からメシ 第182話 いっしょにいること

ついに高校最後の文化祭の最終日
その文化祭ライブ当日。
もう出番は直前である。
今は劣等Feとかいうプロのバンド演奏中で、舞台袖に控えている

大勢の生徒を前にして
しかもプロのバンドの後
しかもオレは昨日の激辛対決が響いて
今度は尻が痛い

本当に緊張してきた
手が震えてしまう。

「西片、緊張してるの?」

高木さんが震える手を握る。

「大丈夫だよ。...緊張した時はさ、私の顔をじーっと見て。」

じー
「それはそれで恥ずかしいかも...///」

「でも、緊張はほぐれるんじゃないかな」

「うん。少しは...」

「そっか。嬉しいな」

「高木さんは緊張しないの?」

「うーん。あんましないかな。だって」
「西片と一緒だもん」

そっか。オレも高木さんが一緒なんだ。
それなら大丈夫なんじゃないか。

プロのバンドの歌もさっきから聞こえてくる

『君がなんで急に僕の元から去ったのか解き明かSeないNe~♪』『俺は君のTeをもう握れないSi♪』『君Ni~この気持Ti~♪』

演奏技術は上手いけど
歌詞は高木さんの作った歌詞のがずっといいぞ!!!

司会の女子「今年メジャーデビューしたバンド、劣等Feのデビュー曲『君のドアスラム』でした!ギターのグリップ上庄さんの出身校がこの小豆島総合高校とのことです」

歓喜「キャーキャー」「ワーワー」
パチパチパチパチパチ

オレたちの前に演奏していたプロのバンドの演奏が終わり、機材とかカメラが片付けられていく。

しばらくすると機材が撤収される。
高木さんが大丈夫だよと緊張ほぐしてくれたとはいえ、緊張するもんはする。

まず準備だ。椅子を向かい合わせるように置いてそこに高木さんとオレは向かい合って座る。

司会の女子「次はエントリーナンバー13番。N❤Tです。」

客席の方を向くんじゃなく、
客席からみると横を向いてる感じで高木さんと向かい合って座る。
普通、ライブは客席の方を向くが、これは……

~~
新学期始まるちょっと前の8月末の酷暑の日
受験勉強の合間に、文化祭バンドの練習もかねて、打ち合わせをしていた

「ええ!?そんな感じにしていいのかな」

「うん。だってこうしなきゃいけないって決まりはないよね?」

「ええ、いいのかな。観客の方を向かないライブなんて」

「まああんまりないけど。これは譲れないな私は」

「どうして?」

「だってこの歌は、西片に、西片へ書いた歌だから。西片のための歌だからさ。西片の方を向いて歌わなきゃ」

~~

そう。だからこそのこの席の配置だ。
そして、俺がウクレレを構える
簡単な楽器という事だったが練習すると結構難しいのである
緊張もある。上手く弾けないかもしれない。
高木さんのおばあちゃんが遺した大事な楽器で下手な演奏なんてしたら……

「それではお聴き下さい」

始まる。
「いっしょにいること」

高木さんが曲のタイトルをマイクに向かって呟く

後には引けない!高木さんの作った曲を、作った詩を
響かせるんだ

俺の前奏が始まり
高木さんの歌声が響き始める

「当たり前のようにずっと一緒にいたね
出逢ったあの春の日から。私はずっと大好きだよ」

「いつも一緒に過ごして、どんどん好きになって。君といられることが、私の幸せで」

突然不協和音が響く
ま、間違えた。
どうしよう。

「恥ずかしがり屋の君は、」

ま、また間違えた
次どうするんだっけ

ざわざわ
観客「演奏変じゃね?」
観客「間違えてるのかな?」

ちらほら声も聞こえる

「なかなか好きだって言ってくれなかったけど」

どうしよう。
ミスが重なり聴くに耐えない感じになってきた
こんな短期間で楽器なんて無理だったのか…演奏を止めてしまった。
高木さんに恥ずかしい思いをさせてしまった

彼女の歌も止まる
会場がざわつく

観客「どうしたんだ一体」ざわざわ
観客「なぁ……演奏……ちょっと下手じゃね」
ざわざわ

ごめん。高木さん。
俯いてしまう。

高木さんがマイクのスイッチを切り俺に話しかける。

「西片、こっち見て。私の顔。見て。」

恐る恐る顔を上げると
高木さんがにっこり笑う

「大丈夫だよ。西片。だって。私と西片、一緒にいるんだから。自信もって。2人一緒なら。怖いものなんてないよ。」

「でも俺...こんな失敗して、高木さんに恥ずかしい思いさせちゃって」

カッコ悪いな。涙まで溢れてくる

「恥ずかしくなんてないよ。西片は私の誇りだよ。それにミスしたり失敗するのは恥ずかしい事じゃないよ。…だからさ、これから先、2人で一緒に失敗もいっぱいしようよ。」

「……うん。」

演奏を開始する。
高木さんもそれに合わせて歌い始める

「それでも君の愛はずっと感じてたよ。」

もう大丈夫。

「だから、ずっと一緒にいて、愛を注ぐんだ。」

高木さんと一緒だから。

「だから、ずっと一緒にいて、幸せにするんだ。絶対、ずっとね。」

またミスった。でも気にしない。高木さんだけを見る。

「夏祭りのあの日、君は私に告白してくれたね
生きててよかった。って思ったよ。」

例え演奏が下手くそと皆に笑わられても

「だからいつも一緒に過ごすよ。これからも
君といられることが、私の全てだから」

みんなに罵られようと

「恥ずかしがり屋の君も、たまに好きって言ってくれるようになったから」

オレの目には高木さんしか映らない。

「だから私もずっと好きって言い続けるよ。」

高木さんと一緒に歩んでいるんだから。

「だから、ずっと一緒にいて、君を支えるんだ
だから、ずっと一緒にいて、君と幸せになるんだ」

大好きな人と生きていけるんだから

「絶対、ずっとね。」

怖いものなど何も無い

「ずっと君が笑ってられるように。頑張るから
君がしょんぼりしてたらからかって元気付けるから」

例え文化祭の大勢の観客の前だって

「あの日見た夕日も、星空も、相合傘で帰った雨の日も。想い出だけじゃなく、これからもずっと積み重ねていこうね。」

オレの人生は高木さんと二人だけの世界だ

「一緒にいよう。ずっと
君と私は二人で一つだから」

絶対ずっと一緒にいる。

「だから、ずっと一緒にいよう。君と生きていくんだ
だから、ずっと一緒にいよう。何度生まれ変わっても」

ありがとう。高木さん。

「絶対、ずっとね。」

オレは高木さんが

「当たり前のようにこれからも一緒にいるよ。
それが私の好きって心だから。」

大好きだ。

「私の一番大事なものだから。ずっとね。」

高木さんの歌が終わり
演奏が終わる。

会場が静まり返る
そして
パチパチパチ
とまばらに拍手が沸き起こり
だんだん大きくなる。

司会の女子「N❤Tより、『いっしょにいること』。でした~!いや、なんか良かったです。下手なのに」

高木さん「だってさ。西片。まあ仕方ないよ練習あんま出来なかったし」

西片「うん。///」

椅子を片付けてバックヤードへ向かう
次のバンドが準備していた

高尾「西片、お前演奏下手くそだな。」

西片「あんま練習出来なかったし……ってなんだよその格好、つか高尾も出んの?木村も!?」

なんかタイツ履いてコウモリの翼付けたどことなくダサい感じの高尾と、普通に制服きた木村。だがおにぎり食ってる。

高尾「下手だけどなんか良かったぞ。」

木村「気持ちがこもってたな」

西片「ありがと。……てか高尾たち演奏できんの?」

高尾「出来るわけないだろ、だから秘密兵器よ。ほら、このパソコンを見たまえ、君。AIソフトで楽曲作って演奏してくれんだよ。あとボカロが勝手に歌ってくれる。これが令和に生きるバンドだぞ。」

西片「じゃあ高尾らはなにするんだよ。」

高尾「適当に蠢く」

木村「飯食ってる」

その手が……
いやいや、高木さんと俺の力だからこそ成し遂げた感とかやってよかった、楽しかった感があるからオレと高木さんはこれでいいんだ。

木村「そろそろ行くぞ、高尾」

高尾「おう!」

視界の女子「続きましては、電脳量子世界より出てし常闇の魔の眷属、テクノエレクトロデスデーモンfeet.豚丼」

何だこの長くセンスがない名前は。
そして電子機器にマイクを近付けてる影響か
ハウリングがやたらすごく
木村は始終おにぎりを食い、高尾は蠢いたり転がったりして

観客は(一体何を見せられているんだ)って感じだった。
まあ当人たちが楽しんでるならいいんだろう。

「西片、いっぱいミスって皆から下手って言われてたけどさ」
「でもさ。やってよかったでしょ?文化祭バンド。楽しかったよね」

「うん!楽しかった。ありがとう。高木さん。」

「私もね、楽しかったよ。」

顔を見合わせて笑う。

そんなこんなで高校最後の文化祭は終わった。
大学だと文化祭を出す側に回ることは文化祭に積極的なサークルにでも入らなきゃないし
これが開催側としては最後の文化祭かもしれたい。片付けしてても寂しさは少しある。
でも、高木さんと一緒なら。なんも怖くない。

帰り道。高木さんと一緒に帰る。
本当に文化祭バンドやってよかったと思う。

楽しかったから。幸せだから。そして
もうこれ以上ないくらい大好きな高木さんをより好きになったから。

「西片、私も同じ気持ちだよ。」

「な、なんで俺の考えてることがわかるの?」

「わかってるでしょ?大好きだからだよ。」

「……///」

「顔赤いね。」

「赤くない!…///」

「明日の振替休日、よろしくね、家行くから」

「うん。」

文化祭も終わるといよいよ本格的な受験モードになるのかな。でも勉強だって、高木さんと一緒なら怖くない。そう思う。

第182話 完

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