からメシ 第142話 春風ダンス
春休みに入る。
高木さんとお花見に行こうかって話になった。
「高木さん、どこでお花見しよっか。やっぱ神社とかがいいかな?」
「うーん。たしかに神社は私たちのたくさんの想い出詰まってるし魅力的なんだけどさ。...結構あそこ人来るんだよね花見の時期。
ミナちゃんも終業式の時ユカリちゃんたちとお花見するんだ。って言ってたし」
「まだ、天川さんたちと打ち解けきってない感じなの?」
「ううん。違うよ。もう完全に仲直りしたよ。そうじゃなくて。……西片と二人っきりでお花見したいんだ」
「そっか。...でも心当たりとかある?」
「昔さ、中2のホワイトデーの時、福田の方で私の事追っかけて来てくれたの覚えてる?あの時、私と西片が会ったとこ、覚えてる?」
「うん。」
「あのミモザの花があったとこの奥に、ちょっと小さい空き地?みたいなとこがあって、そこに桜が植わってるんだよ。あそこなら誰も来ないだろうし穴場じゃないかなあ。」
「確かにあの辺、家すらないからね...」
「木に囲われてて、外からは見えにくいからね。」
「3年前のホワイトデーの思い出の場所でもあるし、いいかもね。」
「それじゃそこにしよっか」
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小豆島でも桜の満開の見込みと出た日
ギリギリ春休みといってももう4月。
ついに俺も高木さんも、学校始まる前とはいえ高校3年生となる。
そんな日に俺と高木さんは小豆島の北東部に桜を見に行く。
「西片のバイクで、2人乗りで行こっか。」
「いいけど、なんだかんだ片道30kmくらいの長距離になるからね、休みながら。急がず、安全運転で行くからね。」
「うん。分かってるよ。西片はあくまで移動手段として便利ってのと、私とツーリングしたいからバイクの免許取ったんだもんね」
「見てえんだよ……スピードの向こう側をよぉ!?とか言わないもんね。」
「あ、当たり前だろっ…///そんな危ないこと絶対しないよ!高木さんを一緒に乗せるんだし、絶対最初から最後まで高木さんに楽しんでもらうのが俺のスタイルだよっ///」
あれ、なんか恥ずかしいキザなセリフになってないか?
「つまりさ……俺はぁ、見てえんだよ。高木さんの究極の笑顔がよぉ!?ってこと?」
「ヤンキー漫画風に言わないで///」
「あははははは。顔真っ赤だよ。西片。」
「う、運転中はからかうの禁止だからね!危ないから!高木さんにもしもの事があったら...」
「分かってるよ。西片。私も同じ気持ちだから。西片にもしもの事があったら...って思うから」
高木さんも俺もヘルメットを被りバイクに同乗する
16になったとき、原付じゃなくわざわざ小型二輪免許とったのも、高木さんを後ろに乗せるため。
颯爽と、それでいてゆっくり安全に。小豆島の海沿いの道を走る。
「あったかいね。西片」
「もう春だからね。...高木さんと6度目の春か~」
「それもあるけど。西片があったかい。...西片と一緒にバイクで...西片にしっかりつかまって。……幸せだなあ私」
「俺も...幸せだよ。……この幸せを毎日ずっと続けようよ。……あ、毎日バイクに乗るって事じゃないよ」
「分かってるよ。毎日一緒にいるって事だよね。」
「そう。」
「……本当。あったかいなあ……。」
目的地にたどり着く
バイクを停止させ、バイクを押して空き地に止める。
丁度木が植わってないところがあり、そこが入口になってる。
そんな多くは無いが桜が数本植わってる。
「さ、まずは花を見ながらお弁当食べようよ。おにぎりと揚げ物、お味噌汁作ってきたよ」
「そうだね。ありがとう高木さん」
「いえいえ。作るのも楽しかったので。はい、お手拭き。食べよ食べよ。おにぎりは味全部違うから半分こしよっか」
「うん、いいね。いただきまーす。じゃあ早速半分に割って...」
「そうじゃないでしょ」
「へ?」
「半分食べて残しとく感じにしようよ。せっかくなんだし。私、西片の食べかけの方が美味しく感じるからさ」
「……///」
「あれ、まだ西片間接キスで恥ずかしがるの?普段舌絡ませたキスとかしてるのに?それどころか私達セックスだってもう何回かしたのにさ」
「セックスって言わないでっ///」
「あはははは。でもそれに比べたら、間接キスは恥ずかしくないでしょ?」
「そ、そうだけど。...慣れちゃうのも嫌なんだよね。……高木さんには一生ドキドキしてたいし」
「大丈夫。慣れてもドキドキはするよ。」
「じゃあ……あ、これおかかのおにぎりか。おいしい」
「そうだよ。お味噌汁取った時の鰹節の出し殻を甘辛く煮付けたんだ。あ、私は明太子だったや」
「高木さん明太子だったんだ?...高木さん明太子好きだよね」
「うん。好きだよ。そりゃあ西片のがずっと好きだけどねー」
「魚卵と比べるのやめてよ!悲しくなるから。」
「あははははは。でも、私は西片が何よりも好きだよ。家族や自分自身よりもずっと好き。…西片が好きだから、自分も好きになれてるけどね」
「そっか。…俺も高木さんが...な...なによりも……好きだよ///」
「知ってるよ。西片。西片が好きって言うのがまず、そういう事だもんね。...はい、半分あげるね、明太子おにぎり。西片のおかかちょうだい?」
「うん。」
「西片の食べかけだとやっぱ余計美味しく感じるや」
「は、恥ずかしいからそれっ///」
「あはははは。おにぎりはあと鮭と昆布味があるよ!あと揚げ物も食べてみてよ。鳥の唐揚げと、ウインナーフライ。チーズフライだよ」
「唐揚げおいしい!ジューシーで...ウインナーもプリっとしてて。チーズも程よくとろける感じで最高だよ!高木さん」
「ありがと。お味噌汁も飲んで」
「うん。あ、美味しい。なんというか、さっぱりする効果もあるのかな」
「そう。揚げ物多かったのでお味噌汁でサッパリ出来たらなと思って作ってみました。」
「高木さんも食べて。」
「うん。いただくね。」
「しかし、桜の花を見ながらご飯って美味しく感じるね」
「ちょっと違うかな。桜の花と西片を見ながらご飯だからこそ、私は美味しく感じるんだよ」
「……そうだね。……高木さんが作ってくれたお弁当を高木さんと一緒に桜を見ながら食べるから美味しいのかも」
「ありがと。西片。今日もとっても楽しいよ」
「お礼言うのはこっちだよ。ありがと」
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「「ごちそうさま」」
と、食べ終える。
「ちょっと食休みしたら運動しよっか」
「運動って...///」
「え、まさか西片えっちな運動だと思ったの?ここ屋外だよ?」
「ち、違うし///」
「西片がどうしてもって言うならもっと目立たない森の中とかでしてもいいけどさ」
「どうしてもなんて言わないから!」
「あははははは。……でもいいね。こういうの。草原に寝転んでさ、好きな人と手を繋ぎながら、桜の花とか、花びらが落ちてくるの見てぼーっとしてるのも」
「うん。」
しばらく高木さんとそんな感じで寝転んで空と桜を眺めていた。
「さ、ちょっと動こうか。腹もこなれてきたでしょ。...おにごっことかどう?」
「ち、ちょっと子供っぽいのでは...///」
「誰も見てないしさ。それに昔かくれんぼした時楽しかったじゃん。大人っぽいとか子供っぽいとか関係なく、楽しいことをしようよ。2人でさ。」
「じゃあ早速西片から鬼ね。抱きつかれたら交代で!」
「ちょ、ずるいぞいきなり!しかも抱きついたら交代って...///」
「きゃー!襲われちゃうー!」
「人聞き悪いこと言わないで///!」
「あははははは。西片になら襲われてもいいもん!」
「そ、そういうこと言ってるんじゃなく!」
「すぐつかまえるよ!元陸上部だぞ!俺」
「それだけ私に抱きつきたいってところかな。...西片。私をつかまえて、抱きしめて。」
意外と高木さんは素早い。
すんでのところでかわしてくる。
でも、いけるぞ
「高木さん!」
高木さんに飛び込む。
高木さんが倒れないように抱きしめる。
「...つかまっちゃった。好きにしていいよ。西片。」
「こ、攻守交替だから!///」
「えー、もっと。抱きしめて欲しいな。」
「た、高木さんが俺の事つかまえられたら、そうしたらいいでしょっ///」
「じゃあ絶対つかまえるね。」
「ふふふ、甘いよ高木さん。元陸上部の機動力をなめすぎだよ」
「でも中三の3~4ヶ月だけじゃん。それに前は毎日走り込みしてたみたいだけど最近してないよね西片。最近の西片お腹のお肉がちょっとぷにぷにしてて私のいい安眠枕だよ?」
「えええええ」
「そんな西片のお腹も好きだけどね。私、低反発枕も高反発枕も両方好きなんだ。」
「枕にしないでよ///」
「あははははは。喋りながら走るからそろそろ苦しいんじゃない」
「なっ」
たしかにかなり息が上がってる。これも作戦だったのか
高木さんめ
「追い込んだよ!西片。」
「まだまだ!」
瞬発力で、高木さんを何度もかわしていく
高木さんを交わした瞬間、高木さんが体制を崩す。
「あっ...」
俺は高木さんを強引に引き寄せ、下敷きになるように倒れ込む!
痛っ
尻を打ってしまった
「大丈夫?西片。怪我は...」
「だ、大丈夫。草原がクッションになったみたいで......1対1で引き分けかー」
「ううん。これは西片の勝ちだよ。私を庇って。西片の方から抱きついたんだから、私が抱きついたカウントじゃないからね。」
「え、いいの?」
「うん。それに……今いっぱい抱きつくから!」
高木さんが覆い被さるような形で俺をぎゅーっと抱きしめる。
高木さんの匂いが鼻に充満する。
ちゅっ
高木さんが俺にキスをする。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅーっ
「好きっ❤好きっ❤大好き❤西片っ❤」
何度もキスをする。
「西片も...キスしてくれたら嬉しいな」
「……うん。///」
「高木さん。...す、好きです///」
ちゅっ
「もっと。」
「だ、大好き❤」
ちゅっちゅーっ
「もっとお願いっ❤」
「好きだっ❤高木さん❤」
ちゅーっ
まるで口と口が繋がってるみたいにずっと離れずにキスをする。
「西片。西片。にーしかたっ。」
「なに?」
「呼んでみただけ。ダメかな?」
「...いいよ。いくらでも呼んでよ……///」
「西片西片西片西片にーしかた。大好きっ❤」
そんなこんなで草原で抱きしめあいながら、見つめあったり、キスしたりしていた。
「あ、西片の…おっきくなってるね?」
「そ、そりゃ……す、好きな子と、密着してちゅーちゅーしてたら...こうなってしまう訳で」
「そんな私に入りたいのか~。……する?あっちにいい竹薮あるしさ。」
「しないよ!いい竹薮ってなんだよだいたい」
「あははははは」
そんなこんなで15時前くらいになる。
「たしか、西片、暗くなってからバイクはダメって言われてるし、そろそろ帰ろっか」
「そうだね。片道30kmくらいあるし、片付けして帰ろう。」
荷物を片付けてまた、二人ヘルメットを被り、バイクに乗る。
春風を感じながら下り坂をゆっくり下る。
「やっぱあったかいや。西片」
「そうかな。そんな体温高い方じゃない気がするけど」
「体温だけじゃないよ。…西片ってあったかいよ。」
「…よくわからないけど」
そういうと、高木さんが後ろから抱きつく手がより一層ギュッと感じられた。
「そっか、2人乗りってだからいいんだ」
「どうしたの?高木さん?」
「一緒に走っていくってことでしょ?二人乗りって」
「怪我とかしないようにゆっくりでいいからさ。ずっと二人乗りしてようね」
「……バイクは高木さんの家までだよ?」
「そうじゃなくてさ、私たちの人生のことだよ」
「……うん。そうかもね。」
途中オリーブ公園でオリーブソフトを食べたり
休憩も挟みつつ、ゆっくりと高木さんを家まで送った。
ついに高校三年か。
俺は大学もその先も、ずっと高木さんと一緒にいるけど
でも、高木さんとの高校生活はもうこの1年だけだ。高木さんと一緒に中学生に戻れないのと同じく。
だから、めいっぱい、楽しもう。高木さんに笑って貰えるようにしよう。ずっと。
第142話 完