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実録『偽装結婚の闇』(前編) 夜逃げと偽装結婚は地続きだった

割引あり

夜逃げ屋は「偽装結婚」で儲ける


 大手町の雑居ビルにオフィスを構える関根克明氏(仮名、56歳)。前回の記事『実録「夜逃げ屋」』で紹介した通り、自転車操業状態の会社を救済させるべく、経営コンサルタントとして経営指南という名の知恵を貸し、計画的に倒産させてきた男である。
 
 関根が請け負うのはこうした会社組織だけでなく、顧問先やその知人から頼まれれば個人の債務も引き受ける。消費者金融やカードローンで首が回らなくなった人間を、自己破産というかたちで救いの手を差し伸べるのだ。それも手数料は、弁護士費用の実費だけという良心価格である。
 
 どこか慈善事業のように甘い夜逃げ屋の話は、偽装結婚という闇へと続くのであったーー

 関西で事業を興したのち、東京へ進出してきたという関根は、今となってはどこの地域か特定できない程度のなまりを語尾に少し感じるくらいで、終始穏やかに、淡々と話す。
 
「サラ金だとかクレジットカードの借金で首が回らなくなった人間というのは、それまではお給料の大半を借金の返済に充てていたわけですよね。たとえば毎月30万円のお給料を貰っていたとすると、そのうち25万円くらいを返してと、毎日が苦しくて苦しくてしょうがない。そんななか、こちらで自己破産させる段取りをつけ、手元に(自己破産の手数料の分割払い、5万円を差し引いた)25万円を残すようにしてあげる。本当ならそこで、生活を立て直そうとするのが真っ当な人間の思うことなんですが、『自分はもっと稼げるかもしれない』なんて勘違いしはじめて、職場をよそに変えてしまうのが常なんです。20人いて1人くらいしかその後に残ってまともに働かない。まぁ、そういう人種なんだろうと思いますが」

 自己破産した直後は、支払いのストレスから解放されて、手数料を肩代わりしてくれたオーナーに感謝しながら頑張って働く。借金まみれで今まで5万円で生活してた人が、あくる月には25万円を手にできるようになる。すると、のど元過ぎればなんとやらで、1ヶ月もすれば恩を忘れ、新転地を求めてオーナーの元を去ってゆくのだ。
 
 職場を変えても、自己破産する時点で債務者本人の身辺事情をくまなく聞き込んでいる関根は、常に居所をつかんでいる。ただし、オーナーの元から離れた債務者が、どこかで再生して頑張っているという話を聞くことはまずない。
 
「不思議なことに、自己破産するまで苦しくて相貌が沈んでいた店長も、借金をクリアにすると生まれ変わった気分になるのか、今度はイキイキしだすものなんです。しかも場所を変えて新しいスタートをきると、はつらつさに磨きがかかり、段々と人も集まってくるようになる。そもそも店長として店を切り盛りしていたぐらいだから、仕事もできるわけで。となると、ただの雇われ店長でも、売上金を自分の稼いだお金と勘違いしてしまって、そのうちまた交遊しだすようになる。で、同じことを繰り返すんです」
 
 借金にまみれる者というのは、自分を身の丈以上に評価し、勘違いをしやすい。それがアダとなり、早ければ半年、遅くても1年以内には間違いなく元の貧乏な生活に戻ってしまうという。そして自己破産によって借金の免責を受けた者が借りられる先というのは、だいたい限られる。
 
「あのね、お金って麻薬とよく似てる」

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