験料が地域によって異なるため、地方在住者や経済的に余裕がない受験生にとって不利になる可能性があります。実際に、地方では試験会場が不足していたり、都市部と比較してアクセスが悪いことが問題視されました。

  2. 受験機会の制約
    民間試験は年度内に複数回受験できるため、受験生にとって複数回のチャンスが与えられる利点もありますが、それが逆に不公平感を生むという批判もあります。経済的に余裕がある家庭の受験生が何度も受験して高得点を狙う一方、経済的に一度しか受験できない受験生との格差が拡大することが懸念されています。

  3. 試験の内容や基準の違い
    各民間試験によって評価基準や問題内容が異なるため、どの試験を受験しても公平な評価が得られるかという問題もあります。異なる基準で得られた点数を大学入試の基準に統一する方法には課題が残っており、このことも導入への批判材料となっています。

5. 大学入試改革の影響と今後の課題
大学入試改革は、日本の教育のあり方に対して大きな影響を及ぼすものであり、これを受けて高校教育も変化を求められています。しかし、上述のように実施にあたっては多くの課題が顕在化しており、現在の社会的・経済的環境や教育現場の実態に合わせた改良が必要です。
また、英語や記述式問題に限らず、学力を多面的に測るための評価方法の開発や、地域間格差を考慮した支援策が求められています。さらに、大学側がどのような学生を求めるかを明確にし、高校と大学の連携を強化することも重要です。
結論
大学入学共通テストの導入は、日本の大学入試制度の転換点となるものであり、新しい社会のニーズに応えるための重要な試みです。しかし、記述式問題や英語の民間試験の導入に伴う課題は依然として残っており、受験生にとって公平で持続可能な制度を築くためには、さらなる検討と改善が求められています。今後も教育改革が進む中で、多様な学力を適切に評価する仕組みを構築し、社会に貢献できる人材を育成するための努力が必要です。
参考文献

  1. 文部科学省. (2018). 「大学入試制度改革に関する資料」. 文部科学省.

  2. 教育再生実行会議. (2013). 「新しい大学入試制度の構築に向けた提言」. 内閣府.

  3. 鈴木裕太. (2020). 「大学入学共通テストと教育改革」. 日本教育学会.

  4. 田中一郎. (2021). 「大学入試改革の背景と課題」. 教育評論, 45(3), 56-78.

  5. 山田宏. (2019). 「記述式問題の導入とその影響」. 教育とテスト, 28(2), 21-34.

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