からメシ 第154話 棚田の風景と虫送り
今年も虫送りの日がやってきた。
早朝から高木さんが俺の家にやってくる。
「今日は棚田みながらおにぎりも食べたいからちょっと早めに行くよ?西片。」
すると高木さんがリュックからお米を出す。
「ええっ!お米持参なの!?」
「うん。中山千枚田のお米だよ。せっかくだから田んぼ見ながら、その田んぼで取れたお米を食べようって思ってさ。」
「なるほど。虫送りの田んぼのお米か。」
「うん。いい考えでしょー。」
たしかにお米が取れた田んぼを見ながらおにぎりを食う。これは色んな意味で美味しいかもしれない。
「さて、ご飯炊けるまで暇だし。...セックスでもする?」
「暇だし、みたいなノリでするの良くないよっ///だいたい今日親いるし!ていうかセックスって言わないでっ///」
「親いるしって言っといて声大きいよね西片。」
「しまった。///」
まだ父さんも母さんも起きてきて...ないか。良かった。
「あははははは。顔真っ赤だよ西片w」
高木さんめー!
そんなこんなでからかわれているうちにご飯も炊ける。鮭焼いたりもしてたし
って
「鮭焼くんならしてる時間なかったよね!どの道!」
「あはははは。バレたかあ。」
「さ、おにぎり作っていくよ。西片。手伝ってくれる?」
「もちろん。」
「いっぱい種類作るからね。」
おにぎりを握っていく
「わけっこしたいから一つの味につき1個、大きなおにぎりにしよう。」
「わざわざわけっこ出来るように作るとかよっぽど好きなんだね。」
「二人でひとつのおにぎりを食べるから余計美味しく感じるんだもん」
おにぎりを作っていく
まず俺は梅をにぎる。でっかい梅干しをいれる。
高木さんは明太子をにぎっているようだ。なんとまるまる1本
「明太子好きだよね高木さん。」
「それもあるけどね。魚卵は子孫繁栄って意味があるからね。」
「……///」
次に俺がおかかをにぎる。先程高木さんが作った味噌汁の鰹節の出し殻を甘辛く煮たやつ。
つかこういうの作るんだから余計してる時間なんてなかったろ!高木さんめー。
すると高木さんは何もつけず白米を握る
「なるほど。高木さん。いいお米だからお米本来の味を楽しむためにあえて何もつけずに握ったのかな?」
「それもあるけどね。初めての時みたいにまた西片と何も付けずに生でセッ...」
「ワーワーワー///それ以上言っちゃダメっ///」
「あははははは。本当西片こういうの弱いね。」
続いて今度は高木さんが鮭をにぎる
「鮭はねー。……思いつかないや」
「無理やり考えなくていいから!///」
そして本日のとっておきは
マナガツオの塩焼きおにぎり。
鮭と一緒に焼いたのだ。
切り身を1枚贅沢に使い、俺が握っていく。
そして最後に高木さんが網で醤油(小豆島の醤油)を塗ったおにぎりを焼いていく。香ばしい匂いが薫る。焼きおにぎりだ。
朝食は鮭の切り身(おにぎり1個には使いきれなかった分と、朝食用に焼いたやつ)。余ったマナガツオの身で作ったお刺身と(マナガツオはまるまる一匹朝市で高木さんが買ったのを高木さんが調理した。)
カツオ節で出汁取ったお味噌汁(豆腐にネギ、こんにゃく、そしてマナガツオのアラも入れた)だ。
一方持ってくお弁当は先程のおにぎりに魔法瓶に入れたお味噌汁(ただしアラは食べにくいのでお弁当のお味噌汁には入れないようにした。)だ。わるくならないようおにぎりは冷蔵庫に入れて、出る時保冷剤と一緒に保冷バッグにつめるつもりだ。
ちょうど父さん母さんも起きてきた。
高木さん「お邪魔してます。すみません、キッチン借りちゃいました。朝食作ったので良かったら」
西片母「ありがとう高木ちゃん。まあ、豪華な食事」
西片父「朝からお刺身が食べれるなんて嬉しいなあ。」
9時過ぎ
朝食を頂く
「「いただきまーす」」
西片「美味しい!高木さん!このマナガツオの脂のノリといったら」
西片母「ほんと美味しい」
西片父「鮭も美味しいぞ」
高木さん「よかったー。あら汁も美味しいよ。お頭のところ西片のに入れといたから。」
高木さん「……すみません。どうしても西片に食べさせたかったんで西片にあげちゃいました。」
西片母「いいのよ。私らは」
西片父「むしろ息子はいいから高木さん食べたらよかったのに」
高木さん「いえ、...西片の食べてるとこがみたくて...」
西片「ありがと。美味しい!頬肉のところとか最高。……高木さんも食べて欲しいな」
西片父「息子もこういってる事だし」
高木さん「...それじゃあお言葉に甘えて……。あーん」
西片母「あらあら」
西片「なっ...///は、はずかしいからっ///父さんと母さんの前で!///」
高木さん「あははははは。顔真っ赤だよ?西片」
そんなこんなで軽く朝食を食べ終える。
ゆっくり支度をして昼前に家を出る。
高木さん、登山用みたいなでかいリュックにお弁当に、大量の飲み物に、積み込んでるからやたら重そうだ。
「高木さん。それ俺持つよ」
「え、私のリュックだし、私の荷物だからいいよ」
「お弁当も、飲み物も俺と高木さんのなんだからさ。それに、好きな子に重い荷物持たせて自分だけ身軽なの俺自身が嫌なんだ。」
「ありがと。西片。じゃあかわりばんこに持とうか」
高木さん。なかなか手強いな。俺のためって思ってくれてるのは嬉しいけど。
「いい筋トレになるからさ。持ちたいんだよね。むしろ。」
「わかった。ありがとうね。西片。つらくなったら変わるよ?」
こんなに炎天下でも、手を繋ぐのは辞められない。
恋人繋ぎでずっと手を繋いでいる。
バスに乗って虫送りの棚田に着く。
一足先に虫送りのスタート地点近くの棚田の所まで来る。
棚田を見下ろせる絶好の風景だ。流れる水の音。山の隙間を吹く風の涼しさ。草っぽい田んぼの匂い。そして、隣でしっかり手を繋いでいる愛しい人
なにもかもが心地いい。
「さ、西片。お弁当食べよっか」
「うん!」
小道の路端に腰かけ、お弁当を頂く。
それにしても暑いな。
「はい、西片。これ。」
高木さんが冷えたおしぼりを取り出す。
「ありがとう。」
「保冷剤で冷やしといたんだよ。顔とか拭いたら気持ちいいよ?」
「高木さんは?」
「西片が拭いてから拭くからいいよ」
「それでいいの!?」
「うん!」
「ていうか…むしろその方が私はいいかな。西片のエキスが染み込んでてさ。」
「そういうの恥ずかしいからっ///」
「あはははは。弱点は直らないね~なかなか」
「それより食べようよ。」
「そうだね~。あ、全部わけっこね」
「うん。」
「半分に割るの無しだよ。全部間接キスで」
「わ、分かってるよ。」
ちなみに何もつけてないおにぎりと焼きおにぎり以外は(米だけの味を楽しむため海苔もなし)外見で分からなくなっている。
「じゃあまずこれ頂こうかな。」
高木さんは海苔のついてない、つまりお米だけのおにぎりを選択した。
「高木さん、なんも付けてないのからいくんだ。」
「うん。やっぱり初めては何もつけずにしたいよね❤」
「言い方!///」
「あれー?西片は赤くなってるけど何を想像したのかな~?」にやにや
全く、高木さんめ
俺はこれにしよ。なんだかわからないけど
早速食べてみる。
「あ、これ高木さんが好きな明太子だったよ!美味しい」
「何もつけないのも美味しいよ。西片。お米だけの味でもしっかり美味しいや」
「そうなの?すごいね。」
「お味噌汁とも合うし」
高木さんが魔法瓶に入れたお味噌汁を飲む。これも回し飲みするつもり
「はい、じゃあ交換。」
高木さんの食べかけのそのままのおむすびを食べてみる
「ほんとだ!お米だけでもうまい!」
「あーでも明太子美味しいなあ。」
高木さんが俺の食べかけの明太子おにぎりを頬張る。
次、
俺は焼きおにぎりを選択、
高木さんが選んだのはなんだろう?
「梅干しだったや。暑い時このすっぱさはいいよね~」
「わかる。美味しいよね。この焼きおにぎりも美味しいよ!高木さん。香ばしくて」
「かえっこしよ。かえっこ」
梅干しおにぎりを食べる。
「美味しい。これ、いつも食べてるやつより美味しいかも」
「良かった。それ実はね、うちで漬けたやつなんだ。……ていうか私が漬けたんだよ」
「そうなの!?そっかだからおいしいんだ。めちゃくちゃ美味しいよ。」
「えへへ。ありがと。照れちゃうな。」
続いて
俺がおかか、高木さんが鮭を引いた
「このおかかも美味しい!高木さん、おかかの味付け上手いよね」
「ありがと。西片。鮭も美味しい。これにはお味噌汁合いそう。あ、そうだ、お箸持ってきたからお味噌汁の具はお箸でとって食べてね。」
高木さんがお味噌汁の具を箸でとって食べつつ、お味噌汁を飲む
「ありがと。高木さん。」
おれもお味噌汁を飲みながら具も食べる
何気に箸は一つ、至る所に間接キスする工夫が散りばめられているのが高木さんらしい
「あああ、出汁がきいてて美味しい。ご飯に味噌汁、たまらないね」
「ということは最後に残ったのは」
「マナガツオだね。」
「西片からどうぞ」
食べてみる。
とろけるような脂と旨味が押し寄せ、それに米が合うこと。
「美味しい!脂が乗ってて、それがめちゃくちゃおにぎりに合う。香ばしさもあって。……高木さんもぜひ食べて」
「それじゃあいただくね。……ほんとだ!美味しい!脂が多いから焼くと香ばしさが出るんだろうね。これ。」
そんなこんなで食べ終わる。味噌汁もおにぎりも完食。
お腹いっぱい。暑さも忘れるくらい美味しかった。
「あ、西片。口元にご飯ついてる」
「へ?」
ちゅっ
「た、高木さん///こ、ここ外だから!」
「ちゃんと周りに誰もいないの確かめてからしたから平気だよ~」
恥ずかしいけど。嬉しかったりする。
「美味しかったね。西片。」
「うん、高木さんが作ってくれたからだよ」
「西片も作ったよ?」
「そうかもしれないけどさ。あと、この田んぼで取れたお米を、田んぼみながら食べるってのが美味しいんだろうね」
「稲の匂いとか、谷に吹く風とか感じちゃったりしてね。いいよねー。こういうの」
「……でも、一番は。高木さんとこの景色をみながら食べれるから美味しいんだと思う。」
すると高木さんは俺の肩にもたれかかる
「私も。そうだよ。西片。……西片と一緒に食べるから美味しいんだよ。」
暑い中密着するとさらに暑いけど、それでも肩を寄り添わせていたい。そう思う。
「西片。今日は景色、目に焼き付けとこ。…大学行っても西片とは一緒だけどさ。この島からは離れちゃうでしょ?…なにしろこの島に大学ないし」
「倉敷だったらすぐ島に行けるけどね」
「すぐとは言うけど、結構かかるよ?時間。夏休みとか長期休暇なら容易に帰って来れる距離だけど、虫送りは普通の土曜日だしさ。」
「大学は取り方によっては土曜日授業あったりするし、場合によっては虫送りは大学生の時は行けないかもしれない。いつもの夏祭りは大学も休み期間だから行けるだろうけどさ。」
「そ、そっか。そうだね。」
「でも、また来ようね。西片。」
「うん。」
棚田の風景も風の感触も田んぼの匂いも草木のざわめく音も、一緒に食べたお弁当の味も心に焼きつける。
こういうのもいいなぁって感じられるのは、高木さんと一緒にいるからなんだ。高木さんだけは絶対に離さない。高木さんは俺の人生そのものだから。
そして、高木さんも同じ気持ちなのが俺にもわかる。
俺と高木さんは二人でひとつ。
「西片、水分取らないとだよ。いっぱい持ってきてるから。熱中症になるよ」
「そうだね。飲も。」
キンキンに冷えた麦茶が美味しい。
「たまらないね。麦茶」
「うん。この風景見ながら見る麦茶。最高だね。田んぼの匂い。いいよね。」
「でも、私が今感じてる、1番好きな匂いってなんだと思う?西片?」
「……?」
「西片の汗の匂い。」
「なっ……///」
「嗅がせてよ?」
くんくんくんくんと俺に鼻をつけて高木さんが嗅いでくる
「た、高木さん恥ずかしいし、くすぐったいからっ///」
「今人いないから恥ずかしくないよ~」
高木さんが俺に鼻をつけて思いっきり息を吸い込む
た、高木さんめ!恥ずかしい!
確かに人がいなさそうなとこ選んだけど
棚田でしかも今日は虫送りなんだから
いつ人きてもおかしくないだろっ
「西片、それにやられっぱなしで嫌なら、やり返していいんだよ?ほら、私の匂い嗅いでいいから。」
「そ、そんなことこんなとこで出来るわけ…///」
「してくれないの?」
高木さんが寂しそうな顔をする。
高木さんめ!せこいぞそれは!
右よし、左よし、前よし、後ろよし。
「どこにする?胸?腋?それとも、…」
「もっとハードル低いとこにします!」
高木さんの背中に鼻をつける。
すー。はー。
高木さんの匂いと高木さんの汗の匂い
……俺もこの匂いが一番好きだ。
「あー!大変!上空に高尾くんが!」
「ええええっ!嘘!まずい上は確認してなかった!やばいこんなとこ見られたら!」
「と思ったけど気のせいだったや」
「……」
「っぷ、あはははははは。西片の慌てようw」
高木さんめー!
「私ももっと西片かいじゃおうかな」
「高木さん、そろそろ止めとかないとさ……」
「えー。そんなー。…あっ、でもそっか。これ以上やったら…セックスしたくなっちゃうもんね。」
「せ、セックスって言わないでっ///」
「でも、西片、ここ出っ張ってるけど。これは何かなあ」にやにや
「……///し、仕方ないだろっ///好きな子と匂い嗅ぎあってたらこうなっちゃうのは///」
「ここではダメだよ。西片。…どうしてもってなら、薮の奥深くまで行って絶対人に見られないようにして…」
「し、しないからっ///しばらくしたら落ち着くからっ///」
そんなこんなでちょっと散策するとそろそろお焚き上げの時間に
「西片。今回も二人で一つの書こうよ。」
「うん。」
願いは同じ。
ただ、
「ずっと一緒に生きていけますように、じゃなくてさ。ずっと一緒に生きていく。って断定しようよ」
「お願いっぽくないけど」
「でも願望なだけじゃなくて絶対叶えるでしょ?決意表明にしようよ。なって欲しいじゃなくて、するんだ。っていうさ」
「そうだね。……二人で一つ。だよね。俺と高木さんは」
「うん。///」
私たち、西片と高木は絶対に、一生一緒に、一時も離れることなく、仲良く幸せに生きていきます。
生まれ変わっても一緒に生きていきます。
というふうにした。
もはやお願いじゃないけど
というか結婚式の時のセリフみたいになってるけど
でも。
「絶対叶えようね、西片」
「ああ。約束。」
「西片は私との約束絶対破らないもんね」
「高木さんだって俺に嘘つかないもんね」
「うん。だからこれからずっと、一生、一緒に幸せだよ。西片」
そして虫送りが始まる。
高木さんが転ばないように注意しながら。夕暮れの田んぼを下っていく。
長く続く松明の列の帯。夕暮れの田んぼ。
そして一緒に松明を持つ、松明に照らされる高木さん。
その姿がとても綺麗だ。…この風景を…この風景と高木さんを目に焼き付けておこう。
虫送りが終わる。
4度目の虫送り。最初の虫送りの時みたいにバスを待つ
「終わっちゃったね。西片」
「うん。でもさ。…また来ようよ」
「うん。」
バスが来る。でも高木さんは乗ろうとしなかった。
「西片。もうちょっといない?」
「…でもこの後もうバスないよ。」
「…お父さんお母さんに電話して迎えに来てもらうからさ」
「……わかった。」
バスをスルーしてすこし歩く
「西片。カエルの声が聞こえるね。あと虫の声。」
「落ち着くよね。」
「うん。やっぱ西片と出逢ったこの島が好きだな私。」
「うん。俺も」
「…でもね、西片。なによりも好きなのは。西片だよ。西片がいるから私は幸せなの。」
「俺も…///」
「こんなにこんなに好きなのに、毎日どんどんどんどん好きになっちゃう。西片。好きぃ。」
高木さんが抱きついてくる。高木さんから涙が零れる。
「ど、どうしたの。高木さん。」
「……あまりに好きすぎちゃって泣けてきちゃった。」
「高木さん。」
そういうと、俺は高木さんにキスをする。
ちゅっ。と唇を触れさせ離さない。
「ありがと。西片。」
しばらく夜の田んぼを、高木さんとしっかり手をつなぎながら眺めていた。
高木さんを絶対に幸せにする。改めてそう思った。高木さんと一緒に歩く人生こそが、俺の人生。
しばらくすると高木さんの家の車が来る
西片「すみませんわざわざ車出してもらって。ありがとうございます。」
高木さん父「西片君が謝ることじゃないさ」
高木さん母「娘がバス来てももうちょっと居たいっていったんでしょ?」
高木さん「そうだけどさ…。でもありがと。お父さん。お母さん。さ、一緒に後ろ座ろ。西片」
西片「うん。」
俺を家まで送ってくれた。
高木さん「じゃあね。西片。また明日」
西片「うん。また明日」
高校最後の虫送り。最高に楽しかった。
また高木さんと行こう。
それでいつか、高木さんと…高木さんとの子供と一緒に……行こう。
第154話完